第12話 勇者ならウルフより強いんじゃない ?
初めての勇者パーティーの仕事は勇者バーキンでさえヒイヒイ言うほどのハードな行軍であった。
体力の無いペネロペとウィルソンはもっと辛かった。朝食も受け付けない程だった。
「もぐもぐ、んっ ううっ。 ふうっ」
ペネロペは朝食を食べても戻しそうで、胃が受け付けないほど疲労がたまっていた。
「食欲が無いなら無理をするな ! その代わり腹がへった時には食えるだけ食っとけよ ! これはウンチクだけどな、キツいくらい身体を動かした直後30分以内に栄養補給すると一番力がつくんだぜ ! 」
「ありがとうございます。勉強になりました」
軽く食べて出発した。少し進むと森から出ることができて、やっとの事で目的地に着いたんだ。
依頼のレッドベアは体が人の二倍は大きく、赤黒い目立つ風貌なので簡単に見付ける事ができた。
性格は狂暴、こちらを見てすぐに敵か獲物と思ったようで、二体のレッドベアは大きな身体の癖に素早い動きで襲い掛かって来たんだ。
司祭ウィルソンは大急ぎで大盾を取り出して前衛に走り、使い魔のサーベルタイガーもペネロペの指示で攻撃に躍り出た。
レッドベアは早速近くに迫っていたウィルソンとサーベルタイガーのテトラに向けて猛烈な炎を吐いた。
ウィルソンは大盾で防いだが、テトラはまともに食らった。
格下のレッドベアの攻撃だったが、炎に耐性の無いテトラにとっては厳しいものだった。
「あーあーあー !! 炎を放ってくるのは判りきっているのに、正面からまともに行くなんて何をしてるんだ ?! 所詮、獣は獣だよなぁ !」
勇者バーキンは嘆いた。
「ガゥルアアァーーーーーー !!!!!」
その声に反発するかのように、テトラは背中に火が付いたままレッドベアに襲いかかり首筋に食らいついて、一気に押し込んでいったのだ。格上のサーベルタイガーに食い付かれては、たまったものではなかった。
それを見たスカーレットがテトラの火が付いた背中に向けて、シャワー状にした大きな水魔法を一気に放ち鎮火させた。
ウィルソンもレッドベアの攻撃を盾で防ぎながらテトラの怪我に回復魔法を掛けた。
押し込んだテトラにバーキンが加勢すると一気に勝負は決まった。レッドベアは火と爪撃で抗戦するものの成す術もなく討ち取られたのだった。
討ち取ったレッドベアは売却すると相当の金額になるのだから、絶対に持ち帰りたい。
これまでに倒した魔物も相当の重量になった上、レッドベアもかなりの重量で魔法の袋になど、とてもじゃないけど入りきらなくなってしまった。
こんな時には魔法の袋から荷車を出してケンタローの使い魔のウルフに牽かせたのだが…… それはできない。
「ウルフは居ないからなぁ、虎に牽かせれば良いんじゃないか ?」
「サーベルタイガーは持久力がありませんよ」
「はあ ? こりゃあ弱ったぞ !!」
「ナンで ?? あたしゃ凄い力持ちで持久力もある人を知ってるわよ。だって勇者ならサーベルタイガーよりウルフより強いんじゃない ?」
「スカーレットーーーーーーーーーーーー↘↘!! 何て事を言うんだぁー !」
ケンタローを追放した本人に責任を取らせる。半分は当て付けだが、スカーレットとしては当然の意見だと思っていた。
当然、森を回り込む安全な道で帰るのだが、そもそも行きにこの道を選んでいればレッドベアだけなら解体して魔法の袋に収まっていたはずだ。
少しの誤算の積み重ねが全て悪い方へと加算されていったのだ。
結局、他に良い案も無く、勇者が荷車を牽く事に決まってしまった。
それでも人並み外れた力で、グイグイと進んだのだ。普通の人なら考えられない程の力だ。
「ハハハハハ、これくらいの重さどうって事無いさ !!」
「うわあーー ! 凄い力ですねー !」
「アンタやるわねー !! 見直したわよ !」
しかし、暫く進むと様子がおかしくなってきたのだ。
「はあっ はあっ はあっ はあっ はあっ はあっ はあっ
はあっ キツい、くそー はあっ はあっ」
「頑張れ、頑張れ !!」
ウィルソンとペネロペは見てられなくなって、後ろから押してやった。
彼等も余裕は無いはずだ。
「はあっ はあっ 押してもらって、はあっ 少しは楽に…… はあっ はあっ」
進みが遅くなってスカーレットも押すのを手伝った。このままでは又、夜営しなければならなくなってしまう。
それだけは避けたかったようだ。
まだ半分も来ていない。
「ちょっとー、回復魔法掛けたら良いんじゃ無いかしら ?」
「良いですよ ! やりましょう」
ウィルソンがヒールの魔法を掛けると少し楽になったようだ。
しかし、道のりはまだまだ長かった。
少し進むとすぐにキツくなってきた。
キツくなると回復魔法を掛けて、少し進むを繰り返した。そのまま繰り返して進んだが動けなくなって休んだ。昨日の疲れもたまって、ろくに睡眠時間もとれないままに荷車を牽いたのだ。
バーキンのこれまでの人生で一番辛かった。
辛かったのはバーキンだけではない。ペネロペもバーキン以上にへとへとで、今にも倒れ込みそうなほどに疲弊していたし、ウィルソンも町の暮らしに慣れてしまって、久々の行軍がこれで、意識が
地獄の行軍と呼んで差し支えの無いほどだった。
荷車の進みは、お婆さんの歩みとどちらが速いかといった程度で、なかなか進まない。気付けばもう、辺りは真っ暗になっていた。
「あーーー ! はあっ はあっ 明か、り、が…… はあっ はあっ はあっ はあっ」
「あああーーー 帰っ…… ううっ、うー 」
ペネロペは限界をとうに越えていて、泣き出してしまった。
ウィルソンも声を出さずに涙をこぼしていた。
バーキンも目が真っ赤だ。
全員、これ以上無いくらいドロドロに疲れきっていた。
町に着くと皆、倒れこんでしまい、もう起き上がれなかった。
「お前の言う通りだったよスカーレット。6人になっても良いから、ケンタローとブラウニーに頭を下げて戻ってもらおう。本当に…… 本当の本当に参ったよ。俺が悪かったよう !!」
「だから言ったでしょ崖っ淵だって。あたしゃそれでも、まさか地獄の窯の淵だとは思わなかったけどね。 ハッハッハ」
人とは本当の苦労や悲しみを味あわないと真実を見出だせないものなのだろうか ?
「私は今のままではいけないと気付いたよ。鈍った身体を鍛え直すから、もう少しだけ見守ってほしい」
「勇者様のパーティーとは、想像以上に過酷なものですね。最後に私達新人だけじゃ無くて、勇者自ら超常たる力がどういうものかと、お見せ下さるとは…… 私なんかでは足手まといになると良く分かりました。残念ですが加入は見送らせてください」
「そんなことないぞ。君もまあまあ頑張ったぜ !」
「まあまあ…… ですよね…… 慰めていただいてありがとうございます。本当にお世話になりました」
ウィルソンは踏みとどまったがペネロペは実力不足を痛感して、辞める事になってしまった。これはこれで大変だ。
勇者パーティーの迷走はまだまだ続きそうだ……
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