第25話口伝様とラストバトル 前編

「もうこれで何度目だよ……本気で日本潰す気なのか口伝様とやらは……」


 俺は思わず愚痴をこぼす。かれこれ一時間以上は高速道路を走り続け、迫りくる怪異たちも諦めたのか襲撃がなくなった代わりに自衛隊員たちが標的となり、道端に横転した装甲車や死体を見るのも珍しくなくなった。

 とりあえずは応急処置としてミラクルちゃんが蘇生させているが、あまりにも数が多くその度に車を停めているので遅々として目的地まで辿り着けない。


「どうやらこれは陽動みたいだねぇ……本命は自衛隊じゃなくて勇者様達みたいだよ」

「自衛隊の基地の怪異を片っ端から始末してるから消耗戦を強いられてるのか……口伝様は物量で勇者様達を殺すつもりか?」


 カーナビの画面に映るのは勇者様達の配信チャンネル。日本各地の自衛隊基地に転移を繰り返し、勇者様のゲームのイベントで有名な『不滅なる聖鳥』を召喚して範囲内の怪異の殲滅を続けていた。



『次から次へと日本の伝承存在を全て呼び出して俺を殺すつもりか?ハッ!やれるもんならやってみろ!都市伝説妖怪だろうと古典妖怪だろうと皆殺しにしてやる……ッ!』

『あーはっはっはっ!死ね死ね死ね!いくら撃っても的は尽きないぜ!田中ァ!エンチャント切れたから付与頼む!』


 新千歳空港に隣接する千歳基地は航空機を配備されている為に広大な土地を保有し、そしてその飛行場を埋め尽くす怪異の群れのど真ん中で勇者様達は持久戦を続けている。


『魔に特効の聖鳥ですら浄化しきれない量で押し寄せやがって!』


 暗雲のように天を覆わんばかりの怪異の群れが上空を旋回し、地上からは津波のように怪異たちが押し寄せる。勇者様の召喚した20mを超える輝く鳥の光に一瞬で蒸発されながらも、ジリジリと圧倒的な物量を持って怪異たちは自身を肉壁にしながら迫りくる。

 勇者様はその中でも聖鳥の光すらモノともしない怪異を切り伏せ、トリガーハッピーとなった柳生はまるで映画に出てくるような巨大な機関銃であるミニガン持ってして迎撃を始める。




「援護したいけど……流石に北海道じゃ間に合わないよな……」


 画面で繰り広げられ地獄のような惨状に、俺も流石に黙って見ていられずに参戦したい気持ちになるが距離があまりにも遠すぎた。勇者様達のように北海道から沖縄まで自在に転移出来る便利な能力持ちはまだこちらにいないのだ。


 勇者様達もその気になれば逃げられるんだろうけど、ここで逃げたら数十万の怪異が街に殺到する事態になるから引くわけにはいかないのか。なら俺が出来る唯一の援護はこの元凶たる口伝様をぶっ叩くこと……。


 邪神官の召喚したクトゥルフの神話生物がそうだったように、元凶たる召喚者を止めれば画面の向こうの大量の怪異たちも消滅するはずである。だが肝心の召喚者たる口伝様は身を隠し、ひたすらに遠隔から怪異たちを送り続けている。

 俺はおもむろにスマホを取り出して画面をタップする。


「もしもし、マキナさん。口伝様の尻尾は掴めたか?」

『気になる点が一つ見つかりました。口伝様と言う異能者はあくまで伝承上に存在する怪異を使役はずなのですが、SCPという創作都市伝説の存在をいくつか発見したのです。それも共通する事はその怪異たちの創作者は同一人物であります』

「他にSCPが出典の怪異は居なかったのか?」

『はい。口伝様が使役する怪異は都市伝説、古典妖怪と存在が創作であると確定してない怪異ばかりです。明確に創作と判明している怪異が勇者様たちを襲っていたのは異常です』


 怪異を創造する異能の職業を得る程に執着があるなら、創作者として自身の作品を現実に創造したいよな…………尻尾を掴んだぞ口伝様。


「そいつの名前と住所は?」

『耳袋囁<<みみぶくろ ささや>>37歳女性。彼女の現在地はスマホの地図にマークしておきました。そちらから100キロ圏内にいます』


 スマホの画面の地図上にピンが指される。俺は車で早ければ1時間で辿り着く場所に口伝様が存在することを知り――


「フェラブル……狩りの時間だ」

「そやつは強いのか?」

「国内でぶっちぎりの危険度の異能者だ」

「なら我の出番だな。それを貸せ」

「あぁ」


――いつの間にか身を起こして席の間から顔を出したフェラブルさんにスマホを渡す。


 金色の瞳は闇夜の中でも輝き、獰猛な笑みを浮かべて心底楽しそうに地図の指し示す方向に顔を向け。


「主、殺して良いのか?」

「構わない、全力で殺せ」


 窓から身を乗り出して、風で靡く黒銀の髪の隙間からフェラブルさんは目をすぅ……と細めて俺を見て舌を舐めずる。


「対価は貰うぞ?」

「俺が与えられるモノなら何だってやる……だから確実に殺せ」


 ここに来て殺人のタブーなんて今更だ。向こうが無関係な人間を虐殺して回るならこっちも手は緩めない。もしこれが殺人罪であろうと世間が騒ごうとイカれた異能者ならいくらでも殺してやる。


 数十万の怪異を前に逃げない勇者様達の姿に俺も影響されていた。いくら強力な力があろうとそれを私利私欲に使わずに他人の為に命懸けで使うなら、まさしく勇者だ。

 そんな勇者の姿に俺も心から感動して真似してみよう。


「くくく……何を対価に望むかも聞かぬまま契約するとは……愚かな主だ。この代償はどう高く付くかよく考えることだな……ゆくぞ」

「行ってこい」


 俺の言葉を最後にフェラブルさんは消えた――いや、厳密に言えば視認できない速度で空を駆けて行ったのだ。


【本当に良かったの?契約内容も確認せずに対価を払うなんて】

「構うもんか。URクラスの存在が本気で狩りをするなら俺がどうなろうと安いもんだ」


 『狂月魔狼のフェラブル』それは天と地に縛られない飛翔の御業と空間すら容易く切り裂く爪を持つ魔狼。幾多の神々をその牙と爪で殺めた彼女ならば、例えあらゆる伝承の存在を呼び出し使役しする口伝様すら容易く葬るだろう。


「それよりこっちの方が心配だよ」


 俺とフェラブルさんのやり取りを黙って見て――いや、フェラブルさんの圧に黙らされていた四人は俺が指し示すカーナビの画面を見つめる。

 そこには数十万の軍勢を飲み込む闇夜の黒い太陽――


「とうとうラスボスまで投入しやがったな口伝様」


――最強の妖怪『空亡』が勇者様達の上空に浮かんでいた。

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