第22話高速道路の怪異

「しっかし空いてるなぁ……夜間の自粛なんて法律的な罰則ないのにここまでとは」

「主様。道路に車がほとんどいないことはそんなに珍しいのですか?」

「ん?あぁ……真夜中とはいえ、高速道路でここまで車がないなんて異常だよ。まぁ、それだけ一般人は怪異を恐れているってことなんだけどさ」


 市街を抜けて高速道路のインターチェンジに入った所で自衛隊の車両が待機している以外は、ちらほらと自衛隊の車両や大型トラックが走っているだけで普通自動車の見る影もなかった。


 仕事で仕方なく走ってる人以外に真夜中で運転するのはほとんど居ないか……パーキングエリアも怪異が出現して騒ぎになったぽいし、夜中は本当に化け物たちの時間となった訳か……。


「こちらとしては空いてる方が好都合だけど……早く口伝様の始末が付いて欲しい」


 日本各地の妖怪や都市伝説の怪異を出没させて混乱を招く口伝様と言う異能者。あらゆる場所にテレポート出来る勇者様達ですら尻尾を掴めずに、現れた怪異を討伐するという対症療法の後手に回らざるを得ない強敵。


 居場所が分かれば、こっちからも強襲出来るけど探知系の美少女は引けてないしな……。怪異の力を操れるってことは異世界系みたいな異次元に隠れられたら対処のしようがない。


「今の日本で本格的に危険視されてるのは、口伝様と勇者様達だけみたいだねぇ……ボクたちも存在が露見すればトップ3に昇格かな?」

「一応は日本の治安維持の最大の功労者が口伝様と同レベルの危険人物扱いは笑うに笑えねぇよなぁ……俺達はそんな扱いは御免だから出来る限りは身を潜めたいね」


 政府としては異能者の対応に後手後手に回り法整備が遅れている現状、その穴を埋めているのは法を無視した勇者様達に他ならない。彼らの行為は結果的には正しいが、日本でその大量殺人を持て囃すネットや国民に難色を示す識者の気持ちもよく分かる。

 

 行き過ぎれば……異能者に対する市民による私刑が行われる危険性。法治国家である以上は法を持ってして裁くべき対象に世紀末理論を展開する勇者様達も何だかなぁ……いや、状況的にそんなことを言ってる場合じゃないんだけど……。


 後部座席で寝ているフェラブルをバックミラー越しに見て。彼女一人でも国家を潰せる暴を持っていると考えると、異能者達に対する私刑は仕方ないかと嘆息していたら――


「なんだ……?事故か?」

「違います。邪悪な気配がミラクルちゃんのレーダーにビンビン引っ掛かります!あれは何者かの攻撃によって横転したみたいです……ッ!」


――横転する自衛隊の車両から這い出ようとした人間の頭部が砕かれて血の花を咲かしていた。


 ミラクルちゃんの緊張した声、そして車両の周囲に佇む七人の老婆が自衛隊員の血肉を貪っている光景を見て、俺は急ブレーキを踏む。

 

「んぁ……?なんだ?もう着いたのか?」

「いや、どうやら怪異の登場のようだ。ありゃ、無視する訳にはいかないな」

「ハッ……!雑魚じゃねぇか!でも寝起きの運動には丁度よい!」


 俺が踏み込んだブレーキ音が農婦のような怪異たちの視線がこちらに向けられる。誰もが皺の刻まれ腰の曲がった老婆でありながら、その手に掴む赤い臓物がその異常さを際立たせる。

 俺達は車から降りて数十メートル先に居る七人の老婆たちと相対しようとすると――


「また新しい獲物が来たねぇ……次は食い甲斐がありそうじゃ」

「わたしゃ、あのピンクの小娘を貰おうかねぇ……ひひひ」

「それじゃあ、こっちはあの耳の長い女子にしようのぅ……ぎゃっ!」

「なっぎゃ!」

「ひぃ……ッ!ぁぁ!」


――爆雷と共に地面が爆ぜ、瞬きの間に上空から降り注ぐ光弾によって婆達は塵と化した。


「そういえば、マキナさんが上空から援護してるんだった。完全不意打ちでババアの怪異たちが壊滅状態になったよ……」

【つまんないの……】


 鎧袖一触。どんな怪異だったのか結局分からずじまいのまま、おそらく七人ミサキとターボババアの伝承が融合した口伝様の化け物たちは肉片も残さずに塵となって消えた。


「さて……行くか」

「あの緑色の服を着た人達は助けましょう!正義の癒しのパワーでまだ間に合います!」

「じゃあ、通り抜けに回復魔法で治癒してあげて!」

「分かりました、導師様!」


 俺は切ったエンジンを再び吹かし、ゆっくりと地面に散らばる自衛隊たちを轢かないように気を付けながら合間を縫って通り、ミラクルちゃんの魔法の力で蘇生させていく。


「おぅ……」


 まるで液体金属の殺人ロボットのように肉片が意思を持って動くきだし、一人でに人型の肉の形を作り始める七人のババアより怪奇な光景にドン引きしながら、全裸の男たちが地面に生成されるのを見届け。


「全員終わった?」

「はい!ミラクルパワーで蘇生成功です!」

「なら、さっさとトンズラするか」


 俺はこれ以上居ては危険と判断してアクセルを踏み込みその場を脱する。


「所詮は低位のアンデッドか……我の相手をするでもないな……」

「警戒を強めましょう。私達が平気でもこの乗り物が壊れては困ります」

「そっちは心配ないさ。ボクの錬金術で壊れたパーツならすぐに交換できる」


 君たち強くない?いくらなんでも皆強くない?俺なんて死体と怪異に遭遇して内心で心臓バクバクで平然を装うのに必死だったんだよ?なんでそんな道にゴミが落ちてた程度の反応で済ますの!?


 改めて俺の召喚する美少女達の強さを再確認して、俺は自衛隊の車両の横っ腹が大きくへこんでいた事を思い出し、あの老婆たちも車を大破させることも容易い化け物だったんだよなぁ……とぼんやり心の中で思いながら高速道路を走るのだった。

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