テーアイ飛空012便墜落事件④:管制官への聴取
○レイル=バルタザーレ(カカナ連邦 主任捜査官)の証言
「カカナ・エデ両国の混成チームは、まず手持ちの情報を整理しました。
ムラセ氏は私の疑問に淀みなく答えてくれました。
『公人のチャーター便にしては、テーアイ飛空というのはあまり聞かない名前ですね。エデ飛空やオールエデ空運は利用しなかったのでしょうか?』
『もちろん最初は最大手2社に依頼しました。ところが間の悪いことに会合の予定日は、ちょうどエデとカカナの大陸王者の初試合日でした。先ほどの2社はおろかほとんどの飛空会社は、とうに予約で一杯でした』
『なるほど、小さな航空会社に頼まざるをえないのも無理はない』
他にもムラセ氏が持ってきた詳細な012便の飛行計画は、捜索範囲を絞るのに大分役に立ちました。
『キクス空港で搭載された燃料がこれだけなら、行動範囲を予想することが出来る。これはありがたい情報ですね』
『光栄です。最後に012便と通信をしたのは、こちらの管制官ですか?』
『セントラルの飛空交通管制部です。これから聴取に行こうと思っています。ご同行しますか?』
『是非』」
○アルバート=ミラー(カカナ連邦 セントラル飛空交通管制部)の証言
「調査委員会の調査官が来て、あの夜のことを聞かれました。
と言っても、事件解決に役立つ情報は僕は持ってませんでした。
何しろあの時の012便との遣り取りは管制魔導卓に全て記録されていて、その記録の吸い出しもあの金髪の女の子、調査チームの国家魔術師がテキパキやってしまいました。
『つまり、012便は交信不能になるまで、おかしな様子はなかったのですね?』
『はい。僕らの管轄区域区に来たときも、正しい呪文を唱えていました。針路も正しく東に向かってました。魔導卓にも記録されています。そのまま進んでいれば、セントラル空港の進入管制官に引き継いでもらう予定でした』
『それが突然、コースを変えた?』
『はい、そのまままっすぐ東に飛べばいいのに、なぜか北へ向かいました』
『誘導は?』
『もちろん出しました。出しましたけど、何も返信はありませんでした』
『なるほど、そのときから交信不能、と……そのときの天気は?』
『雲が多かったですね。けど嵐というわけでもないですし、飛空には影響のない天気でした』
『洋上の風向風速ゴーレムからの情報ですね? (あの金髪の女の子に)セレネイドくん、そちらも収集しておいてくれ……失礼、012便は魔導灯台での空路で飛んでいたのですね?』
『はい、そうです。"ココア"に向かって』
『魔導灯台の故障の可能性は?』
『考えにくいです。魔導灯台"ココア"は012便だけでなく、他の便も使っていました。それが故障してたら、もっと混乱が起きていたと思います』
『しかし当日に特に問題はなかった?』
『はい。忙しくはありましたけど』
調査官はなるほど、と頷きました」
○ミリィ=セレネイド(カカナ連邦 事故調査チーム)の証言
「管制官の言ってることに嘘はありませんでした。管制魔導卓の記録と完全に一致しましたからね。
012便が墜落したとき…あ、違う、墜落したと思われるときのデータも記録されてました。降下率がかなり速い。毎分5万フィート、時速900キロメートル近い速度で落ちてました。
(どうでもいいんですけど竜人の使ってた単位ってなんでメートルとかフィートとか色々あるんでしょうね? 統一してくれればいいのに……と彼女はぼやく)
『この速度だと、たぶん飛空艇の強度がもたないです。風の精霊は速すぎる相手に対して硬くなる働きがあるので、012便は空中で砕けたと思います』
……というのをムラセさんに言ったら、すごい顔されました。
怒鳴ったり怒ったり泣き出したりとか全然なくて。でもすごいものに耐えてる感じ。
身内みたいなものですから。私達と違って。
そういうわけで、私は助手のガルに『黒箱を探すよ』と言って捜索隊のところに行きました。途中でガルが
『見つかりますか?』
って聞いてきたから、
『私達を誰だと思ってるの? ダークスターだよ?』
って私は言いました。絶対に見つけてやる、って」
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