第151話 side ルフ

「不味い」

悪魔の中でもエリートである我は、命を狙ってきた下等悪魔の山に腰掛けながら呟く。


昔は良かった。

定期的に馬鹿な人間から呼び出しが掛かり、我は進んで契約を結ぶ為に足を運んだ。

人間と契約することで人間界に顕現し、契約者の命に従って人を殺し、魂を食った。

人の魂は悪魔のものと違って複雑な味がして美味い。

最後には契約した者の魂を喰らう。

悪に染まった人間の魂は格別に美味い。


我を呼ぶ者は様々だったが、皆、我と契約をしたことで、自分が主人となったと勘違いしていた。

契約を結ぶことで人間界に顕現し続けることが出来るだけで、言うことを聞かないといけないことはない。


魂を喰らう為に、命令に従っているフリをして人を殺していただけだ。

我の意志で好き勝手に人を殺して魂を喰らっていると、天界のやつが出しゃばって来そうだからな。


だから、契約者が罪悪感を感じるなどして、つまらない人間になった場合は、死ぬのを待ちはせず食ってやった。


契約者が死ねば魔窟に戻されるが、暫くすれば他の人間から呼び出しが掛かった。


しかし、それも何百年も昔の話だ。


悪魔を呼び出す呪法は忘れ去られてしまったのではなかろうか。


そう思っていたが、久しぶりに呼び出しが掛かる。


久々の召喚にワクワクしながら顕現すると、身体の表面を凍らされた。


怒りを覚えながら、ペキペキと氷を剥ぐ。


男が子供を殺すように言う。

我に攻撃したのはこのガキらしい。


とりあえずこのガキを殺すのは確定だ。

だが、召喚が途中で中断された結果、魔窟と我とを繋ぐラインが切れている。


これはチャンスだ。ここにいる者は皆殺しとしてこの世界の住民を食い尽くしてやる。


我はシャドーボールを男とガキ両方に放つが、弾かれた。


「な、何をした!?」

あり得ない光景に動揺が走る。


我はそのまま石の中に体を埋められ、拘束される。


「くっ!」

舐めるなよ。ガキが!


我が全身に力を込めることで、石にヒビが入っていく。


そろそろ動けるというところで、我の周りに水の膜が張られた。


こんなもので我を閉じ込めたつもりかと、膜を破ろうと殴ったら、腕が消し飛んだ。


直接触ることは許されない。

シャドーボールをぶつけてみたが、膜が破れる様子は全くない。


詰んだ……。

この数百年の間に人間がここまで力を手に入れていようとは……。


ガキが独り言を言っている。

いや、誰かと会話しているのか……?


殺すと聞こえたが、もしかして我を殺すかどうか話しているのか?


動揺しながらガキに聞くと、今度は女のガキが姿を現した。


「あなたは誰かを害するかもしれない。だから討伐する」


その通りではあるが、死にたくないので、我は助けて欲しいと頼む。


2人は我を殺すことに抵抗があるようで、迷いが見える。

そして、坊主の方のガキが契約を再開すれば我が帰ることが出来るのではないかという明案を言う。


このままだと殺されるのが目に見えているので、我は契約が切れれば元の世界へと帰れると答える。

実際のところはどうなるかなんて知らん。


我を召喚した男には悪いが、我が生き残る為の贄になってもらおう。


そう思っていたが、坊主が契約者になるという。


我としてはこのガキが勝手に死ぬまで言うことを聞いていればいいから都合がいいか、このガキはお人好しが過ぎるのではないか。


我はガキに契約の呪法を掛ける。

これは、我と対象とで魂を繋げる呪法だ。

一方的に繋げることは出来ず、我は力を、相手は対価を提示し、お互いが承諾すれば契約成立となる。


『契約を結ぶのは俺とだ。対価はお前を殺さないこと。断るなら魂ごと消滅させる』

呪法を掛けて、ガキと魂を繋げた瞬間、我の意識の中に男が入ってきた。


「ぁ…………」

恐怖で身体が震える。


『早くしろ。それとも消滅したいのか?』

魂のラインを切ろうとしているのに、切ることが出来ない。逃げられない。


『10秒だけ待ってやる』


『け、契約します』

我は脅しに負けて、よくわからない化け物と契約を結んでしまった。


『俺が契約した理由は後で説明する。お前はとりあえずエルクと契約したことにしておけ。勘づかれるなよ。勘づかれたら消すからな』

我は脅されてガキと契約を結ぶフリをする。


我はエルクにルフと名付けられ、執事の真似事をやらされることになった。


『初めの仕事だ。その男を殺せ。お前は俺のスキルも使えるはずだ。毒魔法を使い毒を飲んだことにして殺せ』

我は言われるがまま、我を召喚した男を毒殺する。


『よくやった。お前が顕現したことを知っている者は少ないほうがいい』


『……魂を食べてもいいでしょうか?』

我は主人に恐る恐る確認する。


『好きにしろ。ただし俺が言った奴以外を勝手に殺すな』


『わかりました』


我はエルクの影に待機していることとなった。

表向きは……。


『分身というスキルがある。並列思考というスキルもだ。エルクに呼ばれた時の為に1人影に残して、本体は姿を変えて外に出て来い』

言われた通りにする。


『よし、魔法学院の学院長に話をしに行く。転移で王都まで移動しろ』


『……魔力が足りません』

恐る恐る答える。


『チッ!飛ぶことは出来るだろう?隠密のスキルで姿を隠して飛んでいけ』


『は、はい』


「何者だ!?」

学院長室に言われたまま無遠慮に入る。


「……俺だ。……いい体を手に入れた。……今日からこいつを通して話をする」


言われた通り話をする。


「……わかりました」


「……とりあえず、こいつを学院に入学させて、エルクと同じクラスに編入させろ」


「そのように。何か希望はありますか?」


「エルクよりも強くするつもりだ。おかしくないようにしておいてくれ。あんたの裁量に任せる」


今度はロックという名を付けられて、学院生活を送ることになった。


エルクが王都に戻ってきたタイミングで、ナイガルという衛兵からも我の記憶を消す。


エルクの家族以外からは秘匿するようだ。


翌日になり、我は学院に向かう。


何故エリートだったはずの我がガキどもに混じって勉学に勤しまなければならないのか……。

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