社長が口輪をされる話

「へえ、これがあの武装探偵社の社長かよ。なんだ簡単に捕まりやがってたいしたことねえんだな。ざまあねえ。他の奴らも捕まえられじゃねえか」

「簡単ですよ」

 げひた笑い声が狭い部屋の中で満ちていた。両手を縛られ動けない状況。福沢は酷く冷めた目をして取り囲む男たちと目の前の男を見ていた。で、どうします。お頭と男の一人が目の前の男に聞いている。細身で上質な服を着ているがどうにもこうにも性格の悪さがにじみている男で下らぬというのが福沢の感想であった。

 はあと出ていきそうになるため息を飲み込んでもう一度周りを見ては、その目元を少しだけ歪めていた。

「何だ。随分エラそうな面をしているな。自分の立場分かっているのか。ええ」

 男が挑発的に福沢へ唾を散らす。無言で貫き通しながら周囲を確認した福沢は一つ頷くとともに足に力を込めていた。動き出す。まずは近づいていた目の前の男、その首筋に向かい噛みついていく。

 一瞬のうちに鋭い牙を皮膚に食い込ませれば野太い悲鳴が上がる。周りの男たちのうち数人が飛び掛かってくるのを確認し口を離した。体を捻り回し蹴りをくらわしていく。一人はヒットし、三人はその衝撃と蹴り飛ばされた男の体によって吹き飛ばされている。地面に足がつくと同時に前方に飛び出て傍まで来ていた男の顔面に膝を叩きつける。その後腹を蹴って後ろに放り飛ばし、その勢いで体を反転させ、近くにいた男の顔を蹴る。

 さらに幾人か蹴り飛ばしあたりを見た。まだ多くの男たちが残っている。だが福沢の口元には笑みが浮かんでいた。




 その数十分後。

 手だけでなく両足をしばられ、そして口には口輪をつけられた状態で地面に転がされていた。手間かけさせやがって、このくずがって男たちがさんざんに蹴りつけた後、去っていく。

 静かに目を閉じて数分後、福沢はその目をそっと開けていた。にいと上がる口元。捕まえられた部屋の外から騒がしい音が聞こえている。悲鳴のような声。暫くざわついたのが続き、大人しくなってきたころ閉じられた扉が開いた。

 そこから覗いたのは蓬髪の髪。大丈夫ですかと柔らかく問いかける声。微笑まれて福沢はああと答える。

「特に問題はない」

「その割にはボロボロですけど。と言うかどうして口輪なんてされているんですか。奴らの趣味です。まあ、確かに似合いそうな顔をしてますけど」

「そんなわけあるか。奴らのボスに噛みついてやったからだ」

「ああ。道理で首に包帯を巻いているなとは思っていたんですよ」

 くすくすと楽し気に太宰が笑っていく。流石なんてとても無邪気に福沢を見るが、その福沢は首を捻りそうでもないと息を吐いている

「力加減を間違えてしまった。動けないぐらいには怪我してもらおうと思ったのだがな」

「普段やらないとその辺の加減わからないですものね。でも別に暴れなくともよかったのでは。社長の役目はここでこうして捕まることでしたし。それとも私の計算間違っていました」

 太宰の首が傾く。そうしながらほんの少しその目元が寄っていた。

「否、お前の計算に間違いはなかった。ただ少しばかり強そうなものが多くてな。充分お前で対処できたと思うが、つぶせるならつぶしておいた方がいいだろう。簡単に捕まりすぎて体力的に余裕があったからな。これからの動きにも支障はない」

「なるほど」

「それよりお前の方はどうだ。うまくいったか」

 鋭く福沢はとう。太宰の口がつり上がって最高の笑みを浮かべた。

「予定通り。奴らの連絡の取り方は分かりました。計画は順調です。私はこのままここで他の奴らに連絡を送りますので、貴方は」

「奴らが悠長に構えているうちに一つずつ確実につぶしていく。

 では行ってくるとするか。頼んだぞ」

「はい。お任せください

 つながっていた縄はいつの間にやら外れていて福沢は立ち上がっていた。からんと口輪が地面の上を転がる

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