第18話口伝様

「貴方が私の召喚主か?」

「そうだ、俺は大刀気合。これからよろしく頼む」

「ならば仕えよう、主様」


 緑色のチャイナドレスというより、二枚の長方形の布を両肩と腰の部分を紐で結んだ露出狂のような格好をして長髪の金髪に長耳と緑色の瞳という、まさに日本のサブカルチャーに出てくるテンプレートのような女エルフと俺は握手をする。


 レアカード『一矢百殺のリティア』。超人的な視力と膂力によって放たれる矢は数キロ先の敵の頭蓋を的確に射貫く魔弓の射手。性格は忠実で人格的に欠点と言える所はない程に高潔なキャラクターである。


 設定でもヤバい所はないし……まぁ、人格面では当たりだな。戦闘能力は可もなく不可もないエルフの弓使い。初手でヤンデレ引いたから身構えたけど、まぁ最低ランクのレアカードで色物キャラはそんなに多くないしこんなものか。


 基本的にはレア度が上がる程に奇人変人狂人度が上がっていく『美少女大戦』において、最低ランクのレアカードでは設定らしい設定もないキャラクターが多い。『一矢百殺のリティア』も戦場で活躍した英雄でドワーフ嫌いである以上に特筆することはない。

 俺は二番目はまともな美少女を引けて安堵したあと。


「それでまずはリティアさん。君にはこの世界の常識と知識を色々と教えておきたい。それに関する事は後ろに控えてるマキナさんが全て教えるから彼女の話を聞くように」

「はい!主様!」


 背筋を伸ばしカエデと違い武人のような風格漂うリティアさんは、スラリとした身体を見惚れる程に美しい所作でマキナさんの所へ行き。マキナさんはパソコンの画面を見せてこの世界の情報を与え始めている。


【なんだか愛想がないし普通だね。あのエルフ】

「普通で良いんだよ……普通で……初手から俺の身体に入り込む過激な子はフィスターニちゃんだけで十分だ」

【つまりは私がお兄ちゃんのナンバーワン!だね!】

「それに関しては異論があるが……三人目呼ぶ前にちょっと気になることがあるから静かにしててね」

【はぁい】


 身体の中にもう一人誰かが居るのは変な気分であるが、一々気にしてたらこれからやっていけない。どうせ毎日美少女ガチャを引いていけば、この子は本当に良い子だったんだなと思い知る日が必ず来るだろうから。


「さてと、勇者様のたちの活躍を……おぅ、凄いなぁ」


 日本の治安を守るヒーロー。勇者の田中と兵士の柳生の活躍はまさに八面六臂の大活躍である。ツイッターのトレンドのほとんどが彼らに関することで占められ、今日も穢古焦蛇と呼ばれる土着の祟り神を呼び出そうとした地方のカルト教団と戦い勝利を収めていた。


『縁故金切』『山後童子』『スラッシャー凪』『邪経文法師』『語り部様』『解体屋』『辻斬り』『悪縁蔵書』『奈々奈奈波』『九龍嬢』


 この一週間で現れた人に害を為す異能者を片っ端から殺し回り、その映像をヘッドカメラで撮影して動画サイトにアップロードしている彼らはテレビでは法治国家にあるまじき私刑であると非難され、ネットでは英雄として持て囃されていた。

 

「と言っても、これは普通に殺人だろ。現行法でいくら人を殺している異能者であろうとも、何の権限もないただの一般人である勇者様たちに個人的制裁による殺人なんて国が許さないよなぁ……」


 世界の惨状を見れば間違いなく勇者様達の行為は正しいが、法治国家である日本で個人による私刑を認めると歯止めが効かなくなるので、警察は彼らに逮捕令状を出して連続殺人鬼として指名手配をしていた。

 国から直々にお前たちは犯罪者だと認定されても、当の勇者たちはそれはそうだろうなぁ、といった反応の動画を上げて恨みはせずに仕方ないと認めている。


「逮捕令状出た所で、この勇者様達を誰が捕まえるんだって話なんだけど……」


 勇者様達は指名手配されようとこれからも悪の異能者狩りを続け、捕まえられるもんなら捕まえてみろと警察を動画で挑発する。

 北海道から沖縄まで一瞬でテレポートして、警察や軍隊ですら太刀打ちできない化け物たちを狩りまくった生粋の超人たちである。警察に逮捕できるとは思えないし、多分警察の方もそれを承知の上で、法治国家の体裁を保つ為の指名手配なんだろう。本気で捕まえようとする暇があったら、木っ端の異能者を逮捕か保護することに力を入れた方が有益だ。

 そして勇者様達は日本で暗躍する異能者の情報を募っていた。その名は――


「口伝様か……都市伝説の化け物を創造する力を持っている異能者……自身が動かずに化け物を産み出すタイプか……厄介だな」


――都市伝説を現実に具現化する異能者。今、日本でもっとも危険視されている存在。


 各地に出没する都市伝説上の存在、てけてけ、口裂け女、メリーさん、邪視、八丈様、隙間男、てとてとさん、首なしライダー、大人喰い、八つの名、死地語さん、と有名から所からマイナーまで様々な化け物が暴れて口にするは口伝様という存在。


 語り語りて騙るは口伝様。その名は恐れ多くも口にしろ、我らの創造主である口伝様。語れ、語れ、その名を騙れ。さすれば口伝様は神へと至る。


 首都高に現れた百鬼夜行が歌う歌に出てくる口伝様と言う存在。そして各地に出没する都市伝説の化け物たちが、自らの伝承と関係ない者の名を口ずさむことから日本の怪異騒動の元凶とされている謎の異能者。

 

「流石に正体不明の存在相手には勇者様達も太刀打ちできないか……目的も不明、更には能力の詳細も都市伝説の化け物を具現化するということだけ……」


 現在はほぼ寝る間も惜しんで怪異狩りに勤しんで対症療法でなんとか抑え込んでいるが、口伝様の名が広まるに連れて怪異たちの活動が活発になり、勇者様達のみならず国も本格的に口伝様の対処に向けて動き始めている。

 

 語れ、語れか……口伝様って文字通り、自身の存在が広まるにつれて能力が強化される性質があるんじゃないか……?いや、それはもう分かっているけど、止められないか……。


 口伝様、都市伝説という伝承に由来する力を持つのならば、日本各地の騒動の目的も自身の存在を周知させて口伝させることが目的なのかも知れない。だが、現代の情報化社会で一度広まった情報を遮断することは不可能だ。つまりは完全に口伝様の策にハメられた形になる。


「どっちにしろ……このまま続けば俺も動かなきゃいけなくなるな」


 美少女召喚師の俺の能力であれば、増え続ける怪異とも対抗出来る。口伝様が日本を滅ぼすつもりならば、こちらも動かなければ手遅れになるのでどうにかしたいのだが――


「勇者様達と違ってこっちは転移能力持ちがまだ居ないのが悔やまれる」


――日本各地に神出鬼没の怪異を相手にまだこちらには4人の美少女だけでありマンパワーが圧倒的に足りない。


 ほぼ日本各地に休みなく転移を続ける勇者様たちと違い、こちらが行動に移すとなると機動力の高いマキナさん一人だけしか動かせない。最低でも転移持ちがなければ事態に対処は出来ないので。


「占い系の美少女引いて口伝様を直接ボコるか、転移持ちの美少女でもぐら叩きかの二択……さて、俺のガチャ運が試される時が来たようだ」


 残る美少女召喚カードは三枚。ここでクリティカルに口伝様に対処をするカードを引かなければ日本は危ういと感じて、久しぶりに目当てのカードを引きたいときの緊張感を感じて思わず笑ってしまうのであった。

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