第20話駄狼

「と、言う訳で『狂月魔狼のフェラブル』と謳われる、フェラブルさんです!皆さんもこれから仲良くしてあげてください!」

「我には劣るが中々に粒揃いではないか。ふむ、我に傅くに相応しい」


 初対面の存在を相手に傲慢不遜な態度で俺のベットで横になり、マキナさん達を品定めするような不躾としか言いようのない視線で眺めている。


「何様だ、貴様。それに主様の寝台の上でその態度……無礼にも程があるぞ!」

「あ?長耳の分際で我に指図するつもりか?よほど死にたいようだな?」

「ちょっと二人とも仲良くしましょう!導師様もそう仰いましたし、愛と平和は世界をより良い世界に導く大切なピースです!ピースだけに!」

「ガキは黙ってろ」

「むぅ……」


 もちろん、そんな舐めた態度で接してくるフェラブルさんに対する美少女四人の心証は最悪に近く、『奇跡の魔法少女ミラクルちゃん☆』の寒いギャグは一蹴されてムクれ、『一矢百殺のリティア』は挑発的な言葉に視線で射殺さんとばかりに睨むが、フェラブルさんの顔は涼し気でどこか反応を楽しんでいるように思える。

 

【こわいね~お兄ちゃん】

「仲良くして欲しいんだけど……これどうしよう……」

【私達とは格が違う存在だし……あの狼さんの性格じゃ無理じゃないかな?】

「だよねぇ……」


 全裸で頬杖を付くフェラブルさんから滲み出る優越感のようなもが彼女たちを更に刺激するのだろう。こんな時に仲裁をしてくれそうなマキナさんはSSR以上のカードを引いた際の固有演出により異世界に飛ばされる俺の安全策を考えることで必死で三人のやり取りを気にも留めていない。


 マキナさんからすれば全てが俺を優先だし……固有演出で孤立した状態でSSRクラスの存在と接触するのは大問題だしな……それにこの仲裁は召喚師として俺がすべきことだよな。


 『狂月魔狼のフェラブル』との主従契約の成立の際にこちらに戻って来たマキナさんは、俺とフェラブルさんのSMプレイに最初はドン引きしたがすぐに正気に戻り何が起こったのか問いただされた。

 その時に機械人形であるはずのマキナさんの血の気が引くような表情を見て事の重大さに俺も気付き、そして他の二人に対する状況の説明の末に今に至る。


 今回はフィスターニちゃんが俺の体内に居たから連れて行けだけど、もし俺一人だったらフェラブルさんに勝てたかなぁ……いや、勝つと言うよりは主として相応しいかか……。


 UR『狂月魔狼のフェラブル』ともなれば、完全な不意打ちである闇の拘束がなければ一撃を入れられたかすら怪しい。神話クラスの戦闘力を秘めた彼女に対して、ただ身体能力だけがSSR級の俺では手も足も出ない存在だ。もし一人で固有演出の逆召喚に巻き込まれたら死んでいただろう。


「フェラブルさん。そんな仲間同士で喧嘩をしないでください」

「さんは要らないぞ、主。それにこれが仲間だと……?ふはは、主は冗談が過ぎるぞ、こんな格下共と我を一緒にするなど」


 金色の瞳がすぅ……と細め、犬歯を出して笑う。その肉体から溢れ出る覇気も圧力もそして神話級に相応しい美貌と肉体を兼ね揃えた完璧な存在からすると、心の底から侮蔑ではなく当たり前の事実として彼女たちを格下と思っているのだろう。


 やべぇな……レアレティもあるけど、『狂月魔狼のフェラブル』は単純スペックだけならLRに届くからこの傲慢さは矯正不可能だ……。せめて同格の存在が居ないと彼女の増長は止められないぞ……。


「フェラブル……ならば、せめて見下すような発言は止めろ。彼女たちも俺が召喚した美少女達だぞ?つまりは俺の大切な存在だ……それを蔑ろにするならば例えこの中でもトップクラスの実力があろうと君を――――って何やってんの?!」


 俺が言うべきことを言おうと、怒りを持って叱責していたはずだったのに、フェラブルは毛布の匂いを嗅ぎながら、息荒く上気した顔で自身を慰め始めていた。


「すまぬ……主。その怒りを孕んだ瞳で見つめられると……我の身体がゾクゾクと疼いて仕方ないのだ……出来れば、その……我を叩いてくれないか……?ンッ――想像したら……ッ!んっ……ッ!はぁ……はぁ……その視線も良いぞ……もっと我を……虐めてくれ」

「…………おい!俺は真面目な話をしているんだぞ!?いい加減にしろ!フェラブルのせいでどれだけ二人が――おい、マジで止めろ!」

「きゅぅっ……ッ!もっと……もっと叱ってくれ。罵れ、そして出来れば……我の頭を踏みつけにして……この駄狼!と侮辱を……ぁっ!んっ……!」


 一人で勝手に盛り上がり高みに昇る駄狼を前に俺は途方に暮れていた。まさか叱るだけで欲情するドMの変態人狼とは思いもせず、これに何を言ってどう説得すれば良いのか皆目見当が付かない。


「リティアさんとミラクルちゃん。あの駄狼は中身があんなんなんだ……だから、その優しくしてやってくれ……。アレの対処は俺がちゃんと考えるから仲間はずれにしたりはしないであげてくれ……うん、あんなんだけど」

「主様がそう言うのならば……確かにあれは……分かりました」

「ところであのフェラブルさんは何をしているですか!ミラクルちゃんはなんだか身体が火照ってきました……ッ!どうしましょう!導師様!」

「君、何をしてるか知ってて俺に聞いてるよね?ちょっと落ち着こうか」


 引く気味のリティアさんと駄狼に当てられてそわそわするミラクルちゃんの背中を押してトイレに押し込む。

 ベッドで絶賛発情中の駄狼のフェラブルの盛り具合に辟易しつつ、この調子じゃマトモに会話するのにもう少し時間が必要なので、俺はまだ考え事をして周りが見えないマキナさんをそっとしておき、リティアの肩を叩き。


「それじゃあ、最後のSRカードを引くから護衛を頼むよ」

「えっ、はっはい!ですがもしまた固有演出に巻き込まれたら……」

「あれはレアカード限定の昇格演出だからSRでは発生しないよ。それにこのカオスな状況で頼れるのはリティアさんだけなんだ」

「私だけ……」


 何故か胸に手を当てて目線を下げて感動するリティアさんを見ながら赤く輝くカードに触れようとすると――


【バァ――――――――――ン!】

「うぉ!フィスターニちゃん!驚かすな!」

【えへへ……お兄ちゃんがガッチガッチだからほぐしてあげたの?だって、その状態だと召喚された美少女は怖がっちゃうよ?】

「何を言って……あっ……あー確かに」

【でしょ?】


――場の混沌具合に自身の身体の異変に気付かない俺をフィスターニちゃんは解してくれた。


 ベッドで盛る駄狼。トイレで勤しむ魔法少女。思考の迷路に迷い込む機械人形。俺の傍で控えるエルフ。そして体内で悪戯をする闇の子と部屋のカオスを改めて認識し、俺の頭と身体が冷えてきたのを感じ。


「さぁ、最後の一枚!SRの美少女よ!俺の召喚に応え給え!」


――赤く輝くカードに指先が触れた。

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