モブ軍人視点

 一昨日、俺は軍警の中でも特殊な任務に就く秘匿部隊に部署を移した。わずかに噂で聞いたことがある程度の部隊で上官から命じられた時は夢か何かを見ているのかとそう思ったものだ。

 今日はその部隊に所属して初めての仕事になるのだが、メンバーの中に部隊の人間ではない外部の者がいた。長身の男二人。一人は着物姿の壮年でもう一人は砂色の外套を着た年若い男だ。どこかで見た気がする男たちだったが、その理由は部隊の者に名前を教えてもらって分かった。

 福沢諭吉に太宰治。俺は直接はあったことないが、軍警の中で何かと話題に上がるあの武装探偵社の社長と社員だ。何故お二人がいるのか分からなくて頭の中疑問符を浮かべる。解消してくれたのは部隊の隊長。

 今日の仕事は政府の関係所に何度も襲撃をかましている組織を捕まえること。襲撃されたうちのいくつかから機密情報が盗まれており、それを取り返すために俺たちが組まれた。なのになぜか敵の本陣をたたくのは武装探偵社のお二人がする。そういう話だったのだ。

 俺たちは何をするって。俺たちはお二人が戦っている周りを囲み、敵が逃げ出したり、民間人が入ってこないよう見張るのが仕事だ。

 なんだ。この仕事は。思ったが言わなかった。でもどうしてとはいってしまっていた。

「何で俺たちでなくお二人なんですか。武装探偵社のお噂は聞いていますが、しょせんは民間人でしょう」

「まあ、そうなんだが……、お前もしかしてあの二人、じゃなく太宰さんの異能を知らないのか」

「へっ。まあ、はい知りませんけど。俺武装探偵社には縁がなかったもので」

 わりとみんなかかわっているらしいんですけどと口にした俺を何故か部隊の者は目を見開いてみていた。そりゃあ大きく目を見開いて引いたようなそんな様子があった。えっと声が出ていく。可哀想になんてそんな声が聞こえた気がした。気のせいだよな。

「説明してもいいけど実際見た方が早い。作戦開始まで待ってろ」

「はあ」

 何が何だかわからないでいる中、先輩たちはみな知ったり顔で頷いて大人しくしておけなんてそんなことを言う。視界の中には探偵社のお二人の姿が映っていた。今回の隊長となにやら難しい顔で話し込んでいる。不思議なことに話しているのは社長である福沢さんの方ではなく太宰さんの方であった。福沢さんは太宰さんの後ろで刀を見ている。剣士だとそういえば聞いたことがある。だが刀に思い入れがあるタイプではないのだろう。あれは軍が用意している奴だ。何本か見てこれというものを決めていた。太宰さんが話しかけ、頷いている。

 体長が作戦開始前の号令を始めた。動き出す中隣に来た先輩が内緒話をするようにこそっと話しかけてきた。

「いいもん見られるぜ」

 にいとあげられる口角。危険な任務に就くはずだがずいぶん余裕を感じられた。つい二人の方を見ると二人は何かを話しているところだ。そこにも緊張している様子はなく少し笑った後、太宰さんが福沢さんの肩に飛び乗っていく。えっと俺が目を丸くしてしまう中で、福沢さんはしっかりと太宰さんの腰を掴んで、そして敵がいるだろう建物に突撃していた。

 あたりを取り囲みながら俺はどういうことだとと近くの先輩を見る。やはり答えてはくれずまあ、見てなというように顎で二人が突撃していた建物を指している。


 数分後、俺は部隊の者が慌ただしく動く中で呆然としてしまっていた。

 作戦は無事成功。そして俺はなぜ先輩方があんな態度をとったのかしっかり分かってしまった。

 お二人が突撃して数分後、建物が爆破し消え去っていた。敵の異能によるものなのだが、敵が無傷なのはまあ当然なこととして、お二人さえも無傷で立っていた。太宰さんを抱えたまま福沢さんは敵の集団の中に飛び込んでいく。異能らしきものが二人を襲うがそれは二人傷をつけることはできなかった。二人の前で消えていく。攻撃が利かないのに慌てふためくのが遠くから囲んでいるだけの俺にもしっかり分かった。そして銃弾二人に打ち込まれるが、それをすべて交わして福沢さんが駆け、敵集団の中に飛び込んでいく。近接戦になったところで勝負は殆ど一瞬。人一人抱えているとは思えない動きで敵を蹴散らし、気づけば戦いは終わっていた。

 静まり返る周り。もういいよと福沢さんに抱えられた太宰さんが合図をすることで部隊が近づいて敵を拘束しに行く。本来なら俺もその中に混ざらなくてはいけないのだが見た光景が衝撃過ぎて動くことができなかった。立ち尽くしてしまう俺に先輩たちは優しかった。

 みんな一度は通る道だ。あれで驚かないやつはいない。動けるようになってから来いと言ってくれていたのだ。

 しばらくしてから作業に混じった俺に先輩方は次々と声をかけてきた。いうことはみんな一緒で凄かっただろうであった。凄かったと頷くことしか俺はできなかった。一人の先輩が何故だがやたらと鼻を高くして長々と語ってくれた。

「だろう。太宰さんは異能無効化の力があるから広範囲の異能だったり、強力なものに対しては必ず呼ばれるんだが、その時にはああして福沢さんも呼ばれるんだ。太宰さんは純粋な戦闘力に関しては俺たちよりも劣っているとみてもいいぐらいだが、福沢さんは見てわかる通り怪物だ。ああして福沢さんが太宰さん抱えて戦えば二人に異能は効かず、敵もあっという間に殲滅できる」

 ほううと頷く横でついお二人の様子を見てしまう。お二人は部隊とは離れたところでお互いのケガを確認しているようだった。特に福沢さんの方が太宰さんの体をじろじろ見ている。大丈夫だというように頷いていたかと思えば、おもむろに太宰さんの腰を両手でわしづかんでいた。何してるんだと驚いてしまうが掴まれたはずの太宰さんは驚くことなくあきれた目をしているように思う。ため息をついていなかっただろうか。

 仲良さげに話している。何故か福沢さんが太宰さんの二の腕を触っている。太宰さんが触らせているようだった。自分のことでもないくせにやたらと自慢げに話している先輩の声を聞いてはいるものの二人から目が離せない。やたらあの二人近くないか。上司と部下の距離かあれは。少なくとも俺のところはあんな距離ではなかった。

「どうした」

 俺の視線の動きを不思議に思ったのか先輩が問いかけてくる。先輩の目も二人、じゃなくて太宰さんの方を見ていた。

「もしかして惚れたんじゃないだろうな。指揮もまだされてないのに」

「いや、え、男になんて惚れないでしょう。しかも指揮されてないのにって何ですか」

 再び福沢さんが太宰さんの腰をわしづかんでいて何やっているんだと驚いたが、それよりも先輩の言葉の方に目をひん剥いてしまっていた。何を言われたんだ。先輩だというのについ変なものを見る目で見て、そして思いっきり引いた声を出してしまった。

 先輩は真顔だった

「そりゃあお前太宰さんに指揮されて惚れたやつは何人もいるから。あの人の指揮は本当凄いぞ。色んな奴の下についたものだがあの人ほど完璧な指揮をした人はいない。 

まあ、でも怖い番犬いるからやめといたほうがいい。俺みたいにあの人と仕事できる回数がぐんと減る」

 お前の話かいとつい口から出そうになった。というか指揮で惚れるって変態か

「なんすか、それなんでそんなことで惚れるんですか。変態ですか」

 しまった。こればかりは我慢できなかった。言ってしまった。気を悪くされてしまったらどうしようかと考えたところで先輩は気を悪くした様子はないがなぜか変なものを見るような目で見られている。

「なんだお前、最高の指揮されて指揮官に惚れたことないのか」

「は。ないですけど」

「へえ、変わってんな」

「ええ」

 変わっているのは先輩では思ったけど俺は賢いので言わなかった。


俺本当なんでこの部隊に来たんだろうって思ってしまったりしたけど、その数か月後最高の指揮のもと作戦を実行しものの見事に惚れてしまったので素質があったのだろう



 

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