第115話 ローザからのお誘い
恩賞を受けた翌日、授業が始まる前に僕はローザに話をする。
内容はラクネから聞いていた通り、次の長期休暇で村に帰ろうと思っているという件だ。
ラクネからは詳細は聞いてないけど、多分ローザが何かサプライズ的な事を考えていると思う。
「次の長期休暇でお姉ちゃんと村に帰る予定なんだ。それで、その話をラクネにしたらローザに話をするように言われたんだけど、何か僕に用があった?ラクネからは詳細はなにも聞いてないんだけど」
「え……。それは仕方ないわね。お父様には私から話をしておくわ」
なんのことかさっぱりわからないけど、用があるのはローザではなく、ローザのお父さんのようだ。
「えっと、よくわからないから初めから説明してもらえない?」
僕はローザに詳しい説明を求める。
「お父様からエルクには秘密にしておくように言われていたけれど、来られないなら話してもいいわね。秘密にして驚かせようなんてするから、先に予定を入れられてしまうのよね」
やっぱり、サプライズを考えていて、僕を驚かせようとしていたらしい。
僕はローザの話を聞きながら、一つの懸念が浮かんだ。
「なんか断る流れで決まってるみたいだけど、断っても良いことなの?」
平民が貴族の誘いを断っていいのだろうか?
準男爵になったといっても、平民のようなものだ。
良くないから、僕もお姉ちゃんも村を出て学院に通ってる気がするんだけど……。
「別にいいと思うわよ。気になるなら、何をしようとしていたか説明するから、話を聞いた上でどうするか決めてもらえるかしら」
「秘密にするように言われてるんじゃないの?言っちゃっていいの?」
「驚かせるのが目的じゃないからいいのよ。お父様はエルクを屋敷に招いて、もてなしたかったの。フレイの別荘に行った時、盗賊に襲われたでしょ?狙いは私だった。エルクは自覚してなかったみたいだけど、エルクに私は命を助けられたのよ。私だけじゃなくてあそこにいた全員ね。だからお父様がお礼をしたかったみたい」
「別にお礼なんていらないよ。結果的に僕が助けたみたいだけど、実際に命を張って戦ったのはルドガーさんだし、僕は知らずに寝てただけだよ。前にローザには言ったよね?」
以前にローザから命の恩人だと改めてお礼を言われた。
僕の力について黙ってたから、お礼を言えてなかったと言っていた。
その時にたまたまだから気にしないでと言ったんだけど……。
「そうね。だから、お父様にせめて堅苦しいのはやめるように言っておいたのよ。そしたら、旅行として連れて来なさいと言われたの。驚かせたいから出来るだけ秘密にするようにもね。フレイの所に行った時エルクは楽しそうだったから、旅行メインになるならエルクも喜ぶと思ってたんだけどね」
ローザなりに色々と考えてくれていたらしい。
「本当に断っていいの?」
話を聞く限り、ローザのお父さんは色々と準備を進めていそうだ。
「断ったからってお父様が何かすることはないわよ。そこまでお父様の器は小さくないわ。そもそもまだ誘う前だったからね。それにお礼をしたいって言ってる相手が断ってるんだから、悪くなんてするはずないわよ」
そうなんだろうとは思う。
でも貴族とか関係なしに、誘ってくれているのだから行きたいとは思う。多分村に帰る予定がなければ行っていた。
でも村の冬が厳しい事を身をもって知っているので、お母さん達のところには帰りたい。
でも時間は限られているので、両方行くのは難しい。
夏の休みと違って、次の休みはそんなに長くはない。
2週間だ。村までは乗り合い馬車で片道5日くらいなので、村に1泊しかしなかったとしても、残りは3日程しかない。
「屋敷ってどこにあるの?王都から近かったりするの?」
「近くはないわ。馬車で2日くらいかしら。ちょっと待ってて」
ローザはそう言って地図を持ってきた。
「ここよ。この辺りがフランベルグ家の領地なの」
ローザは乗り合い馬車でなく、家の馬車を使うだろうから、2日くらいで着くのだろう。
僕は地図を見ていて気づく。
ローザの屋敷と僕の村は同じ方向ではないけど、そんなにズレてはいなかった。ローザの屋敷に行ってから村に帰って、1泊か2泊くらいで帰れば間に合いそうだ。
ただ、それにはローザに頼むことがいくつかある。
「僕の村はこの辺りなんだよ。だから遠回りすればローザの屋敷にも行けると思んだけど……」
「エルクが住んでいた村ってその辺りなのね。遠回りになるけどいいの?」
「それはいいんだけど、お姉ちゃんと村に帰る予定だから、僕だけじゃなくてお姉ちゃんも一緒に行くことになるけどいいかな?お姉ちゃんにも聞かないといけないけど…」
「それは構わないわよ。それに聖女様ならみんなも嫌じゃないと思うわよ」
「みんな?」
僕以外にも行く人がいるのだろうか?
「旅行だって言ったでしょ?前とほとんど同じメンバーよ」
ラクネも行くから知ってたんだね。旅行の話だけ聞いていて、僕には秘密にするように言われていたんだろう。
「そうだったんだね」
「エルクは村までどうやって行くつもりだったの?」
「乗り合い馬車だよ。安く済むからね」
「それなら馬車を用意するわ。その方が移動が早いでしょ?」
「いいの?」
「遠慮する必要はないわよ。移動が短くなればその分屋敷に滞在できる日にちも増えるでしょ?」
「甘えていいのかな?でも豪華な馬車じゃなくていいからね。護衛とかもいらないから」
「用意するようにお父様に手紙を出しておくわ。屋敷までは一緒でいいでしょ?」
「うん。それじゃあお姉ちゃんに話をしておくね」
放課後、高等部に行きお姉ちゃんを探す。
「ねぇ君、迷子?」
誰かにお姉ちゃんがどこにいるか聞こうと思っていたら、話しかけられた。
迷子と思われているようだけど……
「迷子じゃないです。お姉ちゃんに会いにきました」
「お姉ちゃんに会いに高等部まできたの?羨ましいわ。私の弟なんて呼んでも来ないのに……。いつからあんなに生意気になったのかしら」
このお姉さんにも弟がいるようだ。
「お姉ちゃんがどこにいるか知りませんか?」
「お姉ちゃんって誰かな?」
「エレナです。エレナお姉ちゃん」
「…もしかして聖女様?」
「多分そうです。お姉ちゃんは自分で聖女を名乗ったことはないって言ってましたけど……」
「聖女様なら放課後は訓練室にいるはずよ。案内してあげる」
「いいんですか?」
「いいのよ。聖女様の弟を案内したなんて友達に自慢できるわ。それに聖女様とお話しする口実が出来るもの。私からお願いしたいわ」
お姉ちゃんがどんな扱いを受けているのか少し心配になる。
「お願いします」
僕はお姉さんに連れられて訓練室へと行く。
訓練室の扉を開けると、お姉ちゃんと火だるまの人がいた。
「きゃああああ!」
お姉さんが悲鳴を上げる。
僕はあまりの光景に心臓が止まりそうになった。
お姉ちゃんは悲鳴を聞いて火だるまの人を無視してこちらを見る。
「あれエルクじゃない。どうしたのよ?」
どうしたは僕のセリフである。
「いや、お姉ちゃんこそ何してるの?その火だるま……あれ、リーナさん?」
さっきまで火だるまになっていた人はリーナさんだった。
別になんともなさそうである。
「驚かせちゃったわね。最近はあんまり暴走することは無かったのにタイミングが悪かったわ。それで何か用があってきたんでしょ?」
僕はローザに誘われていることを説明する
「他の人がいいなら私はそれでいいわよ。エルクの友達にも会ってみたいし」
お姉ちゃんは特に悩むこともなく返事をした。
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