第114話 望んだもの

王の間から退出した僕とラクネは別室へと案内された。


褒美をもらう為だ。


「ラクネは結局何を貰うことにしたの?」

僕はラクネに聞く。

実はラクネが何を貰うことにしたのかは聞いていなかった。

ラクネが恥ずかしがっていたので、最後まで秘密にしようということになった。なので僕が望んだものもラクネは知らない。


「私はお金をもらったの。お母さんになにか欲しいものがないか聞いたら特にないって。それでとりあえずお金をもらっておけばいいんじゃないって言われたよ。それにお金だとどのくらい渡すか任せることが出来るからいいんじゃないかって」


「そうなんだね。それでどのくらい貰うことになったの?」


「……それがね、金貨1000枚だって」


「えっ!?せ、1000枚?」

想像の出来ない量に驚く。


「う、うん。流石に間違いだと思ってダイスくんに確認したら、『爵位でも領地でも良いって言っただろ』って言われて、『それに比べれば金貨1000枚なら少ないくらいだ』って言ってたよ」


「そっか……」


「お母さんに伝えたらそんなにあっても使いきれないし、持ってるのも怖いから断ってきなさいって言われたんだよ」


「……そうだよね」


「だから金貨50枚だけ貰うことにしたの。家具を買い替えたり、家の改装をして使い切るつもりだよ。お母さんは私やお姉ちゃんが大きくなって、頑張って稼いだお金をくれるなら嬉しいけど、よくわからないお金は要らないって言ってた。装備の事は説明できないから、お母さんからしたらなんでこんなに貰えるのかわからないからね……」

勇者の事は家族にも話せないからね。


「それじゃあその袋には金貨50枚入ってるんだね」

僕は机の上に置いてある袋を指差して言う。

50枚にしては袋が大きすぎる気がするけど……


「それならいいんだけどね……。恩賞と同じで褒美も断れないんだよ。初めから金貨50枚欲しいって言えば良かったんだけど、既に金貨1000枚くれるって言っているものを50枚でいいですとはならなかったんだよ」

相変わらず面倒な考え方だ。


「えっと……それならその袋には?」


「うん、1000枚入ってると思う」


「それでどうするの?持って帰るしかないんだよね?」


「だから帰りに教会に寄ってもらうようにしてもらっていて、50枚だけ残して残りは寄付することにしたよ。教会は孤児院の運営もしているからね」


「孤児院の子供達はラクネに感謝するね」


「処分するために寄付するようなものだけど、良いことに使ってくれたらいいなって思うの。それでエルクくんは何を貰うことにしたの?」


「家と土地、それから税の免除をお願いしたよ」


「家をもらったの?」


「うん。中古の使われてない家とかで良かったんだけど、新しく建ててくれるってことで、今動いてくれているみたい」


「そうなんだ……。もしかして家が完成したら引っ越しちゃうの?」


「引っ越さないよ。将来は住むことになると思うけど、今は寮のままだよ。一応学院に通っている間は寮生活をするように言われているし」


「よかった。それじゃあ将来住む家を今建てたってこと?」

ラクネはホッとした様子で言った。

もしかしたら僕が学院を辞めて村にでも帰ると思ったのかもしれない。


「僕が住む為ってよりは、お母さん達が住めるようにって思ってね」


「今は村に住んでるんだよね?」


「うん。まだ話はしてないから、引っ越すか決めるのはお母さん達だけど、近くに住んでくれるといつでも会えるようになるから嬉しいなって。村に残るって言ったら僕とお姉ちゃんで使うよ」


「離れて暮らすのは寂しいもんね」


「うん。ダイスくんにこの話をしたら、村から出てきていきなり街で生活するのは大変だろうから、畑を作れるように土地は広めにもらって、税も免除してもらえって言われてね。そうすれば街の生活に慣れなくても、最低限自分達が食べる分の食料が作れれば生活できるだろうって。それから、税が免除されていればお金を稼ぐ必要もないし、村に残る選択をしたとしても今よりは生活が楽になるはずだって言われたよ。僕のじゃなくて、お母さん達が払う税を免除してもらったんだ」

元々は家だけもらう予定だった。家族4人で暮らせるくらいのそれなりの家。

でもダイスくんの言う通りだと思ったから、言われたままお願いすることにした。


「エルクくんは大分悩んでたから、何を貰うことにしたんだろうって思ってたけど、エルクくんらしいなって思うよ」


「初めにこの話を聞いた時は、特に欲しいものってないなって思ったんだよ。それで寝転がりながら考えてて、ダイスくんはお母さんの罪を消して一緒に住めるようになるって言ってたでしょ?それからラクネはお母さんに相談するって言ってたよね?」


「うん」


「そしたら、2人が羨ましく感じてね。それから、ホームシックなのかな、すごく寂しい気持ちになったんだ。それで僕が本当に欲しいものってこれなんだなってわかったんだよ。最近お姉ちゃんとも会えるようになったから、余計お母さん達に会いたくなったのかもしれない。村を出る時に当分会えなくなるのは覚悟していたはずなんだけどね……」


「それは当たり前な気持ちだと思うよ。私もお母さん達に会えなくなると思ったらすごく寂しいもん。それにエルクくんが治してくれるまで、お姉ちゃんとずっと会えなくてすごく寂しかったから」

リーナさんと会えなくて、ラクネも同じ気持ちだったようだ。


「そうだよね。ありがとう」


「家はいつ頃完成する予定なの?」


「冬になる前には完成する予定でいるみたいだよ。ちょうど冬前の休みにお姉ちゃんと村に帰省しようと思ってるから、その時に話をしようかと思ってるんだ」


「え、あ……そうなんだ。うん、気をつけてね」

ラクネが動揺しながら答えた。

動揺させるようなことなんて言ってないよね?


「えっと、どうしたの?」

聞かない方がいいような気もしたけど、勇気を出して聞くことにした。


「あ、えーと、エルクくんに私から話して良いのかどうか。エルクくんが聞いてないなら、何か理由があるのかもしれないし……。でも教えないと困ると思うし、どうしたらいいのかな」

ラクネが困っている。ラクネ本人のことではないことはわかったけど、何に困っているのかはよくわからない。


「よくわからないんだけど、誰かが困ってるけど、それを話して良いか迷ってるの?」


「う、うん。でも後から知るよりは今の方がいいと思うから話すことにするね。ローザちゃんにさっきの長期休暇の時に村に帰ることを話した方がいいよ」


「ローザに?」


「うん。なんでかは本人から聞いて。そこまで話すのはいけないと思うから」


「うん、わかったよ」

長期休暇のことだから、僕に何か用があったってことかな?ローザに聞いてみないとわからないね。


僕は机の上に置いてあった土地の権利書を手に取り、帰りも豪華な馬車で帰る。

さっき聞いた通り、途中で教会に寄ってラクネが寄付をしてから寮に戻ってきた。


そんなに時間は経っていないはずなのに、かなり疲れた。

行こうと思えば、行く時間がなくはないけど、ローザに話を聞くのは明日でいいかな

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