第12話俺の力の大いなる責任

「ただいまー。大勢の美少女たちを泊められる良い物件は見つかったかい?」

「はい。大人数を収容でき、かつ人目に付かないこれはどうでしょうか?」


 そう言って、パソコンに座るマキナさんが見せてくれたのは、田舎の山中に作られた旅館であった。外観は三階建ての日本旅館であり、築20年と僅かに古さを感じるがそれが丁度良い塩梅になって歴史を感じる雰囲気は出ている。


「リゾート開発に失敗した地域の旅館か……三階建てに部屋数は50以上、離れには従業員用の宿舎に本館には大広間に宴会芸場と確かにこれから増える美少女達と暮らすには理想の立地と建物だが……そもそも個人でこんな旅館を買えるのか?」


 周囲には人家は存在せず、同じようにリゾート開発の為に建てられたホテルや旅館が近くに数軒は存在するが売りに出されている。近くのスーパーまでは車で30分程の距離であり、電気も水道もライフラインは完備されているが個人で買えるものなのか疑問に思うと。


「旅館を経営する訳ではないので問題ないです。不動産登記等の手続きは全てこちらが済ませますので、マスターは売り主と会い印鑑を押すだけで終わります」

「そ、そうなんだ……ところでお金は……?」

「そちらはマスターの登録している仮想通貨取引所の全てから引き出しを行い、50億程までしか現金化出来ませんでしたが、雑所得を差し引いても十分かと」

「50億も稼いだんだ……」


 十分な大金であるが実感が湧かない。というよりも、世界が現在進行形で崩壊してお金の価値が大暴落している中では、ただの紙切れや通帳の中に記載される数字にしかならない可能性が高いので、さっさと金を物と交換したかった。


「足りなかったでしょうか?」

「いいや、よくやってくれたよ!それだけの大金を稼げるのはマキナさんくらいだ!君には本当に感謝してもしきれない!」

「マスターに尽くすのが私の役目ですから……でもそのお気持ちは嬉しいです」


 僅かに視線を逸らしてはにかんでいるマキナさん。そんな姿を見て、徐々に感情に芽生え始めていることに気付くと同時に――


 あ?これ、あれだわ……女に寄生するダメ人間の……あの細長い存在になってるわ、俺。


――自身が順調に美少女たちに身の回りの世話をしてもらうヒモになっていることを自覚した。


 経済面ではマキナさんが俺にお金を貢ぎ、肉体面ではカエデが俺の身の回りの安全を守っている。そしてそんな彼女たちに奉仕されている俺は、一切彼女たちに何も与えずに与えられるばかりの現状に危機感を覚える。


 やべっ!俺、屑だわ!ヒモだわ!こんな尽くされるばかり男なんて俺自身が一番嫌悪している対象じゃないか!どうしよう!なにかしてあげないと!


「ねぁ、マキナさんにカエデさん。俺は与えられるばかりで君たちに何も与えてないけど……何か俺にも出来ることはないかな……?」

「そんな必要はありません、マスター!ただ私達に命令を与え、ただの道具としてお使いして頂けるだけで私達は幸福なのです……ッ!」


 胸に片手を置き、俺の奴隷宣言するマキナさん。その瞳は真剣であり、何かを訴えるかのような焦りがなぜか垣間見える。俺からすると、この20年で培った常識を明後日の方向に放り投げて「よし!ならお前達の全ては俺のモノだ!奉仕しろ!」という鬼畜ムーブなんて出来る筈もなく。


「いや、その何でも良いんだ!頼む!このままじゃ、俺は本当にダメになってしまいそうなんだ!マスターを助けると思って……ッ!俺に命令でも何でも良いから求めてくれ!法律の範囲内なら何でも応えてやるから……ッ!……あとカエデさん?なんでさっきからジェスチャーしているんだ?」


 俺の願いに困惑するマキナさん。そして何故か、一言もしゃべらずにボディランゲージで必死に何かを伝えようとするので、何やってんだろ、コイツと思っていると。


「あっ、黙ってろって指示したままだった!すまん!もう話していいぞ!」

「ふぅ、ありがとうございます。つまりは話を纏めると、上に立つの者として主君様は某達に報奨を与えたいと言う訳ですね」

「……まぁ、そんなものだと受け取ってくれていい」


 微妙なすれ違いを感じるが、とりあえずは俺が与えられるままでは心苦しいことを理解してくれたので頷くと、カエデは得心のいったような顔で跪き。


「では、床入りの許可を……ッ!」

「床入り……?えっなにそ――」

「カエデさん……貴女は何を言っているのですか?そんなことが、道具である私達に許されるとでも……?」


 俺が願いの意味が分からずに聞き返そうとする前に、怒気を孕むマキナさんがカエデを睨んでいた。しかしカエデは余裕の笑みを見せてマキナさんと視線を交差させている。俺は意味が分からなかったのでスマホで検索すると――


 床入り……床入り……あぁ、つまりセックスか。ん……ッ!?えっこんな意味なの……ッ!


――カエデは俺との性的な交わりを求めていると知ってたじろぐ。


 いやいやいや……ッ!こんな人間兵器に抱いて、もしカエデが力加減を間違えたら俺は死ぬよ!?そもそも腕力ゴリラよりも遥かに強い女性とセックスなんて自殺行為だろ!ちょっと締められたら、ぽっきり息子が折れちゃうよ!


 俺は童貞ではないので別にセックスをしても問題ないが、その相手が問題だった。

 相手は異世界の中でも超人的な力を持つ美少女、その気になれば素手で車をぶん投げたり出来る筋力を持つ存在との肉体的な交わりは想像したら凄まじい恐怖であった。虎や熊とじゃれ合うことが、子猫と戯れることにすら思える程の圧倒的な肉体スペックの違い。もし背中に回した腕を強く締めたら背骨は真っ二つになることは容易く想像出来る。


「マキナ殿も何を勘違いしていらっしゃるのです?某達は道具、それは認めましょう。それならば一層、主君様が某達を道具としてお使いお慰めするのも何も問題ないはずです……おっと、機械人形であるマキナ殿には縁遠い話でありますな……これは失敬」

「貴女はマスターの道具であるので壊したりはしません。ですが、それ以上ふざけたことを口にするならば矯正は必要でしょう」

「それを決めるのはマスターであるはずでは?機械人形とは理性的で論理的と聞き及んでいますが、これはこれはカラクリに問題がありますな」


 そんなことを悩んでいると、二人の仲は険悪になっていた。優越感を滲ませるカエデに怒りの感情が発露して、眉が僅かにヒクついている。


「ちょっと待て!二人とも!喧嘩はいけない!」

「マスター……ですが、カエデさんはあまりに不敬過ぎます。道具如きが抱かれることを望むなど……あまりにも不相応であり矯正の許可を」

「それは某の言葉でございます。主君様は某を女として見ていることは先のでーとで理解しているのです。ならば、それにお応えするのが家臣の役目」


 なんでこんな修羅場になってるの……ッ!俺はただ……彼女たちにお返しがしたいだけだったのに……ッ!こんな時はどうすれば……誰か答えをく……あっ!


 ここに来て天啓が俺に降りてきた。これは大学で毎日女を食っているチャラ男の言葉が脳内を過ぎる。


『女同士が鉢合わせて修羅場になった時があるんだけどよ……そん時、どうやってこの俺は場の収拾を付けたと思う?』

『あ?なんだ?自慢か?自慢なのか?俺はモテます自慢か?』

『ダブルで抱いたんだよ。つまりはボノボと同じさ、積極的な性愛行動が関係の改善にとても役に立つのさ。今では仲良く三人でベッドインだぜ』

『俺達はゴリラなのか……そうなのか……なぁ、川口、やっちまおうぜ』

『奇遇だな。俺も大刀に同じことを言おうとしていた』


 これだ……ッ!これしかない!マキナさんも人型で生殖出来るかは不明だけど、確かセックス出来る筈……ッ!ならば、三人で仲良く抱き合えばなんとかなるのでは……ッ!


 正直に言うと今の俺は完全に素面でなかった。ぶつかり合えば、ここら辺一帯が更地になるような怪獣大決戦を前にして完全にテンパっていたのだ。だから俺はその場の勢いで――


「よし!なら、マキナさんも一緒にセックスしよう!仲良く三人で寝ようじゃないか?!」

「本気ですか?マスター」

「あぁ本気だ!カエデさんも別に問題ないよな?」

「はい!某は三人でも四人でもご寵愛を頂けるのであれば!」

「道具の分際で寵愛などと――」

「よし、それじゃあ決めた!寝るぞ!」

「マスター!?」


――もう後先考えずにやることをやることにした。


「俺は君たち程に身体は頑丈じゃないから優しくしてくれ、それとマキナさん」

「なんでしょうか……マスター……」


 恥ずかしがるマキナさんは可愛い。カエデは俯き加減に「身を清めてきます」風呂場に駆けていく。残されたのは俺とマキナだけで、その白銀の髪を手で梳いてやりながら。


「嫌なら断ってくれてもいい」

「嫌ではありませんが……私は人形です。それでもよろしいのですか?」

「そこは俺には関係ないさ。それに二人のおかげで見えたことがある」

「見えたことですか……?」


 蒼い瞳を真っ直ぐと覗き込み、ゆっくりと腰に手を回し。今回、俺が美少女召喚師としてやるべき重要な役割を口にする。


「俺は召喚した美少女達の仲を取り持つことが大切なんだ。これから毎日一人は増えていく美少女を相手にしてたら……きっと、俺が命令するだけじゃ破綻する時がきっと来る」


 これはゲームじゃない。召喚された美少女達にも人格も性格も感情もあり欲求もある。そんな一人の確立した個たちを纏めるには命令だけではなく――


「俺は俺の力に責任を持って……これから召喚する美少女たちを一人一人大切する」


――彼女たちの心をケアすることこそが、俺の力の大いなる責任なのだ。


 吐息が掛かる距離まで顔を近づけ、機械であるマキナさんでも息を吸う事を肌で感じて不思議に思いながらも、その熱っぽい吐息の中。


「マキナさん……俺は君を大切にする。それにカエデさんも他の未来の美少女たちも」

「私もマスターの道具として最後の瞬間まで…………未来永劫尽くします」


 交わる唇の中で、マキナさんの口内は燃えるように熱く、そして彼女の激しい感情が俺に流れ込んで来るのだった。

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