第5話クトゥルフの邪神官vsアンドロイド美少女 相対!

「さてと、それで邪神を降臨させようとする馬鹿野郎は何処に居る?」

「監視カメラとSNS上の写真や動画からサーチした結果、朱鷺大学のラクビー場にて大規模な儀式に向けての準備を始めています」


 パソコンに映し出されるツイッターでバズっている動画にはフードを被った男が、ラクビー場に巨大な魔法陣を浮かび上がらせ、まるで地獄へと続く門が開いたかのように異形の化け物が次々と陣の中心の黒い穴から湧き上がり続けている。

 

「ねぇ、これって準備なの?なんか見ただけで発狂しそうな化け物が数百体を超える規模で現れてるけど……あとこれ撮ってる人は正気なの?」


 映し出される映像にはクトゥルフ神話の知識があまりない俺でも分かる程度には、有名どころの神話生物に酷似した化け物たちがラグビー場から外の世界へと向けて繰り出している。まさに百鬼夜行に相応しい光景の中で、大学の屋上でたった一人でカメラを構えて撮影しているこの投稿者は何者なのか知りたかった。

 この異常事態に息も荒れている様子もなく、淡々と儀式の撮影を続け、自身の居る構内に化け物が侵入しても逃げる素振りすらみせない剛の者である。


「これはまだ準備に過ぎません。これより大量の生贄となる人間の魂を集める為の尖兵なのです。儀式を止めない限りは際限なくクトゥルフの神の僕はこの世に召喚され続けることでしょう。そしてこの撮影者の正気については私には計りかねます」

「まぁ、撮影者はもうどうでもいいとして……。この召喚された化け物たちはこの事態を引き起こしたあの人間を止めれば消えるのか?」


 一番の懸念はこの異常事態の元凶たる人間を止めても、化け物たちが変わらずに闊歩を続け甚大な被害をもたらすことだった。そうなれば警察の武力では対処しきれず、最低でも自衛隊が出動しなければならない事態になる。


「はい。まだこの世界に魔力が満ちていない今は、あれらがこの世に留まり続けるには儀式の魔法陣による魔力供給とその要たる召喚者の力が必要です」

「なら良かった。ならこのままあの大馬鹿野郎をぶっ叩いて儀式を止めて警察に突きだ…………あっ、やべっ」


 ここに来て大事なことを思いだす。そう今し方、俺は世界各国の政府に五年後に訪れる破滅とその回避方法を教えたばかりである。そしてその回避方法の一つに、異能の力を持つ職業の人間の抹殺という手段を教えているので――


 ここで『機械仕掛けのマキナ』の存在とその召喚者たる俺の存在が知られるのはマズい……ッ!彼女はともかく、俺はただの生身の人間だ。例え彼女に守られようとも、暗殺手段なんていくらでもある!この先、一生背中に気を付ける人生なんて御免だ!


――俺は俺自身のせいで異能の職業を隠さなければならない事態にしてしまった。


 そう例え日本が抹殺という手段を選ばなくても、他国はどんな選択を選ぶかなど分からない。特に宗教色の強い国では超常の力を持つ人間の存在なんて許さない可能性が高いし、場合によっては俺の力は強力過ぎるからと異能の力を持つ暗殺者を差し向けられる可能性もある。

 なので今の俺が取るべき選択肢は一つ。


「マキナさんって空を飛べるよね?それでお願いがあるんだけど、正体がバレずにあの儀式を行っている大馬鹿野郎を止めに行ってくれないかい」

「分かりました。変装をして向かいます」

「ヨシッ!」


 情けない話であるが、機械とはいえ美少女であるマキナさんに丸投げすることにした。


 ここで俺が出しゃばっても出来ることはない……そうだ、俺はあくまで美少女召喚師。彼女に命令をすることこそが俺の異能の最大の力ではないか……ッ!断じて、俺は自分の身惜しさに彼女を前線に送っている訳ではない!


 だが、男の俺が何もせずにマキナさんに全てを任すことに後ろめたさで胸が焦げ付くような罪悪感に襲われる。そしてそんな俺の命令に健気にも実直に従い――


「準備が整いました。出撃の許可を」

「…………………………それで行くの?」

「はい。何か問題がありますでしょうか?」

「いや、問題はないけど……確かに全身が隠れてるけど……えぇー…………」


――ベットのシーツを頭から被り、シーツのお化けとなったマキナさんが居た。


 全身はシーツによって隠れ、目元の部分は穴を開けられている。それの外見はまさに絵本に描かれているシーツのお化け。確かに顔バレもせずに完璧な変装と言ってもいい合理的な判断なのかも知れないが、あまりにも見た目が可愛すぎる。


「一応、聞いておくけど……それで戦闘能力に支障はないんだよね?」

「はい。たかがシーツ一枚で私のスペックが落ちることはありません」

「うん……そうだよね」


 初期の『機械仕掛けのマキナ』は感情がない筈であるが、たかがとわざわざ強調してマスターである俺に疑問に思われたことに対する微かな怒りを感じたので、怖いから追及することは止めた。

 

「それでは許可を」

「…………許可する――うぉ……ッ!」


 そして俺はシーツのお化けに許可を求められて、許可した瞬間にシーツのお化けは発光した。裾からは光の粒子が零れ出し、高音のジェット機の発する甲高い音が響く中でベランダの手摺に軽い足取りで飛び乗り。


「それでは私はマスターの命令を実行します。パソコンに私の視界が映し出されるので、更なる指示がある場合はマイクでお伝えください」

「オーケー。それじゃあ、邪神を降臨を阻止して、大馬鹿野郎をぶちのめしてこい!」

「はい」


 そしてシーツのお化けは飛んだ。背中からは光の翼を生やし、粒子が舞い高速で飛ぶ姿は――


「これでシーツを被ってなかったら、最高の絵面だったんだろうなぁ……」


――妖精と言うよりもUMAに近かった。


 もしマキナさんがツインテールの銀の髪を靡かせて、背中から光の翼を生やして飛んでいたらさぞかし絵になっただろう。それは伝説の中の妖精のような、この世のモノではない人外の美を見せてくれていたはずだ。

 俺はその姿を夢想して僅かな後悔をして。


「さてと、クトゥルフの邪神官vsアンドロイド美少女というB級映画感満載のバトルを見学するとしますか」


 俺は自室のパソコンの前の椅子に座り、件の邪神復活を目論む邪神官と上空を飛ぶ『機械仕掛けのマキナ』の視線が交差する瞬間がモニターに映っていた。

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