セールーン飛空1990便墜落事故④:調査チーム招集
○レイル=バルタザーレ(カカナ連邦 飛空艇事故調査委員会 セールーン飛空1990便墜落事故チーム主任捜査官)の証言
事故調査委員会は、首都ワッサタウンにあります。
私もその日は夜まで続いた連邦飛空局との様々な打ち合わせがやっと終わり、さあ自宅で美味いビールが待ってるぞ、と帰り支度を始めたときでした。
『ワッサタウン・ロイヤーズで事故発生! セールーン飛空が墜落!』
事故調査委員会に緊急連絡が入り、私は室長から現場へすぐ向かうよう命じられました。
墜落現場はワッサタウン・ロイヤーズ空港から1キロほど離れた場所にあるシムル沼でした。
沼地での救助と消火活動は通常よりもずっと困難ですが、空港の救急隊は優秀でした。墜落から7分後には火災現場で消火を始め、その3分後には生存者を発見しました。墜落から10分も経っていません。
乗客47名と客室乗務員2名、操縦士2名の計51名のうち、生存者は17名でした。
乗員4名を含む34名が死亡したのです。
……驚いたことに、その便には魔剣士チームのジャスティスセールーンが乗っていました。ワッサタウンは随分前から決勝戦の話題で持ちきりでした。
さらに、現場に最初に駆けつけて救助活動を行っていたのが、世界王者リナ=シャブラニグドゥスだと分かり、これは面倒になるな、と思いました。
悪い予感通り、メディアはセールーン1990便の事故を大々的に報じました。
ジャスティスセールーンのメンバーは全員重傷を負って入院、世界王者シャブラニグドゥスが彼らを救助。出来過ぎなくらいの話題に、飛びつかないマスコミはいませんでした。
『事故の原因は?』
『ジャスティスセールーンが丸ごと消滅するかもしれなかった事件はどうして起きた? 』
『首都の玄関口で何故こんなことが?』
様々な圧力が掛かりました。
私はメンバーの招集を始め、出来るだけの早期解決を図ったのです。
○ミリィ=セレネイド(カカナ連邦 連邦飛空局 空獣害防除課 国家魔術師)の証言
その日の夜は、防除課の新しく入ってきた子たちに、空獣相手の探知魔法について補習をしてました。
『探知魔法は何を探知するのか決めて、その目標に最適化された探知魔法を使わないと効果が薄いってことですね。鳥用とかグリフォン用とか』
『汎用探知魔法だと、大きさも数も様々な空獣――ただの鳥からワイバーンやグリフォンまで――に対応できないんです』
『昔はそれぞれの探知魔法を魔術師がいちいち順々に切り替えてましたけど、今は探知ゴーレムのおかげで自動化されました。しかし、見付けた空獣に対してどう対処するのかは、人間が決めないといけません』
……みたいな話を研修生にしてたら、
『セレネイドくんセレネイドくん、バルタザーレくんが呼んでるよ、事故調査委員会の』
って研修室に顔を出した課長に言われました。
あ、事件だな、ってすぐ分かったので、研修生の子たちに『良い週末を』って言って、4ブロック先の事故調査委員会に出向いていきました。もちろん私の週末は消えました。
○レイル=バルタザーレ(カカナ連邦 飛空艇事故調査委員会 セールーン飛空1990便墜落事故調査チーム主任捜査官)の証言
この事故でまず大変だったのは、残骸の回収でした。
ワッサタウン空港は首都の郊外にありますが、その近くにあるシムル沼が墜落現場でした。
シムル沼はカカナクロコダイルを始めとする野生動物の保護区で、国立公園局が管理しています。そこに生息する動植物へ出来るだけ人間が干渉しないよう務めてきたのですが、セールーン1990便の残骸はまさにそこにありました。
残骸の速やかな回収のため、立ち入る重作業ゴーレムの数と運用の注意点を国立公園局と協議し、回収チームを編成しました。
ただ現場は獰猛なカカナクロコダイルの生息地であったため、作業員の安全を図るため護衛のハンターも雇う必要がありました。
意外な助けがあったのは、そのときでした。
ボランティアとして、リナ=シャブラニグドゥスが護衛に名乗り出たのです。
『魔剣なら、殺さずに気絶させることが出来るので、その、お役に立てるかと』
事故調査委員会のオフィスを訪ねてきたシャブラニグドゥス女史と初めて会ったとき、彼女は落ち着かなそうに言いました。世界王者の魔剣士が急に訪ねてきたので、オフィスはざわついていたんです。
『それはありがたい。国立公園局からも動物への殺傷は出来るだけ控えて欲しいという要望があり、そういった魔術が使える人間を探していたんです。スケジュールは大丈夫ですか?』
『ええと、はい、しばらく試合もないので』
『決勝戦は……』
『延期に、なりました。ジャスティスセールーンが、治療中なので』
『なるほど……ところで、あなたはこの事故の第一発見者だとお伺いしました。現場に着いたとき、何か気付いたことはありませんでしたか?』
『え、え、えっと、その、夢中で走ってたので、その、すみません』
『些細なことでもいいんです』
『………風が』
『風?』
『雨が、強かったんですけど、風の向きが、あっちから来たり、こっちから来たりで、真っ直ぐ走りにくかったです』
『風向きが一定でない、と。なるほど』
『あとは……いえ、その、は、はっきりとは分からないんですけど』
シャブラニグドゥス女史は口ごもりながら教えてくれました。
『雨が止んだとき、一緒に何かが離れてったような、気がして……』
『何か?』
『き、気のせいかもしれないので、すみません』
『いいえ、とんでもない。ありがとうございます、ご協力に感謝します』
……こうしてシャブラニグドゥス女史を含めた護衛チームと、重作業ゴーレムを運用する回収チームの準備が整う間、調査チームはワッサタウン・ロイヤーズ空港の会議室を事件の調査拠点として使うことにしました。
そこで現場に行く前に、事故の原因を思いつく限り洗い出したのです。
『考えられる原因はなんだ? 機械的な問題だとして、何があった?』
メンバーは次々に思いついたことを口にします。
『エンジン故障?』
『動翼の故障?』
『操縦翼面の故障?』
『内部の装置類の故障?』
『ふむ、ふむ……天候の問題だとしたら?』
『落雷?』
『大雨?』
『突風?』
『なるほど、あとは操縦士の操縦ミスか。よし、今あげた可能性をひとつずつ潰していこう』
こうして考え得る可能性を上げ、ひとつひとつ検証していきます。
地道な作業ですが、最初から原因に当たりをつけると、かえって原因究明を妨げることになりますから。
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