第3話 憎悪

???


「ただいま帰りました」


「おかえりクソ妹」


 しかし兄は異変に気付いた、今日はやけに敬語だ、それにこの時間帯はまだ帰ってこない時間帯だ


「誰だお前、それに鍵は閉めたはずだ、どうやって家に入った」


 そこにはフードの姿をした人物が立っていた、そして近寄ってきた。こいつ、昨日聖利が言ってた…

 グサッ、途中で思考は停止した、なぜなら刃物で刺されたからだ


「なん…なんだ…お前」


「よく今までのうのうと生きておられましたね…聖利さんもさぞつらかったでしょう」


「それはどういう…」


「それは貴方が一番よくわかっているはずです」


 そして聖利の兄の意識は途絶えた



畑礼奈(はたけれいな)


 いつも熊のぬいぐるみを持ち歩き、美冬、聖利とともに行動している。とてもいじめに加担するような人柄だとは思えない。なぜ彼女はいじめに加担してしまうようになったのか


 私の宝物は熊のぬいぐるみ、名前はせーちゃん。そして大切な人は…なぜあの人は変わってしまったんだろう


遡ること過去5年以上前


 礼奈はいじめを受けていた。不登校になることもしばしばあった、でもいじめられていたそんなとき救世主が現れた


「オイ、そんなくだらねぇことして楽しいのかよ」


「はぁ?なにお前」


「暴力振るって三流以下のクソ野郎どもが」


「なに格好つけてんの?私たちとやる気?」


 その人は暴力を振るわれた、しかし一切抵抗せずただ受け身を取って軽くいなしていた


「オイ、どうしたァ?もう終わりか?数だけいてもなぁ?」


「生意気なんだよぉ」


 いじめっ子のリーダーが怒ってしまった、しかしその人は全く動じない。適当に攻撃を受け流している。そして


「チッ、行くわよ」


 諦めたのかいじめっ子たちはその場を立ち去った


「あぁはなりたくねぇなぁ」


 そんなことをぽつりとつぶやいていた金髪のギャル風のその人に礼を言った


「あの、ありがとうございます!」


「あァ?あー、別に自分のためにやってるし、ああいうやつ見てるとムカつくんだよなぁ、お前名前は?」


「れ、礼奈です、畑礼奈といいます!」


「ほーん、そう」


 興味なさそうに返されたのが悲しかったけど私は彼女のおかげで立ち直れるかもしれない、そう思った。


「あ、あの、お名前は…」


「あたしか、桑聖利だ、聖利でいいぜ」


 それが聖利ちゃんとの大切な人との初めての出会いだった。


 その日をきっかけにいじめは薄れ、聖利ちゃんと少しずつ仲良くなっていった。相変わらず外見と話し方だけを見ると悪い人に見えなくもないけど私が聖利ちゃんを一番よく知っている。


「お前友達とかいないの?」


「はい、人と話すのが苦手で」


「まあそういうやつもいるよなぁ、なら第一ステップだ、人がダメなら違うもんで話してみようぜ、まああたし以外と話せるようになってもらわねぇとこっちも困るしなぁ、住む世界が違うからな」


「違うものなってなんですか?」


「ちょっとついてこい」


 案内されたのはぬいぐるみがたくさんあるお店だった。


「好きなの選べよ、奢ってやるよ、女の子ってこういうのが好きなんだろ?」


 そう、そこで買ってもらったぬいぐるみ、それこそが今の私が持っている熊のぬいぐるみ、せーちゃんだ。



 それからしばらくたって今から5年ほど前だろうか、聖利ちゃんは少しずつ変わり始めた、まるで何かを悟ったように、ちゃん付けしていいのかさん付けしていいのかよくわからないそんな時期


「ぼーっとしてどうしたんですか?」


「んや、あんまりあたしと関わらねぇほうがいいぜ」


「何を言ってるんですか?」


「お前は大丈夫だろうがなにがあっても暴力だけは振るうなよ、三流以下のクソ野郎だ、もちろん殺しなんて言うまでもなくな」


「急にどうしたんですか?」


「結局は、権力なんだよなぁ」


 ぽつりと意味深なことを呟きそれから微妙雰囲気のまま高校生活に入った、私を当時いじめていた人たちは幸い同じ高校ではなく聖利ちゃんとも同じクラスだ。でも聖利ちゃんは変わってしまった、少しずつ、そして高校二年、クラス替えはあったものの聖利ちゃんと同じクラスで安心している。でも、この二年目のクラス替えが悲劇の始まりだった。聖利ちゃんは私をいじめから救ってくれた、でも今は…いじめる側になっていた、新羅美冬という女のせいで。私はあの女を許さない、私が聖利ちゃんを美冬から救って見せる。でも、できるわけがなかった、夕香さんに暴力を振るう美冬は前のいじめっ子そのもの、夕香さんは私そのもの。高校に入ってからなんとなく聖利ちゃんに避けられている雰囲気はしていた、私にばれたくなかったから?それでも私の居場所は聖利ちゃんしかない。だから私はいじめる側に加わった、美冬なんて眼中にない、聖利ちゃんを救うために。



 夜9時辺り、一本の着信が入った。聖利ちゃんだ


「よぉ礼奈」


「はい、もしもし聖利さん?」


「そうだぜ、何があっても暴力は振るうなよ、少しは刺客を用意してやってるからさ。つってもお前はもう失望してるだろうけどな」


 そうだ、聖利さんは暴力だけは振るっていない、確かにいじめる側になってしまったのには失望さもあった、でもそれは美冬が悪い、あいつが聖利ちゃんの弱みか何かを握ったのだろう。刺客を用意しているとはいったい


「振るいませんよ、どういう意味ですか急に」


「次はお前の番だ」


 それだけ言って通話はきれた。私には意味が分からなかった。でも嫌な予感がするのは事実である。



翌日


 聖利ちゃんとは道が反対なので一人で学校に通うことになる、せーちゃんは一緒だ。聖利ちゃんはあいつと登校しているんだろうけど。また私はいじめという罪をしなければならない、美冬、あいつと同罪だ。今日は少し遅れ気味だ、あいつに怒られる。偶然下駄箱で夕香さんと出会ってしまった。上履きには画鋲が刺さっている、あいつの仕業だろう、聖利ちゃんはそんな汚い真似はしない。


「おはよー、礼奈ちゃん」


「お、おはようございます」


 夕香さん、この人のメンタルはどうなっているのだろうか、まったく恐怖感を抱いていない。それよりも急がなければ、教室に入る、あいつが待ち構えていた。


「礼奈、遅いわよ」


「は、はい、すみません、あの、聖利さんは?」


「今日は休みみたいね、二人でやりましょう」


 こいつと二人でいるくらいなら学校を休むべきだった。聖利さんの昨日の電話と関係があるのだろうか。


「おはようございますー」


「来たわね夕香、遊びに行きましょうか、ほら礼奈も行くわよ」


「は、はい」


 またいつものようにいじめは始まる


「ほら、礼奈もなにか言いなさいよ」


 私はただ憎悪だけを抑える


「ていうかさ、聖利がいないから言うけどさ、あんたもムカつくんだよね、聖利とどういう関係か知らないけど」


 イラッ、堪えろ、今はただ堪えろ、もっとつらい思いをしている人が今もう一人いるのだから


「す、すみません」


 私はこいつが暴力を振るうたびに憎悪が動作に出ていたらしくいつも聖利ちゃんに手で制されていた、まるで、耐えろ、今は耐えろと、きっとこれは試練なのだろう、聖利ちゃんに頼らずともこいつのやることに我慢する試練なのだと。


「聖利がいなかったらこいつと同じ目に遭わせてやってもいいんだけどね」


 そうかよ、心の中でそうつぶやいた


「何よその目」


「いえ、何でも」


「二人ともどうしたんですかー」


 夕香さんは相変わらずだ、痛みを感じていないのだろうか。


「うるっさいのよあんたは」


「痛いー」


「……」


 殺意が芽生える。しかし、聖利ちゃんの言いつけは守る。暴力は絶対に振るうなよ。この言葉がなければ私は振るっていたかもしれない、振るったところで勝ち目はないが。


 なので私は見て見ぬふりをしながらこいつについて考え始めた。こいつがなぜ学年トップなのか、私より頭がいいのは分かる、でも私からしてみれば聖利ちゃんのほうが数倍頭がいいように見える、頭が悪いふりをしているのだろうか、悟られないように。努力家でストレス発散代わりに夕香さんは犠牲になったということだろうか。それよりもなぜ聖利ちゃんはこんなやつの味方をするのかいまだにわからない、聖利ちゃんはこいつに壊されてしまっている、このままでは…昔の聖利ちゃんは戻らない。



昼食


「礼奈、食べるわよ」


「は、はい、わかりました」


 そこに思わぬ人物が現れた


「わたくしたちもお邪魔してもいいかしら?」


 B組、学年2位、個人的には学年トップの成績を誇る月村尚央さんだ、さらに留学生のイェンシェンさんと謎多き人物、ほとんど尚央さんと共にいる切野雪さんの3人である。


「別にいいけど、学年2位の尚央さん」


 挑発的態度であいつは喧嘩を売っている。


「あら、それはどうも、学年1位の美冬さん」


「フッ」


 雪さんが笑ったように見えたけどきっと気のせいだろう。


「今日は聖利さんはいないのね」


「ええ、休みらしいわね」


「貴方様に聞いてないわ、美冬さん」


「フフッ」


 どうやら私に聞いていたらしい、1位と2位のじりじりした空気が場を支配する。


「は、はい、お休みのようです」


「どうかしら、気分は?」


「え、わかりませんよ?」


「貴方様の気分のことよ?」


 正直最悪である。美冬と二人きりという時点で、しかしそういう意味では救世主である。


「今は平気ですよ」


「そう、わたくしが来てよかったわね」


「あんたこいつと知り合いだったの?」


「え、いえ、実際に話したことは…」


 でも、美冬と話すよりは数倍マシだ、この人は聖利ちゃんほどではないけれど安心できる。


 雪さんが尚央さんに語り掛ける。


「尚央様、例えばこの中に根っからのいじめっ子が二人いたとします、その場合どうなりますか?」


「最悪、死ぬんじゃないかしら」


 紅茶を飲みながら尚央さんは恐ろしいことを口に出した、さらにこの中のいじめっ子、つまり私と美冬だ。そうなると聖利ちゃんも。まるで分っているかのような雪の言動にびくりとする。

 イェンシェンさんは何の話かよくわかってないのか昼食に熱中している。

 美冬は一瞬手が止まったように見えた。


「尚央様、裁きって本当にあると思いますか?」


「否定はできないわね、せいぜい気を付けることね」


 まるで私たちに言ったような発言、この人たちは分かっているのだろうか、イェンシェンさんは蚊帳の外だが。


 尚央さんたちのおかげでという言い方も変だけど美冬と二人きりを逃れた。尚央さんたちには感謝しかない。



放課後


 私は書道部、美冬から解放された、でも不安は残る。昼食の時の会話内容、明日もし聖利ちゃんが来なければまた私はあいつと二人きり。


 書道の部活を終え勇気を出して聖利ちゃんに電話をかけてみた、1コール、2コール、3コール、しかし、電話に出ない。まだ体調が治ってないのだろうか。

 いじめをしたものは最悪死ぬ、その言葉が脳裏を揺らぐ、考えすぎなのは分かっているけどもしかすると、と思ってしまう。熊のぬいぐるみ、せーちゃんを思い切り抱きしめる。



『すべてが真実とは限らないぜ』



 0時過ぎ、少女は通話していた。


「おう、まだ続けんのかよ、…まあ、あたしのクソガキを始末してくれて感謝するぜ」


 通話を切る。礼奈から電話来てんな、まあいいか、にしても美冬は使えるな



翌日


 あたしは新羅美冬。高校二年にして学年トップの成績っていえばわかるわよね♪

今日も楽しい学園生活の始まりよ。


「おう…遅れた」


 あたしの忠実なる奴隷その1、桑聖利ね、一番信用できる相手でもあるわ


「おはよう聖利、顔色悪いわね?体調大丈夫?」


「いや、体調が悪いから休んだんじゃねぇんだよ、不幸なことがあってな…」


「不幸なこと?」


「あたしのクソガキが死んだ…」


 言葉遣いが荒すぎるから説明すると聖利のいうクソガキとはあ兄のことである、しかし、死んだとはまた冗談を


「なに言ってんのよ」


「冗談で口にすると思うか?」


 もしほんとうならただ事ではない。


「なにか恨みを買うことをしたとか?」


 聖利はギャルだし兄もそっち系のことで殺害された?


「はァ?よく口にできんなぁ?」


 今の聖利は混乱している、あまり機嫌を損ねないようにしないと


「そ、それはそうよね」


「もしかすると例の裁きが関係あるのかもしれねぇなぁ?」


 礼奈に続いて聖利まで、物騒なことを、そんな都市伝説信じるわけないでしょ。


「でもあたしは別に大したこと起きなかったわよ、裏で悪さしてたんじゃない?」


「そうかよ、好きに言ってろ!」


 ブラコンなところもあるのね、可愛いところもあるじゃない。今日は夕香をいじめる楽しいゲームできそうにないかなぁ、聖利の機嫌悪いし、でも悪いからこそ発散できるのかも?


「なら夕香でも使って発散しよ」


「たまには一人にさせろ」


 めっちゃ落ち込んでんじゃん、たった一人死んだくらいなのにー。礼奈連れてってもつまらないしなぁ、一人で遊ぼっかなー。


「なら今日は一人で遊ぶとするわ」


 楽しい時間の始まり始まりー♪



 ……だめだな、あいつは手遅れだ


「あら、聖利さん、おはよう」


「尚央か」


「どう?少しは危機感持たせられた?」


「いや、人の死を何とも思ってなさそうに見えたな、あのクソガキが何をしでかしてるかわかってる訳でもねぇのに、あいつ、下手したらやるぞ?」


「見張り、つけたほうがいいかしら?」


「つけなくても奏多がいざとなったら行くだろう、礼奈はあたしなしでも行けてたか?」


「ええ、ギリギリ行けてたというところかしら?相変わらずぬいぐるみは離さなかったけれど」


「先に美冬の共犯者をやっとくか?この学園で根っからのいじめっ子は二人しかいねぇからな」


「いじめたものには裁きをの都市伝説を利用しましょう、でもボロを出さないわ、陰湿な行為が好きみたいね、例えば上履きに画鋲を入れるとか」


「ダッセーな、ガキかよ」


「貴方様の場合特別だけれど奏多さんみたいな方からしたらいじめていると間違われるのは当り前よ」


「おう、わかってるよ、礼奈を巻き込みたくなかったんだけどなぁ」


「ふふっ、あの子のことが好きなのね」


「ちげぇよ!」


「だって貴方様、いつもあの子の話ばかりするじゃない」


「うるせぇ!」


「共犯者のほうは、そうね、イェンシェンに見張らせても意味ないし雪に見張らせるわ」


「おう、そうしてくれ、この学校では〇〇〇が許されてるからな」



 とりあえず落ち込んだフリでもするかー。


「聖利さん、大丈夫?」


「おう、礼奈か、大丈夫だ」


「美冬さんは?」


「今日は一人でやってるんじゃねぇか、あー疲れた、今日はちょっと一人にさせてくれ」


「あ、わかったよ」



 こんな真実を知っちまったらイライラすんなぁ、まったくよぉ


 ポンポン


「あァ?誰だ?今は一人に…」


「元気そうね!昨日は珍しく休みだったじゃないの」


 南か、マジでこいつ空気読めねぇな


「元気そうに見えんのか」


「私の目に狂いはないわ!」


「いや、狂いすぎだろ」


「もう少しでテストね、勝負しない?あんたが勝ったら何でも言うこと聞いてあげるわ!」


「説得力ねぇな…お前の勝ちでいいぜ」


「あはははっ、勝ったわ、なら放課後公園で待ってるわ」


「何させんだよ」


「あでゅー!」


「おう、じゃあな」


 なるほどな、南経由か、よくこいつを使う気になったな。意外と使えたんだな



放課後、屋上


 少女は通話をしていた


「うん、仇は取ったよお姉ちゃん…新羅美冬は同じ結末をたどる可能性がある…まだ続ける?……うん、わかった、でもどっちか殺すよ…」



学校前


 さて、放課後に公園だったか、南のことだ、ロクなこと考えてねぇだろうなぁ。ちょっと用事で遅れちまった。面倒くせー。ようやくまともに話し合えるぜ




次回予告



「そう、南よ!ついに!聖利を打倒したわ、公園で待ってなさい、ついに私のターンね!主人公は遅れて登場するものよ!次回予告だけでなくストーリーまで主人公になる日が来たわね、あはははっ、あでゅー!」

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