第10話 過去の出来事
宿屋の一室 『ジーク』
その夜、俺はシャノンちゃんに前世の事を話した。
そんなに面白いもんじゃないけど、彼女にだけは話す必要があると思ってさ。
俺は、普通の学生だったんだけど、ある時テスト会場に遅れそうになってて慌ててたんだ。
寝坊しちまってな。間抜けだろ。
それで、普段だったら間違えない所を間違えて、隣の廃棄予定ビルに到着。
使われていないエレベーター……移動する箱みたいなもん? それに飛び込んでしまった。
点検作業中だったのか知らないけど、一時は動いたんだよ。
その時すぐ、近くの階のボタン押して止めておけばよかったよな。
でも、焦って混乱していた俺はぼうっとしてたから。
途中で動かなくなって、そのまま閉じ込められたってわけ。
子猫と一緒に。
こ ね こ と いっ しょ に。
ここ重要な。
で、エレベーターはいきなり止まったから、俺はそのまま放置。
どうなってんだ、って思ったさ。
こういう事あんの?
みたいな感じでしばらく呆然としてた。
夏場で密室に閉じ込められたから熱いのなんの。
すぐ、頭がぼんやりしてきた。
でも、幸いだったのは飲み物持ってきた事だった。
これで何とか一日は持つかなって思った。
なのに、その頃になって、ようやく俺と同じように子猫が迷い込んでた事に気が付いたんだよね。
その子猫も熱さにやられたのか、ふらふらしてたから。
しょうがねーなって。
そんでまあ、お察しの通りだよ。
スマホ繋がんねーし、あっスマホっていうのは遠くの人と会話できる魔法みたいなもん。
扉、あかねーし。
大声だしても、外から反応かえってこねーし。
だったら、映画……じゃわかんないか、よくある物語、ってこの世界になかったか。まあともかく、よくある話しのセオリー通りに動こうって思って、天井でも壊して脱出してみっかってなったんだけど、これもダメだったし。
その後も、色々やったんだぜ。
諦めずにボタン押し続けたり、大声だしまくったり、扉蹴ったり。
でも、全部だめだった。
動きすぎたせいで、具合が悪かったのに症状悪化。
せめて子猫だけは助けようとして、気合でちょっと開けた扉から逃がそうとしたんだけど、無理だった。
大丈夫かな。あの子猫。
まあ、そんなザマだから、ぽっくり逝ったわけだ。
いや、自分で話してて、ちょっと怖いな、まじで。
夏場に閉所に閉じ込められるとか、まじなめてたわ。
超・命の危機。
ん、シャノンちゃんなんで泣いてるの!?
俺なにか変な事言って、泣かしちゃった!?
あー、泣かないで。
俺が悪かったから。
えっ、俺は悪くない?
「ジークさんは、きっと残りの飲み水を全部子猫さんにあげてしまったんですね」
いやいや、そんな親切な人に見える?
俺、そんな話してないけど?
「分かりますよ、だってジークさんは優しいですから」
まあ、そう思いたいならそれでもいいけどさ。
でも、それとこれとは別なわけで。
俺は君の運命を捻じ曲げちゃったわけなんだ。
半分は、どっかにいる神様のせいと、占い師のおばあさんのせいでもあるけど、もう半分は俺のせい。
「あったかもしれない未来の事なんて、存在しない事と同じです。私にとってはこの世界での出来事が真実ですから」
そっか、シャノンちゃんは強い子ね。
あっ、だから剛力(パワータイプ)なのか。
「なんだか、失礼な事考えてません?」
かっ、考えてませんよっ。
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