第34話ただいま

「とりあえずはもう時間が遅いので、今日はここでお開きにしましょう」


 大名屋敷というに相応しい屋敷の中で、最終的には地元の名士たちも含めて十数人の規模での防衛計画の会議は一旦は保留とした。流石にいくら元気とはいえ、齢が八十も超える老人の体力的に限界が来ていたのでキリが良い所で切り上げる。

 

「こちらも旅館の改築があるので日取りとしては三日後に、また同じ時間に会議を開きたいと思います」

「そうじゃな、細部の調整にはどうしても地元民の協力がいる。技術的な面はマキナ様に全面的にお任せするとして、政治面での地域の説得は儂に任せてほしい」


 魔力を動力とした配電システムの構築に水道設備の開発などのライフラインの代替え案にはどうしても地元民の理解は不可欠だ。ある日を境に魔力という未知のエネルギーによる新技術などと入れ替わったら、一部の人間から反発があるのは想定できる。

 そこは地域の有力者たる大蔵政蔵が説得し、そして周辺地域での自身の発言力と権力を強めようとする意思が垣間見えるが、利用出来るのならば魔力などの未知のものも受け入れる度量のある人間が統治してくれた方が俺達からしたら有り難い。

 決して強欲に権利を強請るのではなく、あくまでも与えられているという立場から線引きをしてくれるのであれば、地域住民としての緩衝材には最高の人材だ。


「今夜は屋敷にお泊りになられますかの?」

「いえ、旅館の方の整備がありますのでお暇せていただきます」

「もし旅館の改築でお困りがあったらいつでも申し出てください。地元の土建屋に手を回して人員を送らせてもらいますのでの」

「そちらの心配はありません。こちらにはマキナの技術力があるので」


 本当はカナリアの技術力であるのだが、ここで俺の異能を知られる訳にはいかないのでマキナの力によるものと答えておく。大蔵政蔵ならば口は固いだろうが、周りの名士たちがどのような反応をするのか予想が出来ないので誤魔化す。一日一人のペースで、異世界で伝説や神話級の美少女を召喚出来ることは、あまりにも強大な力すぎて話すべきタイミングは慎重にならざるを得ない。

 これほどの屋敷と庭園を所有する大蔵政蔵はそれ以上は深追いしない。その地位と財産を築いた海千山千の猛者である彼からすれば、こちらの事情は薄々は察しているだろう。


 地元の名士たちは俺達に会話を持ちかけようとしてるけど、大蔵さんが視線で止めてるな……うわ、こういう政治的な駆け引きとか嫌だからさっさと帰ろう。


 目的はもちろんマキナと関係を持つことが狙いだろうが、将を射んとする者はまず馬を射よという言葉があるように、夫である俺から仲を取り持ってもらおうと画策しているのだろう。個で軍を圧倒するような暴力を持つ存在に話しかけるには、身の安全のために俺からの紹介は不可欠という狙いを感じる。

 これ以上、そういう泥沼の政治劇に巻き込まれたら嫌なので、挨拶も早々に切り上げて車に乗って旅館へと帰ることにした。




「地域との関係は最低限に済ませたいなぁ……いや、俺の家族とかを呼ぶ以上はある程度の発言力は欲しいけどさ」

「そちらでしたら、大蔵政蔵が根回しをすると思うので大丈夫でしょう」


 まだ夜の七時だというのに人影どころか、車すらもほとんど通らない車道を走る。口伝様の事件が前日に起きたあとでは、いくら解決したと言っても街の住民は外出を控えているようだ。

 運転はマキナに任せながら俺はタブレットで英雄として祀り上げられ、テレビで独占インタビューをされている勇者様達を眺めていた。まだ法治国家で個人による私刑による殺人で、警察から連続殺人鬼として指名手配されているのに、テレビ局は放送倫理より視聴率と国民の支持を選んだらしい。


『口伝様を倒した勇者様達にお聞きしたいのですが、今後も日本であのような怪物が現れたらどうするのでしょうか?』

『叩き斬りますね。俺の転移の魔法があれば、日本の何処にでも一瞬でテレポート出来ます。もし異能者が暴れているとのご一報を下さればすぐにでも向かいますよ』

『それは頼もしい限りです!』


 某有名RPGの勇者の力を持つ田中と、FPSの不死性と無限の弾薬を持つ柳生の中年コンビの勇者様達はテレビでコメンテーターの質問に答えていた。柳生の方は興味がないのか生放送中であるのに椅子に座って眠っている。

 世界各国が異能者によって治安が崩壊する中で、ヴィジランテとして異能者狩りをしている勇者様たちは日本においては救世主に近い。朝から晩までほぼ不眠不休で悪さをする異能者を殺し回ってるおかげで、世界でもトップクラスの治安が維持され、他の異能者も勇者という究極の暴力装置の前では、力を誇示するどころか自ら国に保護を求める程だ。


――彼らの功罪は犯罪を犯す異能者の殺害という一点に集約されていることだろう。もはや通常兵器では戦うことすら出来ない異能者を相手に短絡的であるが最も効果的な私刑という殺人。それは日常ならば批判され糾弾されて然るべきことであるが、この異能者が闊歩する時代では、そうしなければ日本の治安は崩壊しているという事実。


「個人の自警団活動の許容は、民間人による無害な異能者に対する私刑を呼ぶ。それで実際に中東では異能者による反逆が相次いでるし、そこら辺のバランスを議論しなくちゃいけないんだけど、世界はもうそんな話し合いの段階ではないんだよなぁ……」

「北欧では吸血鬼のコロニ―が発生していますからね。これからの時代は終末を迎える前に数多の種族が入り混じる世界となるので、新たな秩序と倫理の構築は急務でしょう」


 吸血鬼、人狼、幽霊、ロボット、魔獣などの亜人が異能者の力によって地球に新たなる種族が定着しつつある。これらは俺の美少女召喚のような召喚型、幽霊や吸血鬼のような眷属化などの感染型、ロボットのような創造型などの様々な異能者によって産まれる副産物が、人類の一員として認められるのは遠くないだろう。


 俺の美少女たちも重複なく召喚されれば、1000人以上もの人型決戦兵器と言っても良い強大な力を持つ美少女たちで溢れかえる…………旅館に収まるかな?


 美少女大戦の美少女の数は1000人以上、確率の低いLRやURを除く全ての美少女を引いたならば小さな町の一つの人口になるほどだ。そして変わり者から狂人まで揃っているのを考えると、美少女達の管理はしっかりやらなければ大惨事は必至。

 更には食糧問題や聖属性や闇属性のような相性の問題がある美少女達の住み分け、暮らしていく上でのルールの制定とやるべきことは盛りだくさんである。


「食生活に欠かせない料理が出来る美少女か、ドルイド系の能力を持つ美少女を引きたいところだけど――――っておい、あいつらは何をやっているんだ?」

「何を……と申しましても、マスターを迎えるのは召喚された私たちからすれば当然のことですよ?気配で察したのでしょう、皆さんはマスターに会いたくして仕方ないようですね」

「…………………………………これ、俺が出掛ける度に起きるイベント?」

「それがマスターに仕える者の本能ですので、諦めてください」


 クスッ、と笑うマキナ。そして旅館の玄関には七人の美少女達が俺の帰りを待ちわびていた。


「遅いですぞー!当主様!」

「わーい!お兄ちゃんだ!ねぇ、ねぇ、こっち見て!」

「皆、ちょっと旦那様が居ないだけで大騒ぎだねぇ……」

「そういうお前も、我の番いが居なくてそわそわと忙しなかったでないか……くくっ」

「本官は風紀の維持の務めを果たしました!その結果のご報告が司令官にあります!」

「ミラクルちゃんは導師様のお導きをまってました!」

「敵の気配はありませんね。主様のお帰りは万全の状態でお迎えしなければ……」


 たった半日居ないだけでこの大騒ぎである。こちらに向かって手を振る者、出迎えの準備を始める者、関心なさそうにしながらもそれでも玄関でこちらを待つ者と様々で、だが美少女達の誰もが俺を心待ちにしていて、それに応える為に車から降りようとした時――


「ここが召喚師様であるマスターの帰るべき場所です。だから、私が皆様に先んじて言いますね――――――お帰りなさいませ、マスター」

「ただいま、マキナ」


――これから増える美少女達の住み家であり、俺達の大切な拠点である旅館の前で八人の美少女達に囲まれて、賑やかで忙しなくもそれでも愉快な彼女達と共に新たな我が家に帰るのだった。

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