第23話都市伝説マニア
七人のババアの怪異と遭遇以降はこれといった出来事はなく順調に目的地に向かって進んでいた。カーナビの示す残り時間は二時間ほどで深夜一時を回り高速道路に怪異の出現情報が電光掲示板に表示されてから走る車はほとんどが自衛隊の車両だけである。
「しっかし、パーキングエリアも変わったなぁ……あれもはや基地だろ……」
走っている最中に何度かパーキングエリアを見かけたが、自衛隊の装甲車が入り口に待機し銃火器を装備した隊員と誘導灯が配置されていた。こんな深夜に走る一般車は珍しいのか幾人かが視線を向けていたが、闇の中で彼女たちのシルエット程度しか見えないだろう。
ガソリン価格も馬鹿みたいに高騰してるし……国が備蓄しているエネルギー資源はともかく民間のガソリンの確保は難しくなりそうだ。
1リットル500円代に到達したガソリン価格の上昇は留まる所を知らない。世界的な危機で外からの輸入は絶望的な状況で国内に残された量を考えると遠からずに民間のガソリンの供給は不可能になるだろう。
「カナリアさん。錬金術でガソリンとか発電機とか作れる?」
「魔法的な物質でない限りは、ボクの錬金術なら地球の資源のほとんどは作れるねぇ……それに既存の技術をより洗練させて効率的な物を作って見せようじゃないか」
「流石は稀代の錬金術師だ。旅館に着いたらまずは拠点の改築から始めよう」
「アハハハ、ボクが好きに弄っていいなんて最高だ!この地球の科学と魔術を組み合わせた新たなる技術を編みださせてもらおうか!」
「うるさいぞ!我の眠りを妨げるな」
壁ドンならぬ椅子ドンで横になって眠っていた駄狼は睡眠を邪魔されてカナリアさんの座席を蹴っ飛ばす。リティアさんもミラクルちゃんも常に警戒を怠らない中で、ただ一人横になりながらも堂に入った強者の風格を無駄に醸し出している。
カナリアさんは座席を蹴っ飛ばされながらも、特に気にする風でもなく楽しそうにタブレットを弄って地球の科学技術を貪っているし、ミラクルちゃんは困惑し、リティアさんに至っては諦めているのか無視である。
自由過ぎる……ッ!いや、戦闘要員の駄狼は本気を出せば文字通りの戦略兵器級のパワーだし緊急時以外に勝手に動き回られるよりマシか……。それにさっきから上空から見えるマキナさんの光弾は何を撃ち抜いているのかなぁ……?
全員が異世界の英雄や神話の存在。そしてそれ程の力を持てば傲慢にもなるし我も強いし、性格が奇人変人の頭のネジがぶっ飛んでいてもおかしくない。そしてこの車内の中で比較的に常識的な存在が四人も居るのは俺のガチャ運の為せる業だろう。
「マキナさん?さっきから何に向けて光弾を撃っているのですか?」
『怪異が先ほどから数を増して、どうやらそちらに向かっているように思えます。現在は上空からの狙撃による不意打ちで対処していますが、そちらもご注意ください』
「了解。怪異がこっちを狙っている……?」
【仲間をやられたから仇討ちかな?】
「怪異に仲間意識があるのなぁ……なんとなく口伝様とやらが指示してる気がするんだけど」
口伝様にとって唯一の脅威足り得るのは他の異能者の存在だ。
古典の妖怪から現代の都市伝説の怪異まで操れる力を持つ口伝様に現代兵器が通用するとは思えない、目的は不明であるが何かを計画しているのならば警戒に値する異能者の芽を摘もうと行動するのは当然だろう。
「召喚師様、どうやらその線で当たりらしい。怪異に対抗している勇者様達とやらも次から次へと怪異が彼らの周りに集結を始めて、もはやちょっとした戦争になっているねぇ」
そう言ってタブレットの映像をカーナビの画面に映し出す。
『なんだ!なんなんだ!今日は次から次へとゴミみたいに化け物共が集まりやがって!おい!柳生!特攻装備に変更して、多重起爆で辺り一帯を吹っ飛ばせ!こっちはMPがあるから大技連発なんてやってられん!』
口裂け女やらてけてけやら、メリーさんのような白い人形に黒い車輪の軸に頭のある化け物、膨れた巨大な頭部を持つ女子生徒、宙に浮かぶ眼球や顔、絵画に幽霊とまさに百鬼夜行と呼ぶに相応しい惨状の中で、大声で笑いながら機関銃を怪異にぶっ放す痩身の男は勇者様を見て。
『オーケー!そっちは物理耐性付けとけ!化け物は皆道連れだ!』
拳銃を加えて自身の頭を吹っ飛ばし、次の瞬間には全身に何か四角い白い物を全身に括り付けた状態で現れて。狂気的な笑みで起爆スイッチを握り。
『アンチ・フィズィクス・フィールド!』
『起爆!』
勇者様の周囲には半透明なシールドが張られると共に、柳生と呼ばれた男は括り付けた爆弾で自爆をし――
『くそ、うるせぇ!もうちっと静かに連爆してくれよ!』
――勇者の怒号が掻き消える程に、柳生と呼ばれた爆弾を巻きつけて自爆した男は吹き飛んだ瞬間に爆弾を括り付けた状態で再出現し、そして爆発し、更に再出現を繰り返していた。
秒間十回の爆発。大瀑布のように絶え間なく爆音が轟き、勇者様のシールド全体を埋め尽くす爆炎と終わりのないような大爆音の中でリポップしては爆死する柳生の姿がパラパラ漫画のようにコマ送り上に出現しては爆炎を上げる。そして音が鳴り止んだ後。
『さて……そろそろ狩るか!』
『死に疲れた……あとは……任す……』
まるで戦略爆撃にでもあったかのように、勇者様達の周囲100m前後は爆炎で焦土と化し、更には山中での爆発の為に延焼が始まる中で半透明の幽霊やら燃える幽鬼やらと物理攻撃に耐性のありそうな怪異たちが迫ってきていた。
柳生と呼ばれた無限リスポーンの兵士は地面に仰向けに転がり、対して勇者様は黄金に輝く剣を掲げて闇を払う光で辺りを照らし。
『おい!くねくねは反則だろ!こっちは撮影してんだぞ放送事故になるわ!』
遠くで白くくねくねとした人型の何かをカメラに映った瞬間に勇者様はカメラをぶち壊して映像は途切れた。
俺達は高速道路の路肩に寄せてそれを観た後。
「他の異能者の配信者も似たような状況になってるねぇ……流石に怪異狩りするレベルの異能者となるとそう簡単にはやられないけど、どうやら口伝様は異能者を狙ってるみたいだよ」
「狂ってるのか?それとも日本全国の異能者達を敵に回して勝てる自信があるのか?」
「口伝様の異能の詳細は分からないが、持久戦になったら召喚者である口伝様を止められない限りは面倒だねぇ……まぁ、低位の怪異相手なら結界の装置は作れるけど」
「雑魚は雑魚同士で殺し合っていれば良い……我が相手するには弱すぎる」
「ミラクルちゃんは早くこの口伝様を止めるべきだと思います!」
「私は主様の身さえ守れればそれで良いです」
異能者の中でも静観を望む者達にすら喧嘩を売りに来た口伝様。確かに異能は強力であるが、そっちがその気ならばこちらも動かざるを得ない。
「マキナ」
『はい』
「先に旅館に行って民俗学者、人類学者、ホラー小説家、SCP創作者、怪異を扱うゲームのランキング上位者、口伝様が現れた直前の都市伝説に対するSNS上での書きこみの精査とネットで探れるモノは全部探れ。今の現代で、それも都市伝説を扱う異能の職業を得る奴がネット上に痕跡を残さない筈がない。始末を付けるぞ」
『分かりまし――』
「あぁ、最後に一つ。口伝様は一つミスをしてるから、勇者様達の映像を見直してくれ。多分、口伝様はクリエイター気質の筈だから致命的なミスとなる怪異が居るはずだ」
『必ず見つけます』
口伝様の最大のミスはただ一つ。
その異能の職業を得るということは本人の気質が強く反映されていることであり、怪異を創造するという力を持つならば――
「クリエイターなら自分のオリジナルを作りたくなるよな……口伝様」
――必ず本人が作り出したオリジナルの怪異が存在する。
そして異能の職業を得る程の執着を持つ者がネット社会に進出せず、個人の閉じた領域で創作を終わらせる筈はない。
「必ず探し出してやるから口伝…………都市伝説マニアが!」
俺は混沌とする世界の中で危ういバランスながらも平和を維持している日本をぶち壊そうとする口伝様に対して怒りが抑えきれなかった。
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