第143話 申し込み

冬になり、寒くなってきた。

学内対抗戦もそろそろ終盤を迎えている。


チーム戦に関しては、クラスの中でトップを争う位置にいる。

ただ中等部全体で考えると上位の位置にはいるけど、代表になれる上位10チームからは圏外だ。


チーム戦は僕が攻撃しないとか、身体強化や防護魔法などのバランスを崩すスキルの使用をしないとか、色々と制限を掛けているので、メインはダイス君とラクネの2人になる。

当然上級生の生徒とは受けている訓練も違うので、これは仕方ない。


個人戦の方は全勝しており、学年末に行われる高等部との親善試合に中等部代表として参加出来ることがほぼ確定となっている。


個人戦はまず、初等部、中等部、高等部から各20人ずつの計60人が選ばれ、初等部と高等部の代表も含めて予選が行われる。

そこでさらに数を減らされて、本戦で戦うことの出来る10人が決定する。


その為、初等部と中等部の生徒も予選に参加するけど、本戦に進むことが出来るのは基本的に高等部の生徒だ。


中等部からは多くても2〜3人本戦に進むことが出来るだけで、全員高等部の生徒ということは珍しくないようだ。初等部から本戦に進出した人は今のところいないらしい。


去年の優勝者は当時高等部3年だった男の人だったそうだ。

お姉ちゃんではない。


お姉ちゃんは予選までは出たけど、本戦には参加しなかった。辞退したからだ。


初等部、中等部の生徒からすると親善試合の意味合いが強いけど、卒業を間近に控えた人からすると、自分をアピールする最後の舞台でもある。


冒険者や衛兵隊長、騎士団長等外部の人が見に来て、有望な人材にはスカウトの声が掛かるらしい。


なので、卒業したら村に帰る予定だったお姉ちゃんは辞退して、アピールの場を予選11位だった人に譲ったのだ。


その話を聞いていたので、予選でお姉ちゃんと戦うことが出来れば、僕も本戦に進まずに辞退するつもりでいた。


僕は予選に進むことがほぼ決まっている状況だけど、中等部から選出される生徒が決まっているわけではない。


上位の5人くらいは選出が揺るがないくらいに差が開いているらしいけど、残りはこれからの試合の結果次第ではどうなるかわからない。


その瀬戸際ギリギリにダイス君がいる。

ラクネは残念ながらそこまでの結果は残せなかった。

中等部1年としては上位だけど、上級生を含めると圏外になってしまったようだ。


予選に参加出来るかが不明瞭な人がもう1人近くにいる。

ロック君だ。


ロック君は転入したばかりなので、学内対抗戦にそもそも参加していない。

なので、予選に参加する資格自体がないのだけれど、学院長が条件付きで特別に参加を認めた。


その条件というのが、中等部の代表選出圏内にいる全員に認められること。


つまり、予選にギリギリ参加出来るかどうかという人からも、『君は予選に参加するべきだ!』と認めてもらわないといけない。

その結果、自分が参加出来ない可能性が高まるのにだ。


ロック君の実力は未知数だけど、学院長は厳しい条件を付けたと思う。

ただ、これならロック君が予選に参加したとしても、不平不満が溜まることはないだろうから、学院長という立場で生徒全員のことを考えた最善の結果なのかもしれない。


「俺と模擬戦をして欲しい。早い方がいいから、空いているなら今日にでも」

その結果、僕は今、ロック君から模擬戦を申し込まれている。


「ロック君が学院長から言われている条件は僕も知っているから協力するのは構わないけど、なんで僕なの?」


「学院長に中等部で1番成績が良いのが誰か聞いたら、エルクが1番だと言われた。勝敗だけなら全勝している人は何人もいるらしいが、勝敗以外にも点数は付いているみたいで、エルクが大差を付けてトップらしい」


「そうなんだね。予選に参加する意思があるかは前に聞かれたけど、そんな結果になってたのは知らなかったよ」

勝敗以外で点数が付けられてたのは知らなかった。


「1番強いやつと戦っているところを見せるのが1番俺の実力を認めさせるのに手っ取り早いというのもあるが、エルク以外だと俺の実力を見せるまでもなく終わってしまうだろうからな。それだと、見ていただけの奴は納得しないかもしれない。エルクよりも強い奴がいるならと思って学院長に聞いたけど、エルクが大差を付けているなら、エルク以外に頼んでも効果が薄い」


「随分自信があるんだね」


「俺はもっと強くならなければならない。学院の生徒と良い勝負をするくらいでは全然足りない。だからエルクには悪いが俺の踏み台になってもらう」


「踏み台になるつもりはないし、僕と戦ったらロック君はすぐに倒れることになるから、自分の力をアピールなんて出来ないよ」

ムッとした僕は挑発で返すことにする。


「ハハハ。面白い冗談を言うな。そんなことにはならないから安心していいよ。それじゃあ放課後に第一訓練場で。俺は他の人に声を掛けないといけないからこれで失礼するよ」

ロック君はそう言い残して自分の席へと戻っていった。


「私も見に行ってもいい?」

放課後、訓練場に行く前にラクネに聞かれる。


「いいよ。第一訓練場でやるから、先に行ってて。僕は学院長に呼ばれているから」


「ロックはエルクの相手になるのか?」

ダイス君が言う。


「ロック君の実力は分からないけど、すごく自信満々だったよ。やり方は違ったけど、僕と同じカラクリで魔力量を高めているみたいだし、僕よりも魔力量が多いってこともあるかもしれないね」

僕は気付かずに生命力を魔力に変換していたから魔力量が多い。

ロック君がいつから魔力を高める訓練をしているか知らないけど、僕より魔力量が多い可能性は十分ある。


それに、強さを求めているロック君は僕と違って制御出来る魔力量も多いと思う。


「……それは信じがたいが、仮にそうだとしたら国として脅威だな。エルク達が悪さをしないことは俺個人として分かっているが、ロックがどうかはわからない。ロックがエルクくらいの力があるなら、この国は一瞬で滅びるかもしれない」


「ロック君も悪いことはしないと思うよ」


「なんでそう思うんだ?別に俺もロックが悪さをすると思っているわけではないが、まだ会ったばかりだろ?」


「うーん、なんでだろう。特に理由はないけど、そんな感じがするよ。……学院長に呼ばれてるから行ってくるね。先に訓練場に行ってて」


「ああ」

ダイス君に聞かれて、なんでロック君は悪さをしないと思ったのか不思議に思った。


不思議に思いつつも、学院長に呼ばれているのでダイス君とは一旦別れて学院長室に行く。


「ロックと模擬戦をすると聞いて呼んだ」


「学院長が防護魔法を掛けるからですよね?」


「それももちろんあるが、模擬戦が始まる前に言っておいた方がいいことがあってな」


「なんですか?」


「ロックとの模擬戦は本気を出しても構わない」


「……いいんですか?」


「構わない」


「わかりました」

学院長の中で、僕よりもロック君の方が強いってことかな。

フレイがロック君は学院長を倒して特待生になったような噂話をしていたけど、もしかして本当?

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