第145話 敗北

「エルクが負けてしまったことにも驚きだが、ロックがこれほどとは思わなかったな」

ダイス君とラクネが近くに歩いてくる。


「何も出来なかったのが悔しいよ」


「残念だったね。特待生だからロック君が強いのはわかってたけど、エルク君が負けるなんて信じられないよ」


「エルクが自分で自分を攻撃しているように見えたけど、あれはどうなってたんだ?」


「発動したのは僕なんだけど、発動してからは僕の意思では動かなくなってたんだよね。魔法の制御をロック君に乗っ取られた感じかな……」


「観ている限りでもそんな感じに見えたが、そんな事が可能なのか?」


「実際に乗っ取られたから、出来るってことみたいだね」


「なんにせよ、エルクの魔法を乗っ取れるってことはロックの魔力量はエルクより多いのかもな。エルクは膨大な魔力量を使ってのゴリ押しで、熟練度が高くないから、そのせいかもしれないが」

ダイス君の言う通り、僕は自分の魔力を活かしきれてない。

お姉ちゃんの水のバリアが破れないのもこれが原因だ。


「もしかしたら、さっきロック君は魔力を使ってなかったかもしれないよ。魔力量の違いで押し切られたって感じはしなかったから」



「ありがとな。エルクのおかげで予選に参加出来ることになった」

ダイス君達と話していたらロック君もやってきて、改めてお礼を言われる。


「良かったね。次は負けないから」


「楽しみにしておく」


「言いたくなければいいんだけど、ロック君はさっき魔力を使ってた?」

僕は気になったことを聞く。


「ほとんど使ってないな。誤魔化すために風魔法を2度放ったくらいだ。エルクの魔法は力任せで精密さが足りなかったから、割り込むのが簡単だった」


「その割り込んだっていうのはスキルによるものなの?最後地面を凍らせたのも?」


「そうだな。発動されてる魔法に干渉するスキルを持ってる。そのスキルで干渉出来る魔法は、誰が発動したかに影響されない。最後凍らせたのも、エルクの火魔法を利用している」

ロック君の魔法で地面を凍らせたわけではなかったようだ。


「誰の魔法でも干渉出来るの?」


「干渉自体は出来るが、さっきみたいに完全に乗っ取ることが出来るかは別だな。エルクを悪く言いたいわけではないが、エルクの魔法はさっきも言った通り、魔力量が多いだけで、熟練度が低く発動が単純なんだ。乗っ取りが出来る、出来ないに魔力量はあまり関係なく、単純な魔法ほど簡単に乗っ取る事が出来る」


「僕とは相性が良かったってこと?」


「そうだな」


「聞いておいてなんだけど、自分のスキルのことをそんなに話しちゃってもよかったの?」


「別にこのスキルが俺の全てではないし、聞いたからって対処が容易に出来るものではない。話したくないことは話さないだけだから、聞きたいことがあったら気を使わずに聞いてくれ」


「うん、ありがとう」


皆と別れて寮に帰り、今日の模擬戦のことを反省する。

このままだと、お姉ちゃんと戦う前に対抗戦が終わってしまうかもしれない。


予選で当たらないかもしれないし、本戦のトーナメントでは、僕がお姉ちゃんと当たる前にロック君に負けてしまうかもしれない。


お姉ちゃんがロック君に負ける可能性もあるわけだけど、僕が負けたせいでお姉ちゃんと競う場を失うのは避けたい。


僕に足りないのは熟練度だ。

熟練度を上げるには、上げたいスキルを使って慣れる以外に方法はない。


僕のスキルは全体的に熟練度が低い。

理由は簡単で、スキルの数が多いのが仇になっているからだ。


火魔法しか覚えていない人は、10回攻撃するのに10回火魔法を使うけど、僕は偏りはあっても、10回全てが火魔法ということはない。

その結果が今である。


前にローザがカッシュさんに器用貧乏だという話をされていた。

ローザはその後、火魔法を意識的に使うようにしている。


僕も熟練度を上げるスキルを決めて、一点集中で熟練度を上げた方が良さそうだ。


僕はどのスキルを上げるか考える。

ロック君の相手をすることは考えないといけないけど、その後の将来のことや、訓練のやりやすさも考えて決めないといけない。


僕は迷った結果、土魔法の熟練度を上げることにした。

人を殺すことに抵抗がある僕には、殺傷能力よりも、拘束する力が必要だと思ったからだ。


それに、土魔法で建てた家なんかもあるみたいだし、火魔法などのスキルよりも、戦闘以外に使える分野が広いというのも決め手だった。


周りを気にせずに発動しやすいというのも利点である。

土魔法なら、部屋の中や街中で使っても、誤って燃やしたり、水浸しにすることはない。

発動の仕方次第では壊すことはもちろんあるけど……。


ただ、訓練自体は学院の訓練場を使わせてもらおうと思っているので、そこはあまり気にせずに選んだ。


今回の敗因は熟練度不足によるものだけど、ロック君が僕よりも魔力量が多い可能性はもちろんある。


その場合、熟練度を上げて魔力を十分に扱えるようになったとしても勝てないかもしれない。

なので、ずっと疎かになっていた魔力量を上げる訓練も、本格的に再開することにする。


魔力量の訓練は、魔力創造のスキルと回復魔法を使って上げていく。

このやり方が出来るようになってから、寝る前に1サイクルしかやってなかったけど、毎日魔力が無くなるまでやるようにする。

今は時間が惜しいので、創造のスキルに魔力を溜め込むのは諦めることにする。


寝る前に魔力を使い切りはしたけど、魔力回復率上昇スキルのおかげもあり、翌朝には大分回復していた。


授業を受けて、放課後は訓練場を借りて土魔法の熟練度を上げるための訓練をする。


熟練度を効率良く上げる方法は、以前サウス先生が訓練の時に言っていた。


出来るだけ大きい魔力を出来るだけ複雑に制御して発動すること。


これに当てはめて、僕は訓練場に一度の発動で城を建てることを目標に訓練することにする。


城というのは、当然中に人が出入りする建物だ。

外観が城に見えても、中身が土の塊では意味がない。


それに、民家とは違うので、住めればいいというものではない。

城の持ち主の権威を現すものでもあるので、細かい装飾は必要だ。


そうはいっても、いきなり城は作れないので、まずは物置小屋から作ることにする。


直方体の建物に入口はドアがなく、四角くく穴が空いているだけだ。

中に入ってみるけど、もちろん何もない。


一度壊そうかと思ったけど、思いとどまり、まずは修正して納得のいく物置小屋を作ることにする。


完成したら壊して、ゼロの状態から一度に作れるように繰り返すことにしよう。

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