第32話『軍神のトウカ』
「召喚する美少女のレアリティはSR。SSR以上のカードで起きるような、固有演出は発生しないから――――その……みんな、俺から離れてくれないか?」
七人の美少女がぴっちり俺の身体に抱き着いてくる。正面、背後、両腕、両足、そして極めつけは体内とこれから召喚される美少女を警戒してか、召喚師である俺を絶対に守るという意志を瞳に宿らせて、赤く輝くカードを睨みつける。
「前回は不覚を取りましたが、マスターに万に一つの危険がないように対処するのが私の役目でございます」
「我の時のようなことが起きるあるのならば、番として主を守るのが我の仕事だ。なに、どんな美少女が来ようと一蹴してくれるわ」
「これだけの戦力が揃っているからボクは必要ないと思うけど、それでも旦那様を守るの当然のことだからねぇ……」
「導師様が怪我をしても、ミラクルちゃんがすぐに治療するので安心してね!」
「某は当主様の懐刀でございます。ならば刀としてお傍に居るのは当然でございましょう!」
「いえ、主様の盾になるのは当然のこと。どうぞ身に危機が迫った私の身体を盾に」
【みんな鬱陶しいよ!そんなにお兄ちゃんの身体をベタベタ触らないで!うぅ……なんだか囲まれてると落ち着かない……】
まさに全身が美少女アーマーで守られた俺は、彼女たちの抗議の声に黙るしかなかった。
普段なら仲の悪いメンバーも一致団結して協力してる……。むしろこれだけくっ付かれると逆に動きにくいような気がするんだけど、絶対に離れないって雰囲気だし……いや、本当にただのSRの美少女だから危険はないんだけど!
勿論、召喚される美少女の中にはヤンデレやサイコを引く可能性もあるが、現状の最高戦力であるURのフェラブルを筆頭に、七人の美少女達はそれぞれの世界で英雄や神話レベルの力を有している。
万が一に、召喚された美少女が俺に凶刃を向けてきても制圧は可能であるので、全神経を傾けている美少女達には悪いが、俺は軽いノリで赤く輝くカードに触れた。
「ほいっと……お?この演出はもしかして……」
燃え盛る軍旗が風もないのに部屋の中で翻る。そこに描かれる紋章は、絶えぬ戦争で自国すらも戦火で焼き尽くして滅びた亡国の不夜の太陽。それを背後に一人の美少女が立っていた。
「ここが本官の新たなる戦場……そして貴方が司令官でございますね」
「そうだ……『軍神のトウカ』。俺の名は大刀気合だ」
抜き身の軍刀から青白い炎を灯し、漆黒のマントに軍服を着た美少女はこちらを見つめる。艶やかな黒髪と黒曜石の瞳はどこまで真っ直ぐに純粋で、彼女の中に秘められた精神の強さを表しているようだった。
そして自身の仕えるべき司令官が誰かと理解したトウカは、手に持つ軍刀をこちらに両手を使って差し出し。
「ならば任命の儀をお願いたします」
「えっ?あ、あー………」
俺は渡された軍刀を持ったままフリーズした。『軍神のトウカ』は司令官である俺に何かしらのアクションを求めているのは分かるが、彼女の国ではどのような任命の儀式が行われているか知らない。
ちょっと待て。これってどうすればいいんだ?!
「マスター。これは軍人である彼女に役職を与えればいいのです」
「そうか……ありがとう、マキナ」
「では、私の言う通りに儀式を進めてください」
すぐさまに俺のフォローに入るマキナ。流石はあらゆる世界の知識を有すると言われる機械神の眷属の能力を十全に生かして、固まっていた俺に助言を与えてくれる。
「ふっ、本来ならば我が主に教えているところであるが二番目の妻に譲るとするか」
「ははは!そんなこと言って、実は不夜国の儀式なんて知らない癖にねぇ……」
「うるさいわ!元より我には我の役目がある。細かいこと雑務などお前たちがやれば良い!」
「その細かいことこそが旦那様の役に立てるんだけどねぇ……ちょ、暴力は止め給え!ボクが君に力で勝てる訳―――――上等だよ!こっちも体術には自身があるからね!」
背後で美少女達が戦争を始めているが、俺は気にせずに儀式を続ける。と言っても定められた口上を述べて、役職とともに軍刀を返せばいいので儀式はつつがなく終わり――
「『軍神のトウカ』……いや、トウカ。君には副官の地位を与える」
「謹んで拝命いたします。これより本官は司令官の指揮下に入り、あらゆる命令にこの身で応えうる全ての力を尽くすことを!」
――軍の指揮系統に疎い俺は、マキマの助言の下にもっとも無難な地位である副官。秘書に近い地位を与えることにした。トウカの能力はサポートに特化しており、ゲームでは後方支援キャラとしての有用性が高く評価されているからだ。
「それではトウカに最初の命令を与える」
「はい!司令官!」
「トウカの望みはなんだ?まずは司令官として俺の命令に従ってくれる君に報いたいと思う。遠慮をしないで言ってくれ、俺は君の願いを出来うる限り叶えたい」
一瞬だけ戸惑いの表情を見せたトウカは、すぐさまに表情を引き締めて俺の背後に睨みを利かせ。
「本官は規律の乱れる者達に罰を与える事を望みます!」
俺の背後で戦争を始めていた美少女達にトウカは罰を求めているので、突然の糾弾に戸惑いを隠せないフェラブルとカナリアは血を拭きながら互いを指差し――
「最初に始めたはカナリアだ!」
「いや、フェラブルだよ!」
「じゃあ、喧嘩両成敗でしばらく同衾はなしだ」
――そんな!と叫ぶ両者を見つめながら、こっそりと拳を握りしめてガッツポーズするマキナを俺は見逃さなかった。そして委員長気質のあるトウカは、同衾の意味をしばらく考えたあとに、顔を赤くして俯き。
「風紀の乱れも正す仕事も望みます!」
こうして戦神であるのに初心な乙女心を持つトウカは、この美少女軍団の風紀を取り締まる立派な仕事を役職として、司令官である俺とその周りの風紀を厳しく取り締まることになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます