第19話魔法少女と人狼

「世界に闇が覆う時!みんなの奇跡の信じる力が私の闇を裂く光となる!ここに呼ばれて初めてこんにちわ!魔法少女ミラクルちゃんがここに参上!お兄さんが私を導く導師様ですか?!」

「うん……そのよろしく、俺は大刀気合だ。ミラクルさん」


 ピンクのボブカットに五芒星の髪飾りを付けたピンクとホワイトのフリルのドレスを纏った中学生くらいの少女が魔法陣から現れた。その手には突端に星マークが浮かぶ赤いステッキ持ち、瞳はピンクで瞳孔は黄色い星型。まるで日曜朝に放送されるアニメに出てくる容姿をした少女はこちらにウインクしてステッキを向けている。

 俺はしばらく思考がフリーズした後。


『奇跡の魔法少女ミラクルちゃん☆』か……うわぁ、また面倒なタイプを引いたな。

 

 人々の心に宿る邪悪の芽を芽吹かせて世界を滅ぼそうとする悪の秘密結社と戦う、光の精霊に選ばれた魔法少女ミラクルちゃん。設定では善良であることは理解しているが、全体的にテンションが高めな上に目の前の悪は見逃せないという、俺の当面の方針とは致命的に合わない正義の魔法少女である。

 

「導師様!ミラクルちゃんにさん付けは必要ありません!ミラクルちゃんと私の名を呼んで、そして共に世界に正義と光を人々の心にもたらしましょう!」

「あー……うん……そうだね」

「そうですよね!それでは世に蔓延る悪の芽を摘みに行きましょう!」

「ちょっと待て。まずはこの世界の現状をマキナさんに教えて貰ってから……これから先の行動を決めよう」


 俺の言葉に駆け出そうとするミラクルちゃんは足を止めて、俺の指差す方向に居るマキナさんとリティアさんに視線を向ける。


「なるほど!まずはこの世界の全体像を把握する必要がありますね!確かに蔓延る悪を一つ一つ潰して行くより、まずは元凶たる存在を止めなければ根本的な解決になりません!ならばまずは世界の悪をミラクルちゃんが見極めようではありませんか!」

「よし!頑張って見極めてくれ!」

「お任せください!」


 これで問題の先送りは成功っと……とりあえずミラクルちゃんの対処は後にするとして残り二枚の美少女カードを引かなければ。

 無駄にテンションの高い上に、声がハキハキとして元気に溢れるミラクルちゃんは相手をするだけで精神的な疲労を感じながら、先程から黙っているフィスターニちゃんに声を掛ける。


「どうして黙ってるんだ?」

【あれは天敵……光と闇は根本的に相容れない。嫌悪感で気持ち悪くなる】

「まぁ、正義の光の魔法少女だからね……」

【さっさと追いだして……お願いお兄ちゃん】


 追い出してと言われても俺が召喚した美少女であるので責任を持たなきゃならない。それにミラクルちゃんを追い出すとこの世界で勝手に正義の執行をしかねない危うさがあるので放って置く訳にはいかないのだ。

 

「召喚師として責任あるからそれは無理だよ」

【…………お兄ちゃんが決めたら我慢する】


 召喚された美少女同士にも相性があることを理解して気が重くなる。このペースで毎日召喚していけば、必ず不倶戴天の敵となる美少女がかち合うハメになるので拠点での生活スペースに気を付けねばならぬと心に留める。


「残り二枚で最後のレアカードはどんな子かな……」


 俺は残りの二枚のカードの内、最後にSRカードは残すのでレアの方のカードに触れると――


「ん?なんだ?ん……?あっ、これってレアリティ昇格演しゅ……ッ!」


――青く輝いていたカードが黒炎を纏い始め、次の瞬間には満月の荒野へと視界が切り替わる。


【どうやら逆召喚されちゃったみたいだね、お兄ちゃん】

「固有演出……ッ!SSRカード以上で発生することは知ってたけど、まさか世界を跨いで何処かの異世界に飛ばされて美少女に会う感じになるとはな……これヤバくない?」


 満月の荒野には甲冑を着た兵士たちの死体が地平線の彼方まで広がっていた。漂う死臭に血の匂い、そして漏れ出す糞尿の臭いに辟易しながらも大地を血で染められている様子はまさに死地。

 青白く照らされる戦場の中で俺は月光を陽炎のように纏う人外を見た。


「『狂月魔狼のフェラブル』か……URにしちゃ、ピーキーなの引いたな」


 身長は2m50cm前後、人狼形態であるので肉体は巨大化し、黒銀の美しい毛並みと金色の瞳はこちらを射抜いて離さない。その瞳には獰猛な獣性が浮かび、体毛で覆われた腕の先から伸びる鋭い爪をこちらに向け――


「召喚師……その実力は我に相応しいか見定めさせてもらおう」

「うぇ!?マジか……ッ!」


――咆哮を上げて『狂月魔狼のフェラブル』は突進をしてきた。


 いきなりバトル展開!ちょっとゲームでない演出なんですけど……ッ!まぁ、いいや!ならば、こっちもこっちで遠慮なくやらせてもらうぞ!


【数秒抑えるから!やって!】


 0.1秒もしない内に目の前に現れた巨躯の人狼が鋭い爪で俺を引き裂こうとした瞬間、体内に居たフィスターニちゃんが実体のある闇を展開して人狼を抑えので、俺は体内に溜めて圧縮した魔力を解放して。


「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「グァ……ッ!」


 魔力によって現実を上書きした結果の圧倒的な筋力によって生み出される正拳突き。それは何の技量も持ち合わせない俺が、ただの全力で殴り飛ばしただけであるが、その踏み込みの力強さによって地震が起き大地は踏み砕かれて衝撃で兵士の死体と土片が浮かび、空気が破裂する音共に人狼の鳩尾にめり込み、水平に米粒に見える程の距離まで吹き飛んで行く。

 

「うわ……こわっ!」

【流石ですお兄ちゃん!今の一撃は凄まじい威力でした!】


 フィスターニちゃんは俺の一撃を褒め称えるが、俺からするとどこのバトル漫画のパンチ力だよと自身が生みだした破壊力にドン引きする。

 周囲を見れば、俺の踏み込みを中心に巨大なクレーターが出来上がり大地に裂け目には血が流れ込んでいる。そして俺が殴り飛ばした人狼は地平線の先で何事もなかったかのように起き上がり。


「また来た……ッ!」

【う~ん?別に殺気はないから危険はないよ】

「そうなの……?って……うぉ、これ映画で見たやつだ!」


 流石はURの『狂月魔狼のフェラブル』。瞬きもしない内に数百メートルを踏破して、見事なスライディング土下座の後に前転をしてお腹を見せる。


「見事でございます。召喚師でありながらその膂力。我の主に相応しい……お踏みください」

「踏むってお腹を……?えっ、踏むの?」

「はい。それが服従の証でございます……さぁ、さぁ……ッ!」


 巨大な人狼がお腹を見せる姿は中々にシュールであったが、俺は促されるままに『狂月魔狼のフェラブル』を従属した証としてお腹を踏みつけると――


「きゅぅっ……ッ!」

「うわっ…………」


――切なそうな鳴き声と共に『狂月魔狼のフェラブル』は失禁をした。


「失礼しました、主。我が初めて感じる服従の恥辱と快楽のあまりに……」

「あぁ、うん。そういうのってあるよね。分かるよ」

【えっ……?お兄ちゃんも経験あるの……?】


 いや、経験ないけど……ちょっと変態過ぎてなんとなく話合わせちゃったんだよ。 


 フィスターニちゃんの引く声に俺は内心で自己弁護するが、踏まれた被虐の快楽からなのか人狼状態から人化して両腕と両足を曲げて恍惚とした笑みを浮かべる美少女を眺める。


 黒銀の長い髪に金色の瞳に縦長の瞳孔。185cm以上はある高身長でモデル体型の普段なら強気なお姉さんタイプなんだろうと思える顔立ちが喜悦を浮かべている。ドMなタイプなのか、何となく足をグリグリとやってやると更に失禁してよがるり嬌声を上げるのを見つめていると――


「何をやっているんですか?マスター……?」

「おぉ主様……そういうのが好みとは……」

「人を踏んではいけませんよ!導師様!」

「…………………………………なんでこのタイミングで戻るの?」


――最悪のタイミングで異空間から現実に戻って来た俺を待っていたのは、三者三様の引き方をしている美少女たちであった。

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