第10話 勇者 お好きなようにして結構よ

ギルドから出てきた長身で金髪のバーキンはペネロペと肩を並べて軽い足取りで石畳の道を歩いていた。

その姿を見つけた若い女冒険者の二人組は小さく声をあげた。

「キャー、勇者様 !」


このようなことはバーキンにとってはいつもの事で、軽く手を挙げて応えたのだ。

「素敵 !!!」

「今日は良いことがありそうね !」

勇者バーキンの人気は留まるところを知らない。


「バーキンさんは本当に人気者ですね !」

「ハハハ、下手に悪いことができなくてね、勇者もなかなか辛いモノだよ」

しかし、彼は言葉とは裏腹にご機嫌だった。


今まで、目障りでしょうがなかったテイマーのケンタローを、やっとの事で追放したところなのだ。

大して実力があるわけでも無いのに、いつも元気で周りの者に愛想を振りまいては勇者の自分に配慮が足りない男。気になり出すと嫌悪感が止まらなかった。


それでもまあまあの働きだったので、大きな失敗でもすれば辞めさせようと思いつつも、随分我慢させられてしまったものだ。

テイマーなので力など勇者の自分の半分程の癖に、何体かの魔物を操って何とかしてしまうんだ。

後ろから見ていて、ほら失敗しろ、判断を誤れと願っているのに、いつもバーキンの期待を裏切るのだ。その度にイライラしていたものだ。


聖女ブラウニーや大魔道士スカーレットが若いケンタローを可愛いがるのにも虫酸が走った。何故、勇者の俺で無くて、あんなひ弱で軟弱な奴を可愛がるのだと、声を大にして言いたかった。


それも今日までだ。バーキンはケンタローを追放して本当にスッキリして、晴れ晴れとした気分だった。

ついさっき辞めさせて、今から彼と入れ替わりに中堅テイマー、21歳の女の子ペネロペを仲間に紹介するところなのだ。

ケンタローを追放したら、すぐにペネロペが加入できる手筈を整えていた。

勇者パーティーに欠員が出ても次の候補など掃いて捨てるほど用意されている。彼に抜かりは無かった。


待ち合わせの高級ホテルのレストランに到着した。

内装は白を基調とした新しくゴージャスな装いで、この町では1番の店といえるだろう。

「私、いつもの服装で来ちゃいましたけど、こんな格式が高そうなお店……」

「ハハハ、僕ら勇者パーティーに入れない店など無いんだよ。これが僕らの正装だしね !」

「なるほど……」


席に案内されるともう、皆揃っていた。

「やあ、待たせたね。彼女が今日から仲間になるペネロペだ」

「テイマーのペネロペ21歳です、よろしくお願いします」

バーキンは聖女ブラウニー、大魔道士スカーレットと順に紹介して、歓迎の食事会を始めた。


今まで見たことも無いような高級な食事にペネロペは驚いた。

彼女もそれなりに稼いでいたけど、ここまで豪華で美味しい料理は初めてだったんだ。

「とても美味しい素敵なお料理ですね」

「今日はお祝い事だから特別ですよ。遠征中は干し肉とかだから安心してね」

「あたしゃ血の滴るようなヤツが好きなんだがねぇ ‼」

「だったらスカーレットは、ここでしっかりとすすっておかないとね !」

「ブラウニーも少しは気の聞いたことが言えるようになったわねぇ ホホホ」


このパーティーはバーキンとスカーレットが古株にあたる。といってもやはり勇者あっての事だが……

一方ペネロペは勇者パーティーということもあって一流の冒険者との付き合いに不安だったけど、そんなにキツそうな人はいないようなので少しホッとしていたんだ。



「ところでケンタローは大丈夫だったかい ? あの子の事だから泣いていたでしょうに」

「全然 ! ケロっとしてたぜ。そもそも君等が甘やかすから付け上がるんだよ !」

「あー、あたしんらの責任にしてうちも辞めさせる気だなぁバーキン !」

「替わりの候補はいくらでもいるからね」

「でも、スカーレットのような美女はなかなかいないんじゃないの ?」

「それが1番の問題点なんだよなぁ !!」

「「「ハハハハハ」」」


新人ペネロペとの顔合わせは何のトラブルもなく無難にお開きとなり、バーキンは終始ご機嫌で、あたかも良いスタートを切ったかと思わせた。

しかし、勇者パーティーはケンタローを追放した瞬間から既に奈落の底へと至る、なだらかな下り坂を下り初めていたのだが、誰も気が付いていなかったようだ。



翌日

パーティーメンバーで集まってギルド近くのカフェで打ち合わせをしていた。

ブラウニーは何か考え込んでいるようで、朝からどうも様子がおかしい。

昨日の会食では普通だったのにどうしたのかしら ? スカーレットだけが気付いて、心配していた。

「ブラウニー ? どした ?」

「あのさ ! ケンタローをパーティーに戻すのは無理かなぁ ?」


バーキンが横から答えた。

「新しいメンバーも入れてしまった以上、無理だな。そんなにケンタローが気になるのか ?」

「うーん、気になるではちょっと足りないかな ? 」

「お前は本当にガキが好きだな !!」

「えへっ、知ってた ? あのさ、いろいろ考えたんだけど、私、このパーティー抜けるわ。私、ケンタローと二人でパーティー組むことにしたから」


"プシューーーーー"

バーキンは飲みかけのスープを盛大に吹き出した。

「はあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ?????? 馬鹿な !!!! 冗談みたいなことを言うもんじゃ無いよ !」


「バーキン ! あんたこの娘の顔見て本気か冗談かぐらい分からないの ?」

「分かんねえよ、スカーレット ! 聖女とテイマーのパーティーなんて1ミリも理解できない」


「あなたの理解はいらないの !! もう決めたんだから」

「あのう…… 私が身を引けば丸く収まりますか ?」

ペネロペも和解して欲しいと願い出た。

「イヤイヤイヤ、それはできない。採用後の取り消しなんてのは世間に大してもマズいんだ」


「そうね、この際テイマーが二人になってもいいからケンタローを戻すってのはどう ? バーキン、絶対ヤバイわ。今、私ら崖っぷちなのよ」


「嫌だね。せっかく目障りな奴を追い出したのに、もうこれ以上耐えられないぜ ! ブラウニーの替わりだっていくらでもいるから何とかなるさ。アイツを戻すのは絶対に嫌だ !!!」

「あんたそんなに嫌なのかい ?」


「そこまで言うなら、もうどうしようもないよね。バーキンの気持ちは分かったわ」

「ブラウニーのことは信頼してるんだぜ」

「私はさっきの言葉であなたを信頼できなくなったわ。(アイツは嫌だ、私の替わりはいくらでもいる。)ですって ?! いくら仲間でも言って良いことと悪いことがあるわ !! どうぞどうぞ、あなたの好きな人に好きなように私達の替わりをして下さって結構でしてよ !!!!!!! だけど、スカーレット ! ごめんね。こんな最後になっちゃって……」


「何だ一体 ? 僕のどこが悪いって言うんだ ? 僕に楯突くなら覚悟しろよ !」

「うわちゃーー !! 止められなかったか ? まあね、しゃあ無いよブラウニー ! 達者でねーーーー (泣)」

スカーレットの嘆きが響いた !

スカーレットとブラウニーは抱き締め合って涙ながらに別れを惜しんだ。


こうしてとうとうブラウニーは勇者パーティーから抜けてしまったんだ。


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