異能者を掴まえる二人





「異能者の捕縛ですか」

「ああ、何でも国の軍事機密を盗み出されたらしくてな。その相手を捕縛して欲しいと」

 ことりと太宰が首を傾けるのに福沢が頷く。その目元には深い皴が刻まれていた。険しい顔をして睨みつけるような目になっているのに、太宰はそんな事は気にせず顎に手をあて言われた内容について考えていた。

「ほう。猟犬等がでばってきそうな案件に思いますが、私達に依頼が来たのですか」

 どうしてですと太宰の褪せた目が問いかける。もう一つ眉間に皴が増えた。頷く福沢の声は低くなった。

「ああ。何でもお前の力が必要みたいでな」

「私の力? それほど厄介な異能と言うことですか」

 もう一度首を傾けた太宰の声も低くなった。なんだか嫌な予感がしますねと口にするのに福沢は深く頷いていた。

「恐らくそうなのだろうな。詳しく聞こうと思ったが一方的に切られて終わった。後ろが慌ただしかったから後始末に追われていたのだろうな」

 ちっと福沢から舌打ちが落ちる。太宰は肩を上げた。ああ、そう言えば真夜中襲撃事件があったそうですからねと口にするのに少しだけ福沢の目が見開いた。その影響で眉間の皴が少し消える。何で知っているのだ。と見つめられるのには答えず太宰は一つ背伸びをしていた。それと共に聞く。

「急いだ方が良さげですね。敵の居場所は分かりますか」

「ああ。追跡して居場所までは把握しているらしい」

「了解しました。では早速行って参りますね」

 いつもはだらだらと仕事をしているというのに、素早く立ち上がる体。荷物をまとめ、部屋を出ようとしているのに待ってと福沢が慌てて呼び止めていた。

 どうしましたと不思議そうに見つめてくる太宰を福沢が睨んでいるように思える目で見つめる。ふぅと重い息を吐いて福沢も立ち上がった。

「私もいく」

「え、社長もですか」

 その口から出た言葉に太宰の目が丸く見開かれた。首を傾けてどうしてと言葉にする。わざわざ社長が出向くことはないんじゃないですかと聞いているのに福沢は強い力で首を振り、私も行くと再度口にしていた。

「今回の件はすべて極秘でと頼まれている。こちらの社員にもお前以外には伝えないようにしてくれとの話だ。馬鹿げてはいるが、そう言う依頼で頼まれたのであれば従った方がいいだろう。だから他の者を同行させることはできないのだ」

「それは分かりますが、私一人でも大丈夫ですよ」

 福沢の声はその時のことを思い出したのか少しだけ苛立っていた。腹立つがとはっきりと口にしているのに、まあ、そうだとは思っていましたけどと、太宰はあっさりと言い首を傾ける。問題なく終わらせてきますと告げる太宰を見て福沢はため息を吐いた、。

「バカを言うな。何があるか分からないのだ。一人でいかせられるわけないだろう。私もいく」

「はぁ。了解しました。」

 これは決定事項が。福沢が強い口調でそう言い切ったのに、大丈夫なのになと首を傾けて太宰は頷いていた。




「これは、これは。いやぁ。良いですね。火力で殴ると言う感じで」

 爆音が轟く港倉庫の一角、太宰は暢気に笑っていた。彼が隠れているテナントがどんどん銃弾に打たれて穴だらけになっていく。少し離れた隣からは言っている場合かと福沢の声が聞こえてくる。その間にも止むことなく振り続ける銃弾の嵐。

 二人の目が銃弾の中心、今回二人が掴まえに来た相手を見る。相手は重火器を凄い数手にしており、何にあててもお構いなしと打ち続けていた。連発用の銃で弾がなくなる気配もない。

「一応聞いておくがこれは異能ではないな」

「ええ、見てわかる通り普通の銃撃ですね。てっきり異能攻撃で来るかと思ったのですが」

 攻撃を仕掛けた直後、銃撃戦に持ち込まれた二人。撃ち込まれる弾から隠れながら福沢が問う。答えた後に首を傾ける太宰。声は暢気そうなものであるが、その顔は真剣そのものだった。

「ふむ。彼奴の異能は分かるか」

「いえ。見たことない顔なので恐らくは外つ国の異能者でしょう。各国の犯罪者のリストには載っていない顔なので最近までは表だったことはせず潜んでいたのでしょうね。

 その手の輩は少々厄介ですね。最近になって犯罪に手を染めたのならまだいいですが、そうでなければ勝ってる自信ができたから行動に移しているわけで、馬鹿ならいいけど、馬鹿じゃなければ相当な強さですよ」

 太宰がため息をつきながら言う。やはり面倒な仕事でしたねとまで言うのに福沢はそうだなと頷いていた。

 その間にも続く銃撃。いい加減止んでもよさそうなものだが止む気配はない。隠れていた福沢の体が動き出す体勢を作る。おやっと太宰が福沢の方を見た。

「一先ず近付いてみる。お前は敵の異能の分析を頼む」

「近付くとはこの銃弾の嵐のなかをですか」

「ああ」

 きょとんと瞬く目。正気ですかと言う言葉を言う前にすでに福沢は動いていた。物陰から飛び出して駆ける。銃弾がすべて福沢に集まるが、縦横無尽にかけてそれらすべてをよけていく。そして男の元へと迫る。

「ヒュー流石。彼処まで近付いたらそろそろ異能が」

 軽く口笛を吹く太宰。なるほどねと口角をあげながら、太宰の目は男を見ていた。福沢との距離を測りながら、次の出方を伺う。すでに銃撃戦では不利な間合いにまで福沢は入っていた。念のためにと持ってきていた刀を抜かずに振り上げる。なにをすると見詰めるのに、男は銃を構える。福沢の刀が男にもう少しで触れると思った時、福沢の体が何かに弾かれた様に後ろに飛んでいた。その瞬間を狙ったように銃弾が撃ち込まれる。

「社長!」

 思わず声を上げて壁の外側に身を乗り出していた。すかさず襲ってくる銃弾。隠れながら男の元を見る。動く塊が一つ。福沢が隠れていたところに戻ろうとしていた。男が気付き、銃弾がその姿を追いかけるが、捉えることはなく福沢はもう一度元の位置に隠れた。

「大丈夫でしたか」

「ああ。少しかすっただけだ。それより今見たか。」

 すぐに太宰が聞くのに帰ってくる声はいつもと変りないものだった。肩から血が流れ、少々呼吸は早くなっているが、気にする必要を全く感じさせない。太宰から口笛が出ていく。銃弾が一旦止んだ。

「相手に触れたようにも見えましたが、どうでした」

「否、触れる前に何かに弾かれていた」

「なるほど。そりゃあ、私が必要になるわけですね」

嫌になりますねと太宰が吐き捨てる。再び爆音が聞こえ始める。異能は消せても実弾は消せないのだけどねと男を見ながら言うのに、福沢の目は男と周囲を見てから太宰を見ていた。

「私が囮になってお前が近付くか」

「それ以外方法はなさげですが……、あの男撃つ瞬間を狙っただけで、別に異能を張りながらも攻撃を出来そうなんですよね。至近距離まで近付けばこちらにも気付くでしょうし」

 提案するものの太宰はうーーんと考え込む。ばきりと嫌な音がして、太宰が隠れているコンテナの壁が大きく破損してしまった。後ろに身をずらしながら飛んでくる銃弾を見る。

 何十発も飛んでくる小さな弾の嵐を普通ならよけることはできない。

「あの火力を避けきれる自信はさすがにないのですよ」

 太宰の肩が上がった。首を振るのに福沢が顎に手をあてる。

「お前に攻撃が向かないよう一頻り暴れては見るが、気付かれたら一貫の終わりか」

「ええ。それにどうも向こう、私のことに気付いている気がするのですよね。あの異能なら近付いてきても良さげなのにあの場所から動こうとしていない。こちらがしびれを切らすのを待っているのは、私に懐に入られるのが嫌だからではないのかと」

「そうなると面倒だな」

 そうでしょうと太宰は軽く答えた。なんだかんだ言いつつまだまだ余裕がありげな太宰。福沢は男を見ながらため息を吐いた。どうするかと低い声が吐く。どうにかお前に近づいてもらわねばならぬのだが、そんなことを言いながら福沢の目が太宰を見て、一度固まった。顎に当てた手がゆっくりと動く。

「太宰少し良いか」

「はい。え、社長」

 問う声。何がと言うのがないのに、作戦を思いついたのかと男を見ていた太宰は福沢の方に無効としながら頷いていた。どうしたらいいですかと聞こうとしたのに、福沢が動いて太宰の近くまで来ていた。

 ぎゅっと腰に手をまわされ、そして肩に担がれる。

「しっかり捕まっておけ」

「え」

 どうするつもりですかと、太宰にしては戸惑った声が聞いていた。それらに答えることなく福沢が見据えたのは男。一瞬銃撃がやんだ瞬間を見逃さず、外に飛び出す。突端に襲ってくる銃撃をよけながら男の元に向かい走っていく。がんがん揺れるのに太宰は慌てて福沢の着物にしがみついていた。

 カランと音を立ててさやが地面に落ちる。

 正面に近づいてくる銃弾を福沢の刀が切った。太宰の目に落ちていく割れた銃弾が入って、ひいっと声が出た。だんと地面を強く蹴る音。ま、待ってと情けない声が聞こえきたすぐ後、ごぼといううめき声と衝撃音がした。

 黒と緑の背中しか見えないのに、恐る恐る太宰は体を動かし、福沢の前を見る。そこには倒れ伏した男の姿があった。

 ぱちぱちと瞬きを二つほどする合間に太宰の体は地面に下ろされていた。大丈夫かと聞かれるのに大丈夫ですよと反射的に答えた後、太宰はいやーー、凄かったですねと感心した声を出した。

「瞬殺でしたね。流石社長です」

「……」

 にこにこと笑う太宰。福沢は何も答えずに太宰をじっと見下ろしていた。何かあったかと首を傾けて太宰が社長と福沢を呼ぶ。どうしましたと聞くのに福沢の口が薄く開いた。

「いや、便利だな……」

「モノ扱いですか」

 その口からこぼれていく声。倒れた男と太宰を交互に見ている。ぱちぱちともう一度瞬きをしてから太宰は肩をすくめた。福沢はすぐにはっとして太宰に視線を向けた。

「あ、いや、そんなつもりは。すまぬ」

 焦ったように何かを口にしてから、肩を落として出ていく謝罪。太宰はそれを見ていなかった。福沢が目を離した。男をじっと見ている。ふむと顎に手をあてそしてにぃいと笑った。他人が見ていたら悪い笑顔だと思うだろう。

「でも先程のは良かったですよね。私を抱えても社長の動きが落ちたとは全く思えませんでした。今後もこう言うことがあれば作戦の一つとして同じことをしてもいいかもしれません。作戦コードを作っておきますか。私がいる限りこういった厄介な異能者の相手は押し付けられるでしょうし」

 その顔をして太宰は語り、そして福沢を見上げた。その声は力強く輝いたもので何かを気にして等いなかった。福沢が無言で見降ろしてしまうのに太宰は首を傾けた。あっと声を上げて、でも私と社長が一緒に組むことなんて殆どないですから、必要はないでしょうか等と言っている。

 はぁと出ていくため息。福沢は緩く首を振った。

「お前がそれで良いなら良い」

「??」

 福沢の言葉に太宰は首を傾ける。どういうことですかと聞いてこられるのに何でもないと告げて福沢はそれよりと声を変えk他。

「早く片付いたし、何か食べに行かぬか。少し小腹もすいた」

「ああ。良いですね。社長のおごりで是非」

 きらきらと輝く太宰。ぱっと立ち上がる、その腰を見てたくさん食べさせるには食べ放題あたりがいいのかと福沢はぼそりと呟いていた。

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