第11話 勇者 近道って魅力的ですよね ?


ブラウニーは最悪の形で勇者パーティーから抜けてしまったんだ。

勇者バーキンはブラウニーの替わりに入れるメンバーを、若い女の子の治癒士キャンディにするか、司祭ウィルソンにするかで悩まされた。


正直なところ、可愛いキャンディに入って欲しいけれど、聖女から治癒士まで落ちてはパーティーのレベルダウンは免れない。渋々司祭ウィルソンに加入してもらったのだ。


こうなってしまうと、前のメンバーの方が良かった気もしてくるけれども、あんな風にケンタローの追放を押し切ってしまった後では元に戻す事などできやしないだろう。そこのラインを一歩でも越えたら二度と元には引き返せなくなってしまうという良い例だ。


村や組織の人間関係では強い絆が無ければよくある事なのだが、これまでの人生でバーキンは恵まれ過ぎていて、人間関係で苦労などしたことが無かったのだ。だからそんなことは、さっぱり分からなかった。


そうでなければ、辞めたメンバーの替わりを物のように補填したり、仲間にお前の替わりはいくらでもいる等とは口が滑っても言えないだろう。


「勇者を助けてやってよウィルソン ! 」

「スカーレットと同じパーティーで活動できるとは嬉しい限りだよ。バーキンの補助はお任せあれ !」


この日、勇者パーティーは単体Bランクの魔物、レッドベアの討伐依頼に出発したんだ。

メンバーが半分も入れ替わったので、肩ならしとしては手頃な依頼であった。


町を出てしばらく進んだが、目的地は大きな森の先にあり、別かれ道になっていたんだ。

目的地までのルート決めや迂回、捜索、警戒といった関係のことは今まで全てケンタローが行っていた。


いつもは森を迂回して3倍以上の距離がある、安全なあぜ道を通って行くのだが、それはやはりケンタローに強く言われて仕方なくそうしていたのだ。


バーキンは前から森を突っ切る最短ルートが良いと思っていた。何も無ければ一時間ほどで着く近道なのだ。

それで、同じテイマーのペネロペに聞いてみた。

ペネロペの使い魔はサーベルタイガー、Aランクの魔物だ。

「私、あまり道は詳しく無いです」

「あっ、そうかい ? ならしょうがないね」


バーキンはテイマーなら道に詳しいものなのかと思い込んでいたが、そうでもなかったようだ。

ケンタローの仕事は引き継ぎでそのまま同じテイマーのペネロペに受け持ってもらう予定でいただけに、かなりの誤算だった。

「俺は最近あまり町から出ないから……」

「あたしゃ自信が持てるほどじゃないよ。バーキンの方が詳しいさね !」

ウィルソンは苦手。スカーレットはバーキンに投げ返した。

「じゃあ3分の1で行ける近道で行こうか ?」

全員の賛成でルートを森の近道に決めた。


入り口から暫くは順調に進んだ。

少し進むと木々が生い茂り、道は細くなって道というより獣道に近くなってきた。

細い木の枝が顔や身体に当たり、蜘蛛の巣などもあり進みにくくなると、とつぜんに脇から魔物に襲われたのだ。


「ギャギャ、グギギギー」

「キャー !! 痛ーい。テトラ、やっつけて !!」

急に薮から出てきたのはゴブリンだった。ゴブリンに斬られてペネロペは怪我をした。

「ガゥルアーーーー」

サーベルタイガーは、あっと言う間に2体のゴブリンを退治した。

怪我はウィルソンがヒールで軽く治療して事なきを得た。


浅い怪我だったこともあり、一行はさほど気にせずにそのまま進んだのだ。

誰も気付かないけど、こんな事は今までに無かったことなんだ。ケンタローと使い魔がいれば、魔物の気配を察知して未然に防ぐし、そもそも魔物がいる方へは近付かないだろう。回避できるならば迂回していたのだ。


さらに進むと、コボルトに襲われライトボアに襲われた。ゴブリンは引っ切りなしに出没して、大怪我するほどの事はないけどかなり面倒だった。

「ねえ ! 引き返せない ?」

「進んでも引き返しても、ここからだと同じぐらいじゃないのか ?」

「ええー、あたしこの蜘蛛の巣が顔につくのは嫌だわ !」

「私もです~」

「おーい、先頭の僕なんかもっとひどいぜー !」


「あれっ ? ここってさっきコボルト倒したところじゃないかしら ?」

「ウソ~ ? キツいよー ! 」

「うわあーーー !! 戻ってきちまったって事かぁ↘、あーくっそー !!!」

「そのようだな。バーキン、俺のコンパスを使ってくれ」

ウィルソンはバーキンにコンパスを渡した。そして、今更ながら木にマーキングしながら進み出したのだ。

迂回した安全な道ならもう到着している頃だ。バーキンは苛立った。


「ペネロペ ! これでは厳しい、他の使い魔で何体か斥候に出してくれないか ?」

「ええー ? 他の魔物って言ってもそんなに簡単にはテイムできませんよ」

「はあ ? そんなのその辺の奴をぱっぱと5体でも10体でも捕まえて、あーしろこーしろってできるだろ ? ケンタローはぱっぱ、ぱっぱと、取っ替え引っ替えテイムしてたけど ?」


「冗談でしょ ? そんな事できるのは魔族くらいですよ。私これでも冒険者としては中々の実力ですけど、2体操るのが精一杯ですからね」

スカーレットとバーキンは顔を見合わせた。

「えーーーーー ? ケンタローって実はスゴいヤツなのか ? それは言い過ぎだろ ? アイツはそんな大した奴じゃないさ。なあ スカーレット ?」

「あたいに聞くんじゃないよ !」

バーキンは半信半疑だった。どっちにしろ斥候は出せない。


結局たくさんの魔物に襲われ、迷いに迷って森も抜けられず夜も更けてしまった。

夜の森は更に危険なので、仕方なくテントを張って食事をしたんだ。そしてすぐに休む事にした。

気の抜けない行軍で全員精も根も尽き果てていた。

「ああーーーキツかったあー、ふうっ ! やっと休めるぞ !」

「そうね、しっかり身体を休めないとね」

「「えっ ?」」


バーキンとスカーレットは寝るつもりだったのだ。

今まで遠征の時はケンタローの使い魔が交替で見張りをしてくれていたのだが、確かもういなかったよね ?

……ということで二人ずつ交替で休む事にした。


「ふわぁ、とんでもなく眠い !」

「キツいねー ↘」

スカーレットは、あんたが追い出したから自業自得だと言いそうになったけど、そこは大人の対応をしておいた。


深夜には夜行性の魔物に襲われた。

ボアやレイスはまだ良かったが、ファングウルフの群れには手を焼いた。

何しろ単体Dランクでも群れで来られたらB近くまで跳ね上がるのだ。

大きな群れでは無かったものの、全員叩き起こして夜中に全力で戦うはめになった。

度々目が覚めて熟睡できないし、寝たのか寝てないのか分からないうちに夜が開けた。



辛い身体にムチを打って朝の支度をするけれども体調は最悪だ。

バーキンやスカーレットはまだ良いだろう。

彼等は化け物のようなステータスを持ち合わせているのだからまだましだが、体力の無いペネロペとウィルソンはそれ以上に辛かった。

「ウィルソン ? この行軍はひょっとしたら私たちを試しているのかしら ?」

「俺もそう思ったんだ。バーキンはわざとキツい道を選んで試練を与えているのかとね。勇者パーティーに耐えられるかどうか見られているんだ」


残念ながらそんなことは無い ! 勝手な誤解をしたくなる程のハードな行軍であった。

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