12
やってやろう。気づけば、私は人並みの希望を持っていた。
猫は相変わらず無愛想に浮遊し、道端に落ちて腐敗した、鴉の死体にも何も感じず、ただ描きたくない絵を描き、売る毎日。しかし、それでも希望を持てたのだ。
やってやろう。
筆を握る。大学から出された課題のテーマは、「自由」だ。
この白いキャンバス、これを自由だと見立てよう。いや、正確には、「自由だ、自由だ」と何も考えず賞賛する人々だと見立ててみよう。
以前の私のような、真っ白な世界に1点だけ、しかし存在感を放つ、異質で、歪で、不安な黒。その黒を作るのだ。そして、そこに潜めた希望を、描いてやる。
情熱と血の赤、憂鬱と絶望の青、虚無感の緑、その他諸々全部、思いのまま色を投入し、混ぜ続けた。
これは、自画像だ。
黒が完成し、筆に塗りつけ、いざキャンバスへと向かうその時、電気の着くようにパッとそんな考えが浮かんだ。
私は、その考えに躊躇することなく、勢いよく、しかし絵の具が飛散しないよう塗った。
…。
…。
…。
白いキャンバスに塗りたくられ、黒は醜く歪んでいた。まるでここに居たくないように。その中に、ひとつ、小さな白い点。なるほど、こいつが自由か。
傑作であった。私が今まで描いた中で、1番の傑作であった。ある意味、これは写実的であった。
他の受験生と課題絵の共有をする事は禁止されていたので、その絵を見せることは無かったが、「傑作ができた」とだけ彼らには伝えた。
絵を提出し、しばらくしてから合否の通知が届いた。
上の者を 不合格 とす。
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