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金城ら友人達との関係はすこぶる気まづいものになったが、それでも私は彼らと交流を続けており、彼らは水彩で風景画を描く私を、決して軽蔑の目で見ることなく迎えてくれた。私は、1人では耐えられなかったのである。珍しく、人間的な感情であった。
気がつくと高校3年生であった。相変わらず描いていた風景画を、そういう「マニア」に売りつけ、多少の名声ーもちろん望まないーを得ていた私は、日本天ノ川美術大学へと入学を志望することとなった。
日本天ノ川美術大学は、国内で1、2位を争う名門美術大学であり、校章には「七夕物語」に出てくる天女の羽衣を筆に変化させ、空に絵を描くデザインを使用しており、学校の中庭には、それをモチーフにした銅像が鎮座していた。歴史も古く、明治の中頃に開校したこの学校は、大正天皇が入学式にご来賓としてお越しになられたこともある。
進路担当の教師の話では、
「共通テストは、殆ど意味なんてない。大事なのは、実技だ。できるだけ自分の良い部分を出した絵を描いて、それを送れば受かる」
そうなので、私は、今一度自分の良い部分について考えることにした。
…………………。
いくら考えても、何も出てこないのである。むかしの、薄味のナルシシズムは、自分への自信は、才能は、美的感覚は、とっくに消え失せていた。
そのとき、猫が少しだけ鮮血を吹き出したのだが、もう既に予知されていた行動だったため、驚く事はなかった。とはいえ、猫の吹き出した鮮血に、さながら欧州の大貴族が建設した噴水の様な優美さを見出せたのは、少しだけ、私に希望を与えることとなった。
金城と佐竹に、試験の話、そして、思い切って猫の話をした所、
「試験は、お前のやりたい事をやれ」
と、彼らは自信に満ちた声で言った。猫については、案の定と言ったふうにそこまで大事として扱われず、私もそうされることを望んだ。
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