第2話 作戦開始

 黒麗夕香(こくれいゆうか)。寮で一人暮らしをしている高校二年生A組、5年前、闇を知りこの高校に入学してきた生徒の一人である。その瞳には光がなく何をされても笑うことも悲しむことも怒ることも忘れてしまったかのように、他人から見ればそう見えるのであろう。しかし、彼女自体それなりに学園生活を楽しんでいるのである。



 私は黒麗夕香です。序盤から痛い目に遭わせられましたよー、まだましなほうですけどね、5年前に比べれば


「美冬ちゃんも馬鹿ではありませんからねー」


 美冬ちゃんは学年トップクラスの1位の成績保持者、あの性格なら目立つ2位や3位の成績保持者をいじめたくなりますがそんなことをすればいじめられていることが明るみに出るのは間違いありませんねー、なので私のような赤点ギリギリの人をターゲットにしたのでしょう。あとは私の嫌がる姿に興味があるのでしょうねー。

 奏多ちゃんに関してはいい迷惑ですねー、気を遣ってくれるのはありがたいことですが最悪の結末だけは避けたいものですねー。南ちゃんは嫌というほど覚えてくれたんじゃないでしょうか、あの方には利用されてもらいましょうかね、使えなさそうですが。


「それにしても、こんなことを躊躇いなくできるようになってしまったのは何年前からだったんですかねー」


 私は深夜に焚火にあるものを捨てました、いえ、燃やしました、面白そうだったので。私はもうどうなってもいいんですよー、人を殺した身なので。それに比べればこんなにも軽いものなんですねー。それにしてもやっていけますかねー、欲を言えばA組ではなくB組の生徒なりたかったんですけどね。



 早朝


「開けたくないなー」


 やっぱりですかー、上履きに画鋲って美冬ちゃんも可愛いですねー。そんなに私がお気に入りなんですかね。小学生のお遊びみたいじゃないですかー。これ聖利ちゃんかもしれないですね、金髪のギャルの子ですね。礼奈ちゃんはしないと思うからねー。熊のぬいぐるみを抱いてる子ですね。


「あら、ごきげんよう、随分と陰湿ないたずらね」


「おはようございますー尚央ちゃん、そうですねー」


「相変わらず表情は変わらないのね、変わっ子だわ」


 この、お嬢様のような人はB組の生徒、それに成績2位の月村尚央(つきむらなお)ちゃんです。少しは見習いたい性格ですねー。その後ろから留学生のイェンシェンちゃんも現れました。尚央ちゃんの側近といってもおかしくないですねー。


「おはようございますデス!」


「はーい、おはようございますイェンシェンちゃんー」


「来たわね、雪」


 尚央ちゃんが呼んだ先には切野雪(きりのせつ)ちゃんが、雪ちゃんも尚央ちゃんの忠実なる側近といっても過言ではないですねー。


「遅れました…申し訳ございません、尚央様…」


「いえ、ちょうどいいわ、では行きましょうか、イェンシェン、雪…」


「わかりましタ!」


「はい…参りましょう…」


「では夕香さん、面倒ごとに巻き込まれているようだけれどわたくしたちは先に失礼するわね」


「はーい、また会えたら会いましょう尚央ちゃん」


「ええ、いじめたものに裁きがくだるといいわね」


 ぽつりと言い残して行ってしまいました。いじめってどこからいじめなんですかねー?私も画鋲取ったら行きますかー。


「あんたー、見てー、奏多から飴貰ったー」


「よかったですねー」


 出ましたね、南ちゃん。ここで食べるんですかー、ばれたら怒られますねー。


「ここで食べたらいけませんよー」


「バレなきゃいいのよバレなきゃ」


「そうですねー、もう手遅れですが」


「…おい、南、ちょっと職員室までこい」


 運が悪いですねー、大声で話したらそうなりますよー


「誰かー、夕香助けてー」


 可哀想としか言えませんねー。ようやく教室に行けますねー、3人組が待ってますが、一人はからかう意思がないですからねー。美冬ちゃんと聖利ちゃんの相手をしないとですねー。


 ……おかしいですね、ちゃんと3人いますよね、いつもなら入ってすぐに罵声を浴びせられるんですけどねー、飽きちゃったんですかねー、気に入られていると思っていたんですが


「来たぜ、美冬」


「ちょっと待って、あれ、ないわ」


「えと、どうしたの?」


「教科書がないのよ」


「忘れたんじゃね?」


 そんなくだらない理由ですか、特に大した理由じゃなかったですねー


「それってまさか、都市伝説…やっぱり裁きって」


「はぁ?まだそんなこと言ってんの?礼奈は信じすぎよ、ある訳ないじゃない」


 裁きにしても小さすぎますけどね、教科書なくなる裁きってそれ裁きじゃないですよー。でも今日はなにもなく席に座れそうですねー。


 でも周りがざわつき始めましたねー、それはそうです、学年トップの成績保持者が教科書を忘れる失態なんて一度も見たことないですからねー。見てて可哀想になってきましたよ。


「え、裁きって美冬さん人いじめてたりしてたの?」


「美冬さんが忘れるなんて初めて見ましたよ」


 そうでしたね、まず他の人たちいじめかわかりませんけど私をからかってること知りませんでしたねー


「え、あたし?いじめてないいじめてない、今日占いで裁きが起きるっていう占いだったのよ?」


「あ、そういうことですか、なるほど、でも忘れ物はびっくりです」


「あははー…」


 今日の美冬ちゃん様子おかしいですねー。あんなにうろたえるとは。占いで貫き通したとはいえ先生にはどう出るか興味がありますね。


「おいおいどうしたよ美冬、しゃーねぇ、B組からパチってくるわ」


「なんかごめん聖利」


「気にすんなって」


 まあ人望が多いのでそうなりますよねー。不穏な気配がしますねー


「おはよー!なにどうしたのみんな」


 南ちゃんですか、不穏な気配が一瞬で吹き飛びました


「そうなのね、美冬が教科書忘れたのね、私は持ってきたわよ!」


 空気読めないというかうるさいというかなんで張り合ってるんですかねー、ある意味この子は無敵ですねー


「ちょっと夕香、あんたからはまだ飴貰ってないんだけど!」


「え、私もあげるのー?」


「当り前よ!」


 全然反省してないじゃないですかー


「考えときますよー」


「やったわ、またもらえるわ!」



 ということで裁きというものなどありませんでしたー、いつも通りトイレで暴力を受けて罵声を浴びせられる同じような日でしたねー。奏多ちゃんはいじめだよ、としつこいのでいじめということにしておきましょう。それ以外は何事もなく放課後です。


「今日もいじめられてたよね?相談しよう?」


 また奏多ちゃんですかー、しつこい女は嫌われますよー、私を自由にしてください。


「大丈夫ですよー」


「大丈夫っていう人は、なにか抱えてる証拠だよ、大丈夫ってことはなにかしら被害を受けているっていう自覚はあるんだよね?」


 ほんとにしつこいですねー、何かしてあげたわけでもないのに


「大丈夫というよりは何もないですけどねー」


「それは嘘だよ、私は見てたから…でも止めに行くのが怖かった…次は私になりそうだから」


「いいじゃないですかー、奏多ちゃんにならなかっただけー」


「でもね、これだけは言わせて、踏み出せなくてごめんね…」


「別に私は踏み出してほしいなんて言ってませんし謝る必要はないですけどねー」


 私こういう空気嫌いなんですよねー、なんでこういう時に限って南ちゃん来ないんですかねー、空気ぶち壊してくれそうなんですけどねー


「もう遅くなりますし帰りましょう」


「うん…そうだね…」



 同時刻


 フードを被った謎の人物はある人物にこう言った


「まだ始まりに過ぎないぞ、次はお前だ、聖利」


「はぁ?誰だテメェ」


 追うか?つってもいきなりあたしの名前呼ばれてビビったぜ、どっか行きやがったな、あたしをどうにかしてぇみてぇだないい度胸だぜ


 よし、帰った帰った。


「おいクソガキ、飯作れ」


「お兄ちゃんだろ」


「いいから作れ、腹減ってんだよ」


「このクソ妹が…」


「なぁ?マントかけたやつとかいる?フードみたいな?」


「何言ってんだお前、それただの不審者な」


「おう、不審者にあったぜ、ビビった」


「はぁ?マジで?」


「ほんといんだなぁ」


「こえぇこというなよ」


「怖がりかよクソガキ」


 あいつはなんだ、追ったほうが良かったのか?不審者なら刃物とか持ってんだろうから追わなくて正解か、まずなんであたしの名前知ってんだァ?




 女子寮


「夜ね、紅茶をいれてくれないかしら?雪」


「はい、わかりました…尚央様」


「姉とは会えたのかしら?」


「はい、相変わらずでしたけど…」


「それならよかったわ、わたくしは傍観だけさせてもらうわね、あまり干渉したくないわね」


「申し訳ございません、尚央様のお手は煩わせませんので」


「気にはしてないわ、というと嘘になるわね、姉だったなんて信じられなかったんだもの」



桑聖利side


「んじゃ行ってくるー」


「おう、帰ってくんなー」


「一言余計だクソガキ」


 次はお前だ、かやっぱ気になるなぁ、あれか?昨日の美冬みてぇに教科書なくなるってやつか?ダッセー、気にしすぎだろあたし


「よぉ、美冬」


「来たわね、聖利、行きましょう」


「おう、いくかー、めんどくせー」


 礼奈は別方向だからな


「なんかフードのヤツいなかった?」


「はぁ?何言ってんの聖利、ボケた?」


 美冬は見てねぇのか、誰だったんだ


「でもあんたの下には結構いそうよね」


「下ってなんだよ」


「ほら、そっち系よ、不良よ」


「あァ?誰かが裏切ったってか?」


「裏切った?何かされたの?」


「次はお前だ、とか言われたぜ、アニメの悪役とかでいそうだよなぁ」


「あんたそのものが悪役よ」


「うるせぇな、学校いってんだから偉いだろ」


「まあそうね、学校行かないよりマシよね」


 特に変わりはない、何が次はお前だだ、考えすぎか


「どうしたの聖利?急に止まって」


「いや、一応聞くが美冬、今日は忘れ物してないんだよなぁ?」


「どうしたの?気にしてくれてんの?可愛いとこあるじゃん♪」


「うるっせぇ、あるかねぇか聞いてんだ」


「全部あったわよ?」


「ほーん」


 あたしも全部あるなぁ、なんだったんだよ、つーかあの声、ボイチェンとかじゃねぇだろうなぁ、ならいいか



 本当に何もなかった、特に何か教科書を忘れたわけでもなく全くいつも通りだった、ばっからしい、腹立つわ、礼奈みたいじゃん


「よし、休みになったわ、行くわよ、聖利、礼奈」


「へいへい」


「は、はい」


 そうなるよなぁ、夕香を弄らねぇとな、ちなみに誤解といとかねぇとな、あたしはフードのヤツが現れる前から暴力は振るってねぇんだよな、美冬はそういう意味ではあたし以上に不良に向いてんぜ、こいつに付き合ってんのは学年トップってのもあるし金持ちだからなぁ、その学年トップも金の力ってのも知ってんだけどな。その気になったら権力で家ぶっ潰されても困るしな。貧乏だからな、あとはそういう柄が合うしなあたしには、舐められたくもねぇ、礼奈の前でくらい恰好つけさせてもらうぜ、失望されねぇようにな。暴力振るってる三流に不良呼ばわりされたくなかったけどな、仕方ねぇ、あたしはそういう人間に生まれちまったんだからよ


 あたしは暴力を振るう美冬をただ見ている、哀れだな、奏多に気づかれてんのも気づいてねぇんだろうな


「ちょっと聖利、あんたも言ってあげなさいよ」


「おう、つーかお前ほんと表情一つ変えれねぇのかよ!つまんねぇやつだなぁ?礼奈も言ってやれっての」


 こいつは異質だ、マジで表情変えねぇ、そんな病気でもあんのか?夕香、お前はあたし以上の闇にいるって一目でわかるぜ、目を見りゃわかる


「お前はロボットかよ、イライラすんなぁ、本当反応しねぇよなぁ?」


「わ、私は」


 礼奈は弱気すぎる、正直言って夕香側にいても不思議じゃねぇヤツだけどな、自分を捨ててまであたしについてきやがった、理由がくだらねぇ、あたしに憧れた?憧れる要素、ねぇだろ?礼奈は分かってるぜ、本当はこんなことしたくねぇんだろ?それを言える自信をつけさせねぇとな


「礼奈もなんか言えよ!」


 あーイライラする、毎日だけどな。美冬はどんだけ蹴ってんだよ三流が


「少しはすっきりしたわ、時間ね、遅れるとまずいわよ」


「おう、行くか、少しは面白ぇ反応見せてくれよ?」


「わかりましたー聖利ちゃん」


 いや、こいつダメージねぇどころかなれなれしいなオイ



放課後



「あら、聖利さん」


「おう、尚央か、雪は一緒じゃねぇんだな、あと留学生のヤツ」


「イェンシェンね、たまには一人もいいわよね」


「そうだな、警告しとくぜ?」


「もうわかってるわ、あの順位詐欺は気づいてるのかしら?貴方様の洞察力ならわかるでしょう?」


「気づいてねぇな」


「そう、更生できるといいわね」


「……なるほどな、もう後戻りはできねぇか」


「わたくしは傍観だけで十分なのだけれどね」


「そうかい、じゃぁな」


「ええ、また会いましょう」



 焦ったぜ、あんなわかりやすいことするやつだとはな。帰宅部だし家に帰るか



 ただいまー、つっても誰もいねぇわな、クソガキは死んでんだし、あたしの番は終わったぜ?



次回予告



「よくここまでたどり着いたわね、南よ!私の出番少ないんだけど!主人公私じゃないの?ちょっと残念な目に遭ってるじゃないの、空気読め?この展開で出てくるな?はぁ?喧嘩売ってんの?今回は主に二人が起点になった章だったわね、私の起点はいつかしらねぇ!私だけでいいんだけど!私は次回予告担当?次回予告では主人公ね!あははは!あでゅー!」



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