第24話怪異の襲撃
「次から次へと沸いてくる……まるでディフェンスゲームをやってる気分だ」
マキナを拠点である旅館に先に行かせてから、今まで彼女が上空から殺し回っていた怪異たちが俺達の車を目掛けて殺到する事態となった。
一体一体は大して強くはない。勇者様達が動画で戦っていた怪異たちと比べると知名度もほとんどないマイナー怪異たちの集団であるので、ミラクルちゃんが光の魔法を適当にぶっ放すだけで消滅してしまう。
散発的な上に高速道路であるからスピードタイプの怪異が多すぎて処理が面倒だなぁ……こっちは100km近くで飛ばしているのに自転車で追い付くサラリーマンのような人間なのか怪異なのかパッと見分からないやつも居るし……。
自転車でこちらに向かって突進してくる中年や首なしライダー、更にはターボババアに代表される高速移動するババアたち、ランナー姿の男性に下半身で走る子供、車と同等の速度でこちらを追ってくる怪異たちは同胞が目の前で散っても果敢にこちらに襲い掛かる。
「『コンボショット』」
「正義の光で闇を浄化!『クリーンクリーン!』」
【ぎゃぁぁぁ……あつぃ……ッ!】
車から身を乗り出したリティアさんは時速100kmで走る車の風速をモノともせずに輝く弓から放たれた矢が殺到する怪異たちを貫いてまわり、ミラクルちゃんのステッキから輝く光が怪異たちを近付けさせず、接近していた怪異は一瞬で蒸発させ、その余波を受けたフィスターニちゃん俺の体内で浄化の光に焼かれていた。
「雑魚の群れか……我の出番はまだ先のようだな」
「ボクが出る幕はないねぇ……まぁ、疲れたら交代しようか?」
フェラブルさんは上体を起こして外を見るがすぐに興味を失くし、カナリアさんはほぼ二人だけで圧倒している戦況に加わるまでもないと判断してタブレットを弄っている。俺は物理で殴るしか出来ないので運転を続けて、儚い命を散らす怪異たちの断末魔の中で目的地に向けて走り続ける。
「パーキングエリアも襲われてるよ……カナリアさん、怪異たちの動向はネットで書かれてる?」
自衛隊の要塞と化していた筈のパーキングエリアは怪異たちの襲撃により大惨事となっていた。あらぬ方向に手足が曲がった死体や上半身が消失した死体に加えて炎上するパーキングエリアを見て思わず止まる。
「どうやら口伝様とやらは怪異に対抗出来る全ての存在にターゲットを変更したみたいだよ?各地の自衛隊基地にも襲撃があったみたいだねぇ……銃火器で対応出来ないタイプの怪異を使役している為に被害は拡大を続けているよ」
「本格的に日本と戦争したいようだな口伝様とやらは……」
俺は幸いなことに異世界の最強美少女達に囲まれているから実感があまり湧かないが、本来ならリティアさんやミラクルちゃんが容易く蹴散らした怪異ですらただの人間からすれば非常に脅威的な化け物なのだ。
時速100km以上の車両に追い付く身体能力、飛行能力、そして超常的な力を持っている怪異を相手に物理攻撃が通るとしても銃火器で武装しようと歯が立たない。あくまで対人に開発された武器で、高速で移動する怪異に当てるのは至難の業だろう。
「ミラクルちゃん。ここのパーキングエリアの人達で蘇生出来るのは全員治しといて」
「はい!まだ肉体は朽ちていないので全員問題ないです!」
厳重に固められた入口からパーキングエリアに入ると、そこは地獄だった。
巨大な駐車場に並べられた車両や装甲車は横転しているか炎上し、弾痕の後から抵抗したことは推察出来るが、地面に散らばる様々な死に方――首が刎ねられた死体、胴体が潰れている死体、自ら拳銃自殺に内臓を食われた死体に怪異の異能の力なのか、完全に骨となった死体や身体が小さなブロック状に置換された奇妙な遺体もあった。
怪異は初見殺しも居るからな……勇者様達が怪異の軍隊を差し向けられても殺されてない辺りは魔力の強化で呪いは防げるだろうけど気を付けないとヤバいな……。
「ミラクルパワーで元気一杯にな~れ!」
燃え盛る建物が作り出す陰影はまさに戦場の地獄。そんな中を場違いな明るい声でミラクルちゃんはどう見ても蘇生不可能にしか見えない骨となった死体すらも再生させて生き返らせている。
「カナリアさん。ゴーレムかなんかで燃えてる建物から焼死体を引き摺り出しといてくれないか?このままじゃ蘇った瞬間に焼死なんて笑えない展開が待っているから」
「承知した、召喚師様。適当にこの地面から人型を三十体位は作ろうか」
タブレットから目を離さないまま、車から降りて地面を指で触ると2メートルサイズのゴーレムのような存在がポコポコと地面から湧き上がった。
「そのままの位置で蘇生したら死ぬ人間を安全な場所に移せ」
そうカナリアさんが命じるとそのまま三十体のゴーレムたちは車両を持ち上げ、燃える場所にも何の躊躇いもなく入り死体を引き摺りだし始める。
「これで終わったよ。あとは適当な時間が経過したら自壊するように仕組んだからねぇ」
「ありがとう。ところであのゴーレムって知性とか知能ってあるのか?」
見た所、ゴーレムたちは協力し合って装甲車を持ち上げたりしているのを見るとまるで知性があるように思えて尋ねる。
「ん?あぁ……あれに知性や知能はないよ。ただ細かい指示や動きのプログラミングってやつを書きこまれてるのさ」
「便利なんだな、錬金術って……」
「いやぁ、一からプログラミングする労力を考えると召喚したモノを使役した方が楽だねぇ……事前に準備してあるならあれほどに便利な駒はないけどさ」
「そこは地球と変わらないかぁ……」
ロボットに細かい動きのプログラミングを組む手間と工程を考えたら、わざわざ一から作り出すより労働者を雇って仕事をさせた方が安上がりと言ったものかと考えながら、ゆっくりとパーキングエリアの出口に向かっていく。
「ミラクルちゃんの治療完了!」
「お疲れさま、ミラクルちゃん」
パーキングエリアで蠢く肉たちが徐々に人型になっていくのをバックミラー越しに眺めながら帰って来たミラクルちゃんを労う。
「今日もミラクルちゃんは正義の人助けをして大満足です!」
あれだけグロい死体見てもノーダーメージなのミラクルちゃん……俺、ちょっと気持ち悪くなってるんだけど……。
地獄のような惨状のパーキングエリアで大量の死体と向き合った女の子に相応しくない充足感を感じる満面の笑みに価値観の違いをまざまざと見せつけられる。他の美少女達も特に死体の山に感情を動かされた風でもなく、いつもの調子で警戒をしたり、タブレットを弄ったり、我関せずと眠ったり、光の力に怠そうにしたりと俺の感性がおかしいのではないかと錯覚してしまいそうになりながら。
「それじゃあ、次に行こう!」
「悪を根絶やしだね!見よ正義の力のミラクルちゃん!」
「行きましょう」
「ゴーレムたちに自壊命令を出そう」
「煩いぞ!我の眠りを妨げるな!」
【光なんて闇に吞まれちゃ……ぇ……うぅ……】
早く休みたい、と内心で精神的な疲労感の中で俺は地獄のパーキングエリアを離脱して目的地に向かって走り続けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます