第144話 VSロック
学院長と第一訓練場に行き、僕とロック君は学院長から防護魔法を掛けられる。
今まで学院長は、相手にしか防護魔法を掛けていなかった。
今回は僕にも掛けたということは、ロック君の攻撃が直撃したら僕の命に関わるということかもしれない。
「今回の模擬戦の立会人は私が請け負う。両者以外は間違っても立ち入らないように!」
ロック君はサウス先生に立会人を頼んでいたらしい。
訓練場には白線で戦うエリアが指定されていて、そこから少し離れて一段上がった所が観客席になっており、そこにはたくさんの人が座っている。
噂の特待生の実力が気になったのだろう。
「試合形式は対抗戦と同じく、どちらかが負けを認めるか、防護魔法の消耗が一定を越えるまでとする。その他、私の判断で止める。私の指示には必ず従うように」
「わかりました」
「はい」
「両者、所定の位置に」
僕とロック君は距離を取ってから、準備完了の合図をサウス先生に出す。
「はじめ!」
試合が始まったので、僕はまず自身の強化をする。
学院長が本気でと言っていたので、複合のスキルを併用してストックしておいた防護魔法、身体強化、魔法威力強化、脚力強化、腕力強化、思考加速、隠密のスキルを発動する。
隠密は視認されているので意味はないけど、ストックしておいたスキルは個別での発動が出来ないから、隠密も掛かっただけだ。
ロック君は動かないので、僕と同じでまずは自身の強化をしているのかもしれない。
ロック君の強化が終わるのを待つ必要はないので、僕は攻撃を開始する。
まずは牽制の意味も込めて、火球を弾幕を張るように連射する。
牽制といってもある程度魔力は込めたので、他の生徒が相手ならこれで試合が終わるくらいの威力はある。
『ブオォォォ!』
火球が当たる前に、ロック君の前の地面から空に向かって轟音をたてながら突風が吹き、火球は風に流されて空に消えていってしまった。
火球が流されるほどの風をロック君は操ったようだ。
風で流されるレベルの火球を放ったつもりはないのに……。
単純な攻撃では当たらないことがわかったので、今度は放った火球の制御を切らないようにする。
『ブオォォォ!』
先程と同じく突風により火球は空へと軌道を変えらたが、先程とは違い、火球の制御は切らずに魔力のパスを繋げたままにしているので、上空からロック君の頭へと火球を操作する。
「え…?うわあああぁぁぁ!」
操作したはずの火球はロック君に当たる直前で軌道を変えて、何故か僕の方に向かって飛んできた。
『ガンっ!』
僕は急なことに驚き、慌てている内に、自分の放った火球が直撃した。
学院長が防護魔法を張っており、自身でもシールドを張っているので痛くはないけど、大分シールドは消耗した。
僕はシールドを張り直す。
その間、ロック君はこちらを見ているだけで攻めてこない。
魔法を発動する素振りもない。
不審に思いつつも、さっき何が起きたのか僕は考える。
「ぼーっとしていていいのか?また直撃するぞ?」
ロック君はそう言いながら、僕の頭上を指差す。
僕は言われて上を見上げて、咄嗟に転がって回避する。
火球は『ドカン!』と爆発音のような音を立てて、先程まで僕がいた地面を抉る。
ロック君はいつ火球を放った?
そんな素振りはなかったはずだ。
僕が周りを警戒しながら考えているとまた、上空から火球が降ってくる。
今度は1発どころではない。雨のように降ってくる。
『ドドドドドド!』
僕は結界を張って、火球を防ぐ。
ロック君が何をしているのか、一つ予想がついた僕は、風刃を飛ばす。
飛ばした風刃はロック君の目の前でブーメランのようにUターンして、僕の方に返ってきた。
僕は目の前に土壁を作り、風刃から身を守ろうとする。
「ぐぅ!」
しかし、風刃は僕の背後に回り込んできて背中に当たる。
『ダン!』「あう」
衝撃で膝を付いたところに、今度は先程作った土壁が倒れてきて、押し潰される。
「ゔぅぅぅー」
土壁を消す事が出来ないので、力を込めて這い出る。
ダメージを負いながらも、ロック君が何をしているのかは判明した。
ロック君は僕の魔法の制御を奪って攻撃しているようだ。
僕がくらった魔法は、全部僕が放った物だと思う。
少なくても、1度目の火球と風刃と土壁は僕が発動した魔法だ。
これは厄介だ。
どれだけ高威力の魔法を放ったとしても、それが全部自分の所に返ってくるのでは意味がない。
意味がないどころか、自分がくらうダメージが大きくなるだけだ。
でも、僕は遠距離攻撃を止めない。
次は制御を奪われないように、込める魔力を限界ギリギリまで増やす。
魔力が増えれば制御を乗っ取るのは難しくなると思ったからだ。
限界ギリギリまで魔力を込めて放った火球は、僕に恨みでもあるかのように、クルッと向きを変えて返ってくる。
『ドン!』
僕は火球をもう1発放って威力を軽減させる。
「もう終わりか?」
ロック君が聞いてくるけど、まだやれることは残っている。
ヤケクソ気味なやり方だけど、せめて驚かせるくらいはしたい。
僕は観客席に被害が及ばないように戦闘エリアを結界で囲った後、戦闘エリアの地中を火魔法で高熱にしてマグマのようにドロドロに溶かす。
これは制御を乗っ取られても結果は変わらないはずだ。
全体を溶かしているのだから。
そして、自分は風魔法で上空へと飛翔して逃げる。
僕は上空からロック君を見る。
あれ……?全く動揺していない。
防護魔法があっても、マグマに足を突っ込んでいれば多少なりとも慌てるはずなのに。
ロック君をよく見ると、少し浮いていた。
「あいつ飛んでるぞ!」
「もう1人も浮いてないか?」
観客がワーワーと言っている。
どうすればロック君に攻撃出来るのかわからず、上空で悩んでいると、急に視界が逆転する。
そして、マグマのようになった地面が近づいてくる。
「あ、ああ、熱、熱い」
僕はマグマの中に頭からダイブしてパニックになる。
実際には防護魔法のおかげで熱くはないはずなのに、体が焼けている感覚に襲われる。
「そこまで!」
サウス先生が試合を止めたタイミングで地面が『ペキペキペキ』と凍っていく。
「相手をしてくれてありがとな」
ロック君の手を借りて僕は起き上がる。
「防護魔法が一定以上消耗した為、エルクの敗北とし、ロックの勝利とする」
サウス先生が試合を止め、勝敗を宣言する。
惨敗だ。
勝ち負けよりも、何も出来なかった事が悔しい。
「俺は予選に参加したい。模擬戦の前に声を掛けた人で、俺の予選参加を認めたくない人がいれば認めてもらえるまで相手をする。エルクとの模擬戦の後ではあるが、俺はこのまま相手をしても構わない。誰かいるだろうか?」
ロック君が観てた人に言う。
今回の目的はこれだからだ。
「「…………。」」
誰も名乗り出る人はいなかった。
「いないようだな。では、特例を認めロックの対抗戦予選参加を認める」
学院長が観客席を確認した後、ロック君の予選参加を認めることを宣言した。
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