ゲーマー

「ねぇ、そろそろどっか行こーよー。」

「ちょっと待って、これ終わったら。」

(・・・・終わらないじゃん、絶対。)

あたしの彼は、ゲーマーだ。

あたしもゲームは好きだから、初対面から意気投合して、今に至っているのだけども。

デートはいつも、彼の部屋。

最初は一緒にゲームしてても、あたしはゲーマーという程ではないから、そのうちに飽きてしまう。

ゲームって、意外に疲れるし。

(また1日ゲームかな。)

諦めて立ち上がるとすぐ、

『どこ行くの?』

と、彼が目で訴えてくる。

「ちょっと、コンビニ。」

そう言うと、彼はまた画面に目を戻す。

あたしは、スマホだけを持って部屋を出た。


コンビニで、自分の分と彼の分のアイスを買って、すぐ戻るつもりだった。

でも、店に入ったとたんに、久しぶりの友達に偶然バッタリ。

立ち話でお互いの近況や彼氏の愚痴などお喋りしている内に、気づけば1時間以上経っていた。

「やばっ、もう戻らなきゃ。じゃ、またね!」

彼女は慌てて帰っていった。

なんでも、だいぶ束縛やさんの彼氏らしい。

あたしの彼とは、大違い。

少しだけ、彼女を羨ましく思いながらも、あたしは当初の予定通り、自分の分と彼の分のアイスを買って、彼の家に戻った。


(・・・・あれ?)

部屋に戻ると、驚くほど静かだった。

見れば、コントローラーを床に投げ出したまま、彼が膝をかかえてうずくまっている。

「どうしたの?具合でも悪いの?」

とたんに、彼が膝歩きで器用にあたしの所に駈けてきて、腰を思い切り抱き締めた。

「・・・・良かった。」

「なにが?」

バトルの途中でゲームを放棄したのか、テレビ画面には【Game Over】の文字。

「全然良くないじゃん、全滅してんじゃん。なにやってんの?」

あたしの腹に顔を埋める彼氏を引き剥がして、買ってきた彼の分のアイスを押し付ける。

「とりあえず、食べよ。溶けちゃうから。」

「・・・・うん。」

あたし達は、静かな部屋で並んで座って、アイスを食べた。

「これ、買いに行ってくれてたの?」

「うん。そしたら、友達に会っちゃってさ。ちょっと話し込んじゃった。」

「そっか。」

食べ終わって、残った棒を見ながら、彼が言った。

「もう、戻って来ないんじゃないかって、思ったんだ。」

「は?」

「ユイが、このままどっか行っちゃうんじゃないかって。」

「んなわけ無いじゃん。バッグ置きっぱだし。」

「・・・・そっか。」

照れたように、彼が笑う。

いったい、どう考えたらそんな結論に辿り着くんだか。

「ユイがいないと、ダメなんだ、俺。」

「なんで?ゲームしてるだけなら、あたし、要らなくない?」

「ダメなんだ。」

彼が、真っ直ぐにあたしを見た。

「ユイと会う前は、一人でも全然平気だったし、むしろ一人の方が良かったのに。・・・・今は、ユイがいないと、全然楽しくない。」

「隣で、見てるだけなのに?」

「うん。」

「時々、寝ちゃうのに?」

「しょっちゅう、だろ。でも、それでも、だ。」

なんだろう。

すごい、じわるんですけど!

あたしこれ、ゲームに勝った、ってことだよね?!

ゲーマー彼氏が、ゲームよりあたしを選んだ、ってことだよねっ?!

嬉しくなって、あたしは彼に抱きついた。

「見ててあげるから、ゲームしなよ。負けたままじゃ、スッキリしないでしょ。」

「うん。」

満面の笑みで、彼が頷く。

弱いんだなぁ、あたし。

この笑顔に。

だから、つい、甘やかしちゃう。

でも。

まぁ、いっか。

それでも彼が好きだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る