第150話 重大発表
建国を記念する祝日に、城の前は沢山の人で溢れかえっていた。
いつもは建国を祝う日というだけで、こんなことにはなっていないようだ。
今回は国王から大事な発表があるらしく、人が集まっている。
人が集れば屋台などの店も立ち並び、ギュウギュウ詰めになっている。
授業の一環として、国王の発表を聞くように言われていたけど、人が多すぎて息苦しい。
「もうダメ。人が少ない辺りまで下がらない?」
僕はラクネに断って人混みから出ないか提案する。
国王の発表を聞いて、チームごとにレポートを書くという課題を与えられたので、ラクネと一緒に聞きに来た。
ダイス君は城に行かないといけないと言っていたので2人だ。
出来るだけ声の聞こえやすい近くに陣取ったけど、体が保たない。
「うん……。私も限界」
僕もだけど、ラクネの額にも汗がつたっている。
冬なのに……。
「あの辺りに椅子を置いて休もうか」
人混みから抜けた後、本当はベンチにでも座って休みたいけど、空いているはずはなかったので、邪魔にならなそうな端に椅子を置いて座る。
「ありがとう。この椅子畳めるんだね」
アイテムボックスから取り出したのは折りたたみが出来る小さな木の椅子だ。
雑貨屋に売っており、割引してくれるというので、まとめて5つ買った。
これならカバンから出してもそこまでおかしくはない。
「発表ってなんだろうな」
近くで固まっているグループから話し声が聞こえてくる。
「何か法が増えるんじゃないか?」
「税が増えるのはご勘弁願いたいな」
「いや、建国の日に発表するんだから、もっといい事だろう」
「継承権争いらしきイザコザが最近多いだろう?それに関係していることじゃないか?」
「それなんだが、なんでそんな事になっているんだ?順当に考えればダイス様が王位に就いて終わりだろう?」
「俺も詳しくは知らないが、ダイス様が何か王に相応しくないような不手際を起こしたとか、噂で聞いたな」
「そうなると、次の王の発表か?」
「いや、それはまだ先のはずだ。ダイス様はまだ15歳になってないだろう。15歳で正式な次期王となって、王の仕事を代行しながら覚えていくのが通例だったはずだ」
「エルク君は何だと思う?」
ラクネも聞いていたようだ。
「今日の発表が何かはわからないけど、ローザの所が襲われたり、フレイやアメリを狙ってラクネ達も襲われたでしょ?早く落ち着いて欲しいとは思うよ」
「これじゃあ安心して暮らせないもんね」
飲み物を飲みつつ、話しながら待っていると歓声が上がる。
国王がバルコニーに出てきたようだ。
まずは建国を祝うような挨拶が始まる。
いわゆる眠くなる話だ。
眠気に耐えながら聞いていると、話は本題に変わる。
「誠に嘆かわしい話ではあるが、次期王の座を巡って争いが発生している。この不安定な状況を機と捉えられ、帝国が戦の準備をしているとの情報を得た」
国王の話に周りが騒つき、罵声が飛び始める。
「しかし、安心するがいい。余は戦を好まぬ故、戦は起こさせない。もちろん、帝国が攻めてくるなら、領地を明け渡すわけにはいかないが、簡単に奪えると思わせるつもりはない。帝国が戦に踏み切ろうとしている原因は先程言った通り、国が不安定になっているからだ。本来であれば3年後、息子であるダイスが15となった時に皆に伝える予定であったが、帝国との戦が迫っている以上、悠長なことは言ってられない」
喧騒の中に戸惑いが混じる。
「継承権第一位は長男であるダイス。ダイスに不慮の事故が起きた場合は、継承権第二位である長女リリスが女王となることをここに宣言する」
国王の宣言に拍手と歓声が上がるが、戸惑いの色が大きい。
僕は詳しくないけど、本来であれば継承権第2位はクウザって子ではないのだろうか。
2人を見る限り、ダイス君とリリスちゃんが王位の座を狙って争うとは考えられないし、国のイザコザを収める為かな……。
「ダイス君が正式に王になることに決まったんだね。最近はずっと城と学院を行き来していて大変そうだったけど、これで少しは落ち着くのかな?」
第二王子の母親が裏で色々と悪い事に手を出していたみたいだけど、諦めたのかな……。
もしかしたら、悪魔の召喚が計画の要だったりしたのだろうか。
「私にはわからないよ。もしかしたらこれからの方が忙しいのかもしれないし」
ラクネが答える。
「休み明けに聞いてみようか。チーム対抗の最終試合もそろそろだし、参加出来るかも確認しないと」
「なんだか、ダイス君が遠くに離れていっちゃった気がするね」
「うーん、時間が合いにくくなっただけで、ダイス君はダイス君だよ。王様になることが決まったからって、ダイス君の本質は何も変わらないはず。それに、僕が自分の力を自覚した時、ダイス君は僕は何も変わってないって言って、今まで通りに接してくれた。僕はそれが嬉しかったから、例えダイス君が王様になって手の届かない存在になったとしても、僕は今までと同じように接したいと思うよ」
「そうだね。私もそうしたい」
「ダイス君には会った時に話を聞くとして、レポートも書かないといけないから、よかったら僕の家にこない?お母さん達にラクネを紹介するよ」
「いいの?」
「うん」
「それじゃあ、お邪魔するね」
ラクネと家に帰る。
「ただいま」
「お邪魔します」
「おかえり。その子がラクネちゃん?」
「ラクネです。いつもエルク君にはお世話になってます」
「こちらこそエルクと仲良くしてくれてありがとうね。エルクは村でも浮いていたからね。王都で友達が出来るか心配だったけど、こんなに可愛い子が友達になってくれてるなら安心ね」
「僕って村で浮いてたの?」
お母さんが漏らした情報に僕はショックを受けながらも聞くことにする。
「エルクはずっと身体が弱かったからね。寝ていることが多かったから、友達は出来なかったわ。それに、体調が良い日も走ったりは出来ないから、遊ぼうと思っても出来ることが限られてたの。神の思し召しか、ある日を境にエルクは身体を壊さなくなったわ。でも、今まで寝ていることが多かったからか、奇行が多くてね。元気になってからも友達が出来なかったのよ」
「お母さん、わかったからそのくらいでやめて」
ラクネの前でとても恥ずかしいことを暴露された。
「ふふ。これからもエルクと仲良くしてあげてね」
「はい」
「エレナもリーナちゃんにお世話になってるし、一度ご挨拶に行った方がいいわね」
「リーナさんにはもう会ったの?」
「先週にエレナが連れてきてくれたわよ」
「そうなんだ。それじゃあ、僕達は部屋で宿題のレポートを書いてくるね。僕の部屋はこっちだよ」
ラクネを僕の部屋に案内する。
「……物が少ないね」
「まだこっちは全然使ってないからね。必要最低限の物しかないよ」
机に空っぽの本棚、それから布団がない木枠のベッドしかない。
筆記用具はアイテムボックスに入ってるので、とりあえず今は机があれば大丈夫だ。
「失礼します。お茶とお菓子をお持ちしました」
ルフが部屋に入ってきて、机の上にお茶菓子を並べる。
「……この方は?」
「ルフだよ。色々とあって、家のことを手伝ってもらっているんだけど……どうかした?」
ラクネが不思議そうな顔をしていたので聞く。
「一瞬ルフさんが知り合いに見えただけだよ。気にしないで」
「それじゃあ、レポートを書いちゃおうか」
「うん」
何を書いたらいいのか迷いつつ、レポートを書き終える。
「ラクネちゃん、少しいいかな」
お母さんが帰る準備をしていたラクネを呼ぶ。
「…?はい」
「エルクはここで待ってて」
僕には内緒の話らしい。
ラクネがお母さんに連れられて部屋から出ていき、しばらくして複雑そうな顔をして戻ってくる。
「何の話だったの?聞かないほうがよければ言わなくてもいいけど」
気になるので、聞いてみる。
「お姉ちゃんのことを聞かれただけだよ。エルク君がいると、私が気を使って本音を言えないんじゃないかって気を使ってくれたみたい」
「リーナさんのこと?」
「エレナちゃんが各地を回る時に、お姉ちゃんも一緒に行くって言っているみたいなの。それで、お姉ちゃんがエルク君に火傷痕を治してもらったことに恩を感じて一緒に行こうとしているのか、それとも本心からなのか知りたかったみたいだよ。私もお姉ちゃんからそんな話は聞いてなかったから、驚いているところなの」
お父さんに賛成してもらう為にリーナさんに相談したら、一緒に行くみたいな話になったのかな……。
「リーナさんが僕に恩を感じてついて行くって言ってるなら、僕のことは気にしなくてもいいって言っておいて。リーナさんにはリーナさんの人生があるんだから」
「さっき同じことをエルク君のお母さんから言われたよ。帰ったらお姉ちゃんに聞いてみるね」
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