第68話 街ブラ散策

翌日、僕達は街中を見て回っていた。

僕達といってもフレイとローザはいない。

街中で襲われる可能性は低いとは思われるが、狙われているのがローザな以上、気軽に出歩く事は出来ない。


フレイは忙しいと言っていたけど、ローザだけを置いていくことにならないように残ったのかもしれない。


僕達の側には、使用人の男性とメイドさん、それから護衛がついている。


僕はみんなが行きたいところに付いていく。


最初は服飾屋に入った。

王都でラクネと行った店とは違い、貴族など富裕層のみをターゲットにした店だ。


僕は目についた服の価格をチラッと見る……この服は金貨1枚のようだ。


汚してもいけないので、近づかないようにしよう。


ラクネとエミリーも楽しそうに見てはいるけど、買うつもりはなさそうだ。


しばらく選んで、アメリとセイラはなにか買ったようだ。


「エルク様は買われないのですか?」

僕がぼーとみんなを眺めていると使用人の男性に聞かれる。


「こんなに高いもの買えませんよ」

僕は答える。そんなにお金を持ってないのもあるけど、僕には高い服と安い服の差があまりわからないので、高い服を欲しいとは思わない。


「お支払いは当家でしますので大丈夫ですよ」

ハーベスト家の奢りらしい。


「とりあえずは大丈夫です」

僕は断る。実際に欲しいと思っているものがあるわけでもないし。


「気になるものがあれは、遠慮せずに仰ってくたさい」

そう言って使用人の男性は一歩下がった。


向こうではラクネがメイドさんから同じことを言われている。

断りきれずにいるようだ。


僕はアメリにコソッと聞く。


「もしかしてアメリ達も買ってもらったの?」


「ああ。金は渡されているから自分でも買えるが、これはハーベスト家としてのもてなしと、賊の件の詫びの意味も兼ねているからな。遠慮するのは逆に失礼だ」

なるほど。この店では遠慮したけど、他の店では出してもらおうかな……


「そうなんだね。ありがとう」


みんなが満足したようなので、店を出る。


結局、ラクネは断りきれずにハンカチを買ったようだ。


僕はラクネとエミリーにさっきアメリから聞いた話をする。


「それでも高いものは遠慮しちゃうよ。このハンカチも勿体なくて使えないし……」

ラクネの気持ちはよくわかる。

結局、身の丈に合わないものは使わないのだ。


「そうよね、私はなんとか断ったけどなんだか疲れたわ。どこかのタイミングで自分でも買えそうなものがあったらお願いすることにするわ」

エミリーはなんとか断り切ったようだ。


僕も何かあったら買ってもらうことにしよう。


次は宝石店に入った。

ここでも買ってくれたようだけど、断る。


ラクネはまたしても断りきれずにあたふたしている。

断れないけど、流石に高すぎるから困っている。

かわいそうなので、声を掛ける。


「あっちにラクネに似合いそうな髪飾りがあったよ」

僕はラクネを連れて行く。


「これなんて似合うと思うよ」

僕が手に取って見せたのは宝石の付いていない髪飾りだ。

安くはないけど、自分で買えないような価格ではない。

それにラクネに似合いそうなのは本当だ。


「そ、そうかな?ありがとう」

ラクネは髪飾りを頭に当ててみる。


ラクネは髪飾りを買うことにしたようだ。


宝石屋を出た後は雑貨屋に入った。


価格もいい感じだし、ここで何か買ってもらうことにしようかな。

横を見るとエミリーもそのつもりのようで、真剣に欲しいものを探している。


僕は店内を見て回る。


色々と商品が並んでいるけど、王都の店と違って人形は置いてないようだ。残念である。

あったとしても、作ってる人が違うので買ったかはわからないけど……


うーん、特に惹かれるものがないなぁ。


「欲しいものがあれば遠慮なくおっしゃってくださいね」

使用人の男性に言われたので、ちょうどいいし聞くことにする。


「なにかこの街ならではってものはないですか?」


「そうですね、食べ物でしたら海があるので魚料理をおすすめするのですが……。ああ、これなんていかがでしょうか?」


「これはなんですか?」


「置物になりますが、ビンの中で魚が泳いでいるようで、綺麗ですよ」

男性に勧められたのは丸い瓶の中に作り物の魚や海藻、貝殻などを入れて海を模した置物だった。


ちょっと違うけど、スノードームみたいな感じかな……


言う通り綺麗だし、これを買ってもらおう。

僕は価格を見る…………銀貨20枚!結構高いけどこれにしようかな。


「これをお願いしていいですか?」

僕は使用人の男性にお願いする。


「かしこまりました。他にはよろしいてすか?」


「あればお願いすることにします」


エミリーはどうしたかなと見てみると、学院で使う文房具などを買っていた。ラクネも一緒に選んでいる。


絶対に使うものだし賢いな。僕もそうすれば良かったかな。

まあ、あの置物は綺麗だったし、ショーケースの中が寂しかったからいいか。


雑貨屋を出た後は昼食を食べる。


高いであろうレストランに入る

案内されたのは個室であった。


昨日の屋敷での夕食の時も思ったけど、食事のマナーなんてわからないから周りに知らない人がいないのは助かる。


コース料理を頂く。

当然だが、美味しかった。


メインで出てきた魚が特に美味しかった。

なんの魚かは知らないけど……


今日買ったら怪しまれるから、1人で買い物出来るタイミングがあったら魚を買っていこう。

アイテムボックスに入れとけば腐らないし


「エルクはどこか行きたいところはないのか?」

昼食を食べた後も買い物を続けるのだと思っていたんだけど……


「もう買い物はいいの?」


「ああ、大丈夫だ」

アメリはラクネを見ながら言った。

ラクネの顔には疲労が見える。


「そうだね。慣れてないと疲れるよね。えーと、じゃあ温泉に入りたいかな」


移動中にフレイから別荘には温泉があると言っていた。

来る予定ではなかったけど、この街にも温泉があるのは聞いていた。


「温泉かそれはいいな」


僕達は温泉に向かう。

向かっている途中で石鹸のことを思い出した。


どうしようかな……。どうせなら温泉に入る前にみんなに渡してあげたいけど、温泉に入る予定もなかったのに持ってたらおかしいかな?


「みんなに石鹸渡せてなかったよね?忘れないようにバッグに入れてたから、温泉に行く前に渡すね」

これなら自然だ。


僕はバッグから取り出すフリをしてみんなに渡す。

今は持ってないだろうからラクネにも渡した。


「ありがとう」


みんなに喜ばれたので、迷ったけど渡して良かったと思う。


温泉にやってきた。

やってきた温泉は高級宿になっていて、宿泊しないと利用が出来ないようだ。


温泉を利用するために一部屋借りたらしい。

しかも利用中は温泉を貸し切ったようだ。

さすが貴族である。


僕はちゃんと男湯に入る。

使用人の男性は脱衣所で待機しており、護衛の男性2人は服を着たまま、帯剣もした状態で浴室にいる。


仕方ないのかもしれないけれど、風情が台無しである。


温泉に来ているのだから、サボって一緒に浸かればいいのに……


僕はまず身体を洗う。


タオルを取り出して、石鹸を擦って泡立てる。


「坊主」

護衛の男性の1人が声をかけてきた。

もしかしてこの男性も身体を流すとか言ってくるのでは……


僕は覚悟を決めてから答える。

「な、なんですか?」


「今、そのタオルどこから出したんだ?」


「…………どこからって、ずっと手に持ってましたよ」


「そうか、見間違いか。手ぶらに見えたんだが気のせいだったようだ。邪魔して悪かったな」

危なかった。身体を洗ういつものモーションで無意識にタオルをアイテムボックスから取り出していた


僕は気をつけながら身体を洗う。シャンプーとリンスもアイテムボックスの中なので、一度脱衣所に忘れたことにして取りに戻ったフリをした。


使用人の男性が代わりに取ってこようとして大変だった。

バックの中を見られるのは恥ずかしいと言って誤魔化したけど、実際は恥ずかしいものどころか何も入っていない。


いや、何もではなかった。物が入っているように見せるために、軽く膨らませた風船が入っている。


演技をして手に入れたシャンプーとリンスで髪を洗う。


全身洗い終わった僕は温泉に浸かる。


「ふぅ〜」

やっぱり温泉はいいな。


「おじ…お兄さん達も入りませんか?剣を側に置いておけば裸でも戦えますよね?」

僕は護衛の男性を誘う。


「お、いいのか?」


「いいわけないだろう!」

若めの男性が誘いに乗ってこようとしたけど、もう1人の若くはない男性に止められた。


誘いに乗って入ってくれれば風情が返ってくるというのに……残念だ!

さすがに仕事中だし無理だよな。


僕は十分温泉を堪能したので上がることにする。


僕と護衛の男性2人は出てきた女性陣を見て驚く。


メイドさんと護衛の女性の身体が火照っており、どう考えても温泉に浸かっていたからである。

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