第6話決着!機械神の一撃!
『そこの人間。貴方がこの事態を引き起こしている元凶ですね』
『何者だ?お前も神の声を聞いた選ばれし存在か?というかその姿はなんだ?』
そこはやっぱりツッコむよな……。
ラクビー場の中心、クトゥルフの神話生物たちが湧きだす魔法陣の中心に佇む邪神官はそうマキナさんに問いただす。この会話をしている最中にも次々と化け物たちが黒い穴から湧きだし、生贄を求めて街へと繰り出していた。
これは早く止めなければ大勢の死者が出るぞ……マキナさん……ッ!
『私は選ばれし存在でありますが、神によってではありませんし、この姿については貴方に話すつもりはありません』
『そうか。異教徒がこの俺を止めに来たと言う訳だな。だが、この偉大なるクトゥルフの僕たちを前にしていつまでその余裕を保てるか……ッ!』
「微妙に話が噛みあってないなこコイツら!邪神官の正気度はゼロかよ!」
俺は今にも化け物たちに殺されている街の人を思い、早く決着を着けてくれと祈っているとマキナさんはシーツ貫いて右腕を突きだし、相対する邪神官は空を飛べるクトゥルフの化け物たちでマキナさんを囲う。
マキナさんは黒いドームとなった周囲に一瞬だけ視線を巡らせてから邪神官に向き直り。
『最後の警告です。今すぐに魔法陣の展開を止めなさい。さもなければ貴方を抹殺します』
「そんな問答は良いから早く邪神官を止めろ!今、この瞬間にも人が殺されているかも知れないんだぞ!?どうしたんだ、マキナさん!」
俺は思わずモニターに向かって叫んでいた。今のマキナさんには感情が芽生えていない筈であるのに必要もない問答を続けて、邪神官を相手に時間の浪費を続けているので俺は焦りを隠せない。
そして邪神官はマキナさんの警告に邪悪な笑みを浮かべ。
『馬鹿め!この軍勢が目に入らぬのか!死ね!偉大なるクトゥルフの神々の供物となるのだ!』
その言葉を合図に、マキナさんを取り囲むように展開していた化け物たちは彼女に殺到し――
『チャージ完了――
『へ……?』
――それと同時にマキナさんの右腕に魔法陣が展開し光り輝き、俺はこのシーンをゲームで見たことがあるので思わず叫ぶ。
「これは……ターン経過の大技、機械神の光芒!」
右腕に集まる眩い光はクトゥルフの化け物たちで覆われた空のドームを照らしだし、まるで闇を切り裂く光はその右腕に集束し、巨大な光線となって邪神官に向かって伸びていく。
これを待っていたんだな……マキナさん!
この技は一定ターン経過で発動する大技であり、現状のマキナさんの持つ最大火力の攻撃。あの機械の性格らしくない無駄な問答はこの為の時間稼ぎかと合点しモニター越しに興奮して眺める。
『なっ……ナーク=ティトの障壁!』
咄嗟に邪神官も攻撃を防ごうと半透明なドーム状の障壁を展開するが、ゲーム中盤まで使える大技の前では紙に等しい装甲を容易く貫き、巨大な光線の中に邪神官は溶けるように消えていく。
「よっしゃ!大勝利!これで奴は死んだ!――って死んだの!?」
俺はモニターに映るマキナさんの圧勝に思わずガッツポーズした後に、冷静に考えればこれは人殺しではないかと頭が冷えるが、邪神官の消滅と共にクトゥルフの化け物たちは存在を保てなくなり断末魔の叫びとともに消えていき、巨大な魔法陣も白い霧のように霧散する光景を見て。
「いや……大量殺人鬼のイカれカルト野郎が死んだ所で気にすることでもないか……」
厳密には殺人教唆であるが、あの邪神官は街で大量の人間を殺していた大罪人である。あのまま止めなければ何千、何万と死者が出ていたのは確実なので殺したことに対する罪悪感もすぐに薄れていき、それよりもこの事後処理をどうすれば良いか悩む。
俺はパソコンのモニターに映るもう一つの映像を見つめ。
「化け物同士の殺し合いの中でも逃げ出さずに撮影を続けるお前は本当になんなんだよ……」
俺は呆れた声でもう一人の狂人に向けて呟く。
そこには大学の屋上から、マキナさんと邪神官の相対から決着まで淡々と撮影を続け、今も白いシーツのお化けのマキナさんの映像が動画サイトに流れていた。俺は視聴者数が凄まじい勢いで増えていくのを見て。
うわぁ……リアタイで再生回数一億超えてるよ……。というか、このクトゥルフの化け物が世に出た映像が世界中の人間に見られた上に、それに対抗する存在が居る事が世界に知られちゃった訳か……当分はニュースはこの事件だけになりそうだなぁ……。
架空の存在であるはずのクトゥルフの化け物が日本の街で虐殺を繰り広げ、更にその原因たる人間が大学のラグビー場で召喚の儀式を行っているだけでも衝撃なのに、それに加えて空を飛ぶ謎のシーツお化けがビームで化け物を呼び出している人間を殺す瞬間が生放送されるとなれば、これは日本だけで終わらず世界で大騒ぎになるだろう。
「謎の声に続いて、アメリカでは死霊が大統領を襲い、世界各地では化け物が小規模ながら暴れて、日本ではクトゥルフの邪神官とシーツお化けの大決戦か……大学再開出来るかな……これ」
街では最低でも数百人が化け物によって殺され、大学は邪神を崇拝する邪教徒の儀式の場として大量の化け物が召喚され、明らかに大学の長期の休講は目に見えている。そして俺のバイト先も当分は休みになることは確実なので――
「マキナさん……ちょっと話いいかな?」
『はい。なんでしょうマスター』
「暗号通貨って知ってる?」
――マイク越しにマキナさんによる小遣い稼ぎのお話をするのだった。
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