魔王が現れたので、勇者を召喚しました。
晴海川 京花
第1話 魔王の真意
穏やかな暮らしをしている国に、突如魔王軍が襲来した。
魔王は、配下である魔物を解き放ち、町へと向かわせた。初めて魔物を見た人々は恐怖する。魔王軍の存在は、平和に暮らしている人々の生活を脅かしていた。
魔王が現れてから、五年の歳月が流れた。
国王は、この国に平穏を取り戻そうと、兵士を集い鍛練させて、魔王城への進軍を、幾度となく繰り返していた。
だが、魔王城には数多の魔物が集結して、彼らの行くてを阻んでいた。鍛えぬかれた兵士でも、魔物がもつ威圧に勝てる者はいなかった。頭を抱えた国王は考えぬいた末、ある決断をする。
それは、勇者と呼ばれる人物をこの地に呼び寄せることだった。
代々の国王だけに託された禁術。国王は召還の儀式を行い、勇者をこの地に召還した。
召還された勇者は四人。
勇者はこの国の状況を聞くと、魔王軍を倒す約束をした。勇者はすぐに行動して、敵の本拠地に乗り込む。その途中、魔物と遭遇するが、襲ってくる気配がない。刃を向けると遠ざかり、刃をしまえば近付いてくる。
その行動を疑問に思いながらも、魔王城をくまなく調べる。探索していると、一つの大きな扉を見つけた。
「多分ここだな。この扉の向こうに魔王がいるはずだ! 皆準備はいいか?」
問題ないと言わんばかりに、高々と拳を挙げて叫ぶ。扉を開けて中へと入る勇者率いるパーティー。赤い絨毯が敷かれており、それを目で追っていくと、魔王が玉座に座っていた。
鋭く光る両目。鉄兜を被っているせいか、遠くからでも赤く光っているのがはっきりと見える。
「お前が魔王だな! 俺たちは、国王様からの依頼で、魔王を倒しに来た!」
「ほほう。そいつは面白い。貴様らも、我と遊びに来たか。それに四人だけか。ま
ぁ、いいだろう。どれほどの腕前か試してやる」
そう言うと、魔王は玉座から立ち上がり勇者の方へ近づいていく。
「みな、油断するな! どんな攻撃を仕掛けてくるか分からないぞ!」
「ふむ。威勢がいいな。最初は貴様からだ」
魔王は右手を挙げた。
勇者は、魔王の攻撃に対応しようと、剣を向ける。
「では、行くぞ! さいしょはぐぅ、じゃんけんぽい!」
魔王はパーを出した。
刹那、勇者の思考が止まる。
「どうした? じゃあ、もう一回。さいしょはぐぅ、じゃんけんぽい」
魔王はチョキを出した。
でも、勇者は固まっている。
「ちょっと、待て。魔王。何故、お前とじゃんけんしないとダメなんだ? 俺たちは、お前を倒しに来たんだぞ!」
「ん? 我は遊びにと言ったぞ? 何でそうなる? あ、じゃあ、ダーツにしよう。みんなで楽しめる遊びがよいだろ」
魔王は、別の遊びを提案する。
しかし、勇者は聞く耳を持たない。
「いや、待て。良く思い出せ。魔物を解き放ち、村人たちを襲わせたりさせただろ!」
「それは、挨拶をしにいき、仲良くなろうとして近付いただけだ」
勇者の思考は、また停止する。
魔王は、自分の配下について話す。
「仲良くなりたくて近付いただけなのに、泣かれてしまい、刃物を向けられたと言って、ケルベロスが落ち込んでたぞ。頭をなでてほしかったとな」
勇者は固まる。
魔王は更に語る。
「魔王だって、村の人たちと仲良くなりたいぞ! 外見だけで判断するな!」
「はっ? 仲良くなりたい?」
「そうだ。何度も言うが、我が配下は、村の人たちに挨拶をしに行ったのだ。それなのに、怖がって誰も寄ってこない。悲しいぞ」
勇者は理解に苦しむ。
「お前、本当に魔王か?」
「そうだ。この地に来て五年。挨拶しに行ったら怖がられ、何もしてないのに悪者扱い。兵士たちが来たときは嬉しくて、配下を集めて歓迎したのに、誰一人、遊んでくれなかったぞ······寂しいぞ!」
勇者は質問する。
「じゃ、じゃあ、この国の人々と平和に暮らしたいと? みんなと遊びたいと?」
「その通りだ。毎日のように、村人からの視線が冷たいと、配下から悩みの相談を受けているからな。我が魔王軍は敵ではないと言いたい」
勇者は困惑しながら、頭の中を整理する。
「言葉が通じるのに、何故言わない! 挨拶をしに行くと言ってたじゃないか!」
「話しかける前に、逃げられるのだ。それに、話し合いにも応じてくれないし、信用してもらえない」
勇者は考え、魔王に少し同情する。
「お前のような魔王もいるんだな。国王様に話してみよう。ただし、約束は出来ない。誤解を解けるかどうかは、お前次第だからな」
「恩に着るぞ。勇者よ」
勇者パーティーは町に戻ると、ことの事情を国王に話す。魔王とは名ばかりで、平和に暮らしたいと。誤解をしているだけだと。
最初はみな、勇者の言葉を信じていない。だが、議論を重ねていくうちに、ある事柄が議題にあがる。
それは、魔王がこの地に来てからの五年間は、何もされてなかったこと。
魔王軍に襲われたことが、一度もなかった。魔王軍の被害にあったという報告が一件もなかった。
真意を確かめるべく、国王は勇者パーティーに同行し、魔王城に赴く。
魔王の配下が大勢で出迎える。だが、敵意は感じ取れない。それどころか、魔物が魔王の部屋まで案内してくれた。
五年経った今。
国王は、初めて魔王と対峙し、対談をする。
長きに渡る会話を終えた二人は、条約を結び、固い握手を交わした。
国王は自分の城へ戻ると、いち早く決定した条約を張り紙で国民全員に行き渡るように知らせた。
もしもこの先、この国の平和を脅かす者が現れたら、我ら魔王軍が護衛となりこの国の民を護る
勿論、いくら国王の通達だとしても、そう簡単には信用出来ない。
そこで、国民は魔王軍の真意を確かめてみることにした。
その方法とは、安心安全が保証された場所で、魔王軍との話し合いをすることだった。
時間はかかった。どのくらいの年月が経ったかは誰も把握していない。だけど、国民は魔王軍を信用し、受け入れた。
国民は魔王軍に謝罪した。
魔王軍は勇者たちに感謝した。
勇者は魔王軍とともに、国民を護ることを約束した。
勇者と魔王。
最強の守護者がいるこの国は、今も穏やかに暮らしている。
魔王が現れたので、勇者を召喚しました。 晴海川 京花 @Arietis
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