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小学校へ入学後。1週間で私は狼狽することになった。その理由は、宿題。文字にしてしまえば簡単だ。たった2文字で表せる。しかし、宿題が私から奪ったものは、貴重な時間であった。私は、勉強は出来たが、いかんせん、かなり進みが遅かったのだ。難しい問題は、解いて見せよう。但し、代金3時間を頂戴致す。私は、絵を描く時間を、尽く削る羽目になった。勿論、抵抗はした。個性的な絵を描く私にとって、普通であることは、つまり、オリジナリティを得ず、1つの平均的な形にはまるという事は、恐怖であった。「普通」に染まってはならぬ。「普通」を知ってはならぬ。そのうえ、幼稚園のあの時、両親の顔を描けと言われた時の様な屈辱は、もう二度と感じたくなかったので、勇気を出して発言することにしたのだ。帰りの会の時間が非常に長く感じられ、教師の話は、なぜか、こういう時に限って頭に入ってくるものだ。どうやら、これから雷雨になる予報なので、急いで帰るように、という感じの事を言っていた。廊下を見ると、他クラスの人達が談笑しながら玄関へと向かっている。気の遠くなるほど長い教師の話が終わった。

「さようなら」

皆が一斉に談笑をし始めながら、さっきの他クラスの人のように帰り始める。私は、目下の木製の床を見つめ、意を決して教師の所へと歩き始めた。距離にして、たかが数メートル。

1歩、周りの話し声が、一気に遠くなった。

1歩、ここに来て、私が何故このような事をする羽目になったのかと、迷い始めた。

1歩、幼稚園のあの時を思い出した。

1歩、絵を描くという大義を思い出した。

1歩、教師の元へ着いた。

「先生、」

ほぅっ、と息を吸った。

「なぜこのような事(この時の宿題は漢字の書き取りであった)を、強制的にさせるのですか。僕にはその理由が分かりません。」

返ってきた返答は余りにも簡単であった。

「覚えなければ、ならないからです。」

なぜ、という言葉を出せるほど、私は勇気を持っていなかった。「覚えなければ、ならないからです。」という言葉が、頭の中でメリーゴーランドのように回り始めた。それに、ああ、なぜだろう。私は、この答えを知っていたのかもしれない。徐々に、メリーゴーランドはスピードを増していく。そうか。私は、もしや。更にスピードが増す。落ち着きを取り戻そうと、一旦教室を出て、歩き始めた。周りの談笑は、未だに雑音で、頭の後ろでくもぐって聞こえるだけだ。靴を履き替え、家路へと着く。雨が強まってきた。上を見ると、グレーの画用紙に所々黒を塗ったような、下手くそな絵のようであった。そして、さっき気づいた疑念は、確信へと変わった。私は、「この答えを予想していた」。つまり、"普通を知ってしまった"のだ。

これは、小学校1年生の頃である。なんと大人びている小学生であろうか。悲しいことに、自分でもそう思う。つまり、まだ普通を忘れられていないのだ。この"普通を知ってしまった"という事実は、やまない雨を降らす雨雲として、私の小学校生活を曇らせた。

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