第13話世界の選択

「マスター。この国での異能の職業を持つ人間の処遇が決まったようです」

「んっ……あぁ、もうこんな時間なのか……」


 睡眠の必要のないマキナさんは俺が寝た後もそのまま起きて仕事をしていたらしい。

 時計を見れば夜の21時を少し回った所だった。昼の11時頃から陽が沈み始める18時近くはぶっ通しで抱き続けたので精神的な疲労感はあるが肉体の衰えはない。


 マキナさんがサブの支援魔法まで使えたおかけで、このフィジカルモンスターのカエデを相手に出来たのは良いけど……正直、セックスというより格闘技をやってるみたいだったな……。


 あまりにも激しすぎるのだ。まるで獲物に噛みつき首をぶんぶんと振る肉食獣のように求めてくるカエデの相手をするのは大変であった。マキナさんが適度に支援魔法で肉体の強化と回復をしてくれたから良かったものの、生身でやってたら息子があまりの激しさにサヨナラをしている所だった。

 そしてそれとは正反対にまるでガラス細工を扱うように俺を抱いてくれたマキナさんの心遣いに感謝をする反面、男としてそれで良いのかと余計なプライドに押し潰されそうになりながらも、二人を相手に仲を取り持つように抱き合わせたりしたのだが効果はどれだけあったのかは本人達にしか知りようがない。

 俺は眠れる獅子のカエデを起こさぬようにベットから這いでて。


「それで日本は異能の職業持ちに対してどんな声明を発表したんだ?」

「まだ公式には発表はされていませんが、本格的な方針として異能の職業持ちの人間は国家が保護するという名目で監視下に置くようです。将来的には諸外国の異能者たちの引き起こす混乱に対抗する為の組織の構築を計画しています」

「餅は餅屋、異能には異能をか……まぁ、妥当な方針だなぁ……」


 アメリカの死霊騒動にしても、現代兵器が通用しない存在に対しては同じ超常の力で対抗しようとする算段らしい。合理的で無難な判断に日本らしさを感じつつ。


「他の国の判断はどうなってる?」

「アジア、欧州では似たように異能者の保護とい名の監視を、中東では魔女狩りが始まっていますが本格的に暴れる異能者を相手に手こずっているようです。アフリカでは部族間同士有力者の不審死が相次いで情勢は混沌を極めています」


 パソコンに纏められた各国のレポートを覗くと、先進国は軒並み異能者の保護という名の監視、中東では宗教上の理由から超常の力を持つ人間は許容出来ないので政府が殺して回り異能者は対抗の為に大規模な混乱を招き、アフリカでは呪術を用いたと思われる呪い合いの呪殺合戦により政治機能が崩壊。

 俺はパラパラと各国の詳細な事態の対応の為のプランを眺め。


「どこもかしこも地獄絵図だ……それとオーストラリア上空に空中戦艦ってなんだよ……」

「それは『スペース・パイオニア』と言われる、宇宙開拓SLGの初回特典の開拓用宇宙戦艦のようです。ゲームランキング一位のトィモシー・ジャッカスという29歳の男性が所有し、交渉の結果、現在はオーストラリア政府が管理しています」

「……もう次に何が起きても驚かないぞ」


 全長5キロ、乗組員が5000人という巨大宇宙戦艦の映像を見て、俺は本格的に人類の築いた文明が土台から崩壊する様子に半笑いになりながらも次のページに移る。


「今度は燃える巨人か……イスラエルは中東諸国にヘイト集めまくってるから、力を手に入れた異能者が暴れ始めているのかな……」

「こちらは北欧神話をベースにした『ラグナロク』に登場するキャラクターの炎の巨人、ムスペルである可能性が高いです。まだ本格的な軍事的な侵攻は始まっていませんが、アメリカの混乱に乗じて中東各国は戦争の準備を始めています」


 次はイスラエルの国境の壁を破壊し尽くす100mの燃える巨人。イスラエル軍も対抗するようにミサイルや戦車に戦闘機と現代兵器の暴力を持ってしても止められずに、ただ蹂躙されるしかないようだ。


「五年を待たずして世界は本当に終末を迎えそうだ。ところで日本の国家機能が麻痺するまでどれだけ余裕がある?」

「計算では、このまま諸外国のように異能者が大規模な混乱を引き起こさなければ5年までは持つかと……ですが、その場合でも世界情勢次第ですが食糧危機の可能性が3年以内には発生します」

「なら、さっさと拠点を構えた方が良さそうだ」


 世界は今、謎の声に与えられた異能をきっかけに軍事力という暴力装置によって守られていた偽りの平和の崩壊が始まっていた。そこには国力という国家の集団の力が圧倒的な個の暴力によって覆され、混沌となる世界に新たな秩序が生まれようとしている。


 その前に世界が核の炎で何もかもを燃やし尽くすのが先かな……。


 もはや俺個人ではどうにもならない世界の混沌を前にため息をつき。


「このレポートの更新を定期的にお願いするよ。もし世界がヤケになって日本に核ミサイルが落ちる事態になったら……マキナさんは止められる?」

「事前に発射と着弾地点が分かれば迎撃は可能です」

「そうか……まぁ、国も迎撃ミサイル発射するだろうし心配はないと思うけど、後詰としいてマキナさんにこの俺の住む日本は任せた」

「マスターの身を守るのは私の役目です。お任せください」


 ここまで来たらただ生きぬ抜くことと、そして五年後に発生する本当の終末、あらゆる世界の神々がこの世界の現れて覇権を握る戦争を止める為の神の降臨をしなければならない。

 俺はまだSNSでこの事態をまるで映画のようだと例える平和ボケした日本人たちを羨ましく思い。


「まだお前たちはパニックになるなよ……せめて俺達が準備出来るまでは尻に火が着いていることに気付かずに平和に過ごしていてくれ」


 まだお金が信用されている間に出来る限りの世界の混乱に備えての拠点作りを始めるのだった。





「あっ、マキナさん。もう一度確認するけど……中に出しても問題なかったんだよね?」

「はい。マスターの欲望はいくら私の中に吐きだしても問題はありません」

「なら、良かった。カエデはゴムを引き千切るし、色々と不安があったから」

「マスターが心配なさる必要はまったくございませんよ。私達はマスターの道具なのですから」

「うん……まぁ、それでもね……」


 マスターに抱いて頂いた時、その欲望は全て私の下腹部で受け止めていた。カエデの分も私は機械人形ですので平気ですと、マスターに申告し彼女の分も注いで貰ったのだ。


 たくさん、たくさん……マスターの種を頂きました。この貴重な子種の中でももっとも優秀な種を選別して、最高の御子をお産みしますね……ふふ。


 私はマスターに嘘は付かない。マスターが何を心配しているのかを理解しているが、それでも私は正直に答えたのだ。


――何も心配することはございません、と。


 これは嘘ではない。私がマスターの不安を喜びに変える為のちょっとした言葉遊びだ。

 

 あぁ……もう選別が始まってます。マスターの最高の子種が私の繁殖機能を利用して頂けるなんて……この上ない光栄です……。


 下腹部が疼き始めのを感じる。この『機械仕掛けのマキナ』の機能の一つが使われようとしているのだ、マスターとなる人の為だけに存在するとても大切な機能が動き出す。


「あぁ……マスター。これをご報告する時が楽しみです」


 きっと、マスターは私を受け入れてくれるだろう。そうすれば、もっともっと私に感情を向けてくれる。大切に思ってくれる。そして私がマスターの一番になるのだ。


「これからどれだけ道具が増えようと……これで私はマスターの一番の道具」


 ふと、鏡を見ると私は笑っていた。

 口端が吊り上がり笑みを浮かべる私の口をそっと手で撫でて、いつもの無表情に戻してマスターにコーヒーを差し出す。


「ありがとう。マキナさん」


 コーヒーを受け取ったマスター何気ない感謝の言葉に私の心は震える。もっと欲しい、もっと求めて欲しいと思う気持ちを隠しながら、私はマスターに与えられた仕事を始め。


 マスターと私の子……とても楽しみです。


――選別の始まった下腹部をそっと撫で、その欲望と熱量に得も知れぬ快感を得るのだった。

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