第14話覚悟を見せろ
褐色の肌の若い男の周囲にはあらゆる物が宙に浮いていた。
自動車にに標識、ベンチにガラス片から自転車にコンクリートの破片とそれはハリケーンを思わせるように物体は男の周囲を高速で旋回し、撮影者の言語や周囲の人種からアラブ周辺諸国と思わしき石造りの街の中、男は身に降り注ぐあらゆる攻撃を浮遊する物を盾に防いでいる。
時には直撃したと思わしき砲撃も男の身体には届いてないのか、服に傷一つも付かずに男は何かを叫んでいた。
『俺が何をした!?確かに俺はあの声の後に念力が強化されたが……ただそれだけの理由で俺を殺すのか?!』
男に殺意も敵意もなく、ただ超常の力を振るえると言う理由だけで一国の軍隊と襲われる理不尽を嘆いていた。そして襲い来る軍隊も情け容赦なく淡々と追撃を開始する。
『……ッ!アァ……!ギィ……ガァ……』
小型ミサイルが男の周囲に着弾したと思ったら、何故か男は苦しみ始めた。そして撮影者も含めた周囲の人達も同様に喉を掻きむしるかのように倒れ始める中で、撮影者は最後に軍隊の方向にカメラを向ける。
そこに映っていたのは、防護服を着た軍人でありそれが意味することは一つ。
「BC兵器を対人で使用するとか狂ってるな……マジで」
俺は市内でBC兵器を使用し、たった一人の異能者を殺す為だけに街中の避難の遅れた人間を巻き込んだ惨事に辟易した。
中東はガチで異能者を滅ぼしに掛かってるとはいえ……本気度が違い過ぎる……。
世界のトップニュースを飾った、異能者相手に街一つを犠牲にして自国内でBC兵器を展開した国に対する各国からのバッシングの記事を見て恐ろしいものだと戦慄した。
そして殺された若い男も最後の力を振り絞り、文字通りの全身全霊の最大威力の念力により地図から小国の国土の半分以上が更地になる壮大な自爆は世界を震撼させる。
「異能者もピンキリとはいえ……上位陣はマジで核兵器に匹敵するパワーを持ってるのか……」
もちろん、俺の美少女召喚師も1年程経過して365人の伝説や神話クラスの美少女たちを召喚して破壊行為を始めれば大陸も滅ぼせる力を持っていると自覚しているし、俺の街で現れた邪神官も対処が遅ければ数百万を余裕で超える神話生物の軍勢を引き連れていただろう。
「科学技術もオーストラリアの宇宙戦艦も恒星間航行出来る数百年先の未来技術の宝庫らしいし……上位の力を持つ異能持ちは文字通りの歩く火薬庫だな……」
超能力、魔法、科学と異能に匹敵する職業持ちの上位陣は化け物ばかりである。下位の超能力者や魔法ですら、暗殺という点に置いては現代では防ぎようもなく権力者は震えあがっているだろう。
さて……俺も強いと言えばチートレベルに強いんだけど……俺自身の戦闘能力がなぁ……。
それらを顧みて自身を冷静に考えると俺は弱かった。美少女召喚師という職業が持つ異能自体はとてつもなく強力であり、一人で軍隊に匹敵する美少女達をノーリスクで召喚出来ると考えれば破格のスペックであるのだが――
「この超能力者の最後に放った最大火力の念力も……マキナさんやカエデなら耐えられたとしても巻き込まれた俺は死ぬよな……」
――俺自身の耐久力はただの人間と変わらないのが最大の弱点であった。
もしこれから上位の力を持つ異能者と敵対した場合、本体である俺を狙ったら非常にまずい。
呪殺のように遠距離から対象に直接作用する能力もそうだが、異能者を狩る為に軍隊が持ちだしたBC兵器を考えると範囲攻撃に巻き添えで食らって俺が耐えられずに死ぬ未来が見える。
「マキナさん……俺って鍛えるとどれだけ強くなれるかな?」
「マスターの力のリソースは召喚術にほとんど割り振っていると言ってもいいので……この世界に魔力を流出させる無尽蔵の魔力があるとしても、召喚術以外の強さを求めた場合はレア度で例えるならSSRクラスが限界でしょうか?」
「あっ……俺、そんなに強くなれるんだ」
レア、スーパーレア、スーパースペシャルレア、ウルトラレア、レジェンドレアの五段階で召喚出来る美少女たちのレア度は分かれている。その中でも丁度、中間に位置するレアリティの強さと考えると俺は実は凄いのかも知れない。
俺はそんな淡い期待にマキナさんに更に尋ねる。
「それで……その魔法の勉強とかすればいいのかな?」
「いえ、そっち方面での才能は召喚術に割かれているので別の方向ですね」
「別の方向……?」
魔法を使ってみたいと思っていたが、どうやら才能は別の部分にあるらしかった。それでもSSR相当、つまりはマキナさんより強力な力を手に入れられるので期待して続きを待つと。
「その無尽蔵な魔力で肉体の上書き……つまりは肉体の強化がマスターにもっとも適しています」
「それってもしかして……魔力で肉体を強化して物理で殴れ的な……?」
「端的に言えばそうです。もちろん基礎的な魔法の習得は可能ですが、現状の事態を鑑みると肉体の強化による、耐呪、耐魔、耐毒、耐物の護身の方を極めた方がよろしいでしょう。現に戦闘能力だけならば、マスターの召喚能力でことが足ります」
「物理タイプか……うん、そりゃ召喚に特化してるのに他の属性伸ばしてもね……」
ゲームで例えるなら、俺は召喚術師でありながら別の系統の魔法を伸ばそうと無駄なリソースを使おうとしている状態なので、マキナさんの召喚術の余剰魔力で肉体を強化し戦闘は召喚した美少女に任せて、俺は護身の為の肉体強化は非常に理に適っている。だが――
せっかく、無尽蔵の魔力があっても脳筋なんてあんまりじゃないか……ッ!
――ロマンだけは捨てられなかった。
せっかく手に入れられた異能。それも魔法の力を使えると知りながら、魔力で筋トレして防御力を鍛えて下さいはあまりにもあんまりである。俺も男として、美少女達の背後に隠れるだけではなく、前線に立ち共に肩を並べたたいと思うのは我が儘だろうか。
「……………………マスターの望みは理解出来ますが、今から魔法を習得したとしても、その言いにくいのですが、伝説や神話として語られる美少女たちと同等の技量を持つのは……その……不可能です」
「それは……まぁ、うん……そうだよね」
言わば、選ばれた天才の中の天才。生まれながらの天賦の才を持った美少女達が鍛えに鍛えて極限まで達したの技量を持つのが俺の召喚する美少女たちであり。俺が望むことは、そんな才女たちと降って湧いた力で並び立ちたいと言う非常に舐めた発言であることを理解して尊大な羞恥心で虎になりそうになる。
「ですが、その超一流の彼女たちから手解きを受ければ一流にはなれます。ですから、そこまで気落ちしないでください。私達はマスターに召喚されただけで全て捧げるに値するのですから」
「はい……」
降って湧いた力に溺れる人間であることを自覚し、そのまま舌を噛み切って自害したくなりながらも、マキナさんに慰められて物凄く悲しくなる。
「当主様!そこまで落ち込むことはございません!その無尽蔵な魔力とこれから現れる稀代の才能を持つ美少女たちから全てを学べば……より高みへと至れるでしょう!」
「カエデさん……」
気が付けば全裸になったカエデが俺の前に立ち、その手に持つ刀を俺に渡す。
「銘は冴吹き桜花!当主様の目指す先は矮小なる某には計りかねますが、何事も千里の道は一歩からであります!どれだけ遠くとも高みにあろうとも、主君の才能は決して他の美少女達にも引けを取りません!必要なのは根性のみ!剣しか知らぬ身ですが、まずは某の全てを望むのならば捧げるであります!」
俺はその長い刀身の刀を持ち、その重みの驚く。
ずっしりと重く、ただ持つだけでも相当の筋力が必要なこの刀をまるで小枝を振るような軽々と使いこなすカエデの力と技量を改めて認識し、俺はその柄に額を当て。
「俺はただ相応しくなりたかった。これから現れる美少女は天賦の才、血筋、美貌とあらゆる面で優れている。そんな存在と主従関係になることにどこか不安を感じていたんだ」
心の中の弱さを吐き出す。俺は最初から不安だった、主従関係にありながら、マスターと当主様と言われながらも俺にその資格なんてあるのかと。
その気になれば一刀で切り伏せられるカエデに、どんな機密情報すらも容易く覗き盗み見れるマキナに、そんな彼女たちの主人として何が優れているのかと考えて、いつも出る答えは一つだけ――
――俺は彼女たちより優れているところなど何もないことだった。
その答えに辿り着いて感じるのは劣等感ではなく孤独感であった。
何もかもが彼女たちと違い過ぎる上に、更に毎日のように優れた天賦の才を持つ美少女が俺を主として仕える。そこには俺自身で掴み取った力ではなく、与えられた美少女召喚師の恩恵に授かっているだけのただの大学生の男だ。
「強くなりたい。ただ、守られるだけではなく……召喚された美少女達に相応しいと言える程なんて傲慢過ぎるけど、それでもただ召喚術だけで結ばれた主従を超えた関係を築いていきたいんだ!だから、こんな情けなくて弱い俺だけど……力を貸してくれ!」
望もうと望ままいと伝説や神話に謳われる美少女は俺の下に毎日一人は現れる。
そこで俺は召喚師としてだけではなく、一人の男として見られたかった。ただの召喚による主従を超えた何か、それが本当にあるか分からないし、もしかしたら俺のただの自己満足であるかも知れないが本物の絆が欲しかった。
だから俺は止め処なく流れる涙と共に身の内の全てを籠めて叫ぶ。
「当主様の気持ちは分かりました。それじゃあ、マキナ殿」
「はい。それがマスターの望みであるなら、カエデ様」
マキナさんとカエデはそれだけ言うと、マキナは俺の脇の下を持ち。
「……………マキナさん?カエデさん?なにを?」
顔を上げると涙で滲む視界の向こうに真剣な表情のカエデが俺の目を見据え。
「そのお覚悟しかとお受け止めしましたので、これより鍛錬を始めます」
「マスターの望みとあらば私達は持てる全てで尽くすだけです」
カエデの指が俺の眉間に触れ。
「まずは魔力の流れを感じて頂きます。それは全身の魔力の経路に鋭い針の突き出す痛みで気が触れ、時には死を伴う鍛錬でありますが……よろしいですね、当主様」
「私はその痛みを最小限に留めますが、地獄の苦しみです。ですが、これがマスターの望みを叶える最短の手段です……いきますか?」
二人の声は真剣だった。これから行われる鍛錬は文字通り命懸けのものなのだろうが。
覚悟がなければ……これから増える美少女達の主足り得ないな。
「よし。やってくれ」
俺は何の迷いもなく、眉間から広がる魔力の血管というべき経路の全てから凄まじい痛みが走り出し、絶叫とともに俺の鍛錬が始まった。
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