第67話 メイドさん

僕は浴場から出た後、ラクネとエミリーを呼びにいく。

僕の横には常にさっきのメイドさんが歩いている。


落ち着かない


だからといってこれが彼女の仕事なのだから、必要ないとは言いにくい。


ラクネを呼びに行き、一緒にエミリーがいる部屋に入る


なんだろう、僕は少し違和感を覚えたけど、何に対して違和感を覚えたのかはわからない。


違和感が気になるけど、2人に会いにきた理由である、手土産をどうするかの話をする。


「別荘の前に本宅の屋敷に着いちゃったけど、手土産は渡した方がいいのかな?渡すなら3人で渡した方が良いかなって思ったんだけど……」


「別荘じゃなくてここで渡すのは間違ってないと思うけど、立て込んでるみたいだし、今は違うと思うよ」

ラクネに言われる


「私もそう思うわ。私達は寝てたから実感が無いけど、あんなことがあった後だからね」

エミリーも同意見のようだ


「やっぱりそうだよね」

僕も同調しておく

別荘への手土産をここで渡して良いのか迷ってただけで、今は立て込んでるからとか、他の事情はなにも考えていなかったとは言わない


やることもないので、他のみんなも誘ってお茶会をすることになった。


フレイとローザは盗賊の件で立て込んでるようなので、残った5人で始める


内容の薄い話をしている中で、ローザの話になる。

細かく言うとローザの髪の話だ。


「エルクはいつになったらローザに石鹸を渡すんだ?」

アメリに言われた


すっかり忘れていた。

忘れたところでアイテムボックスに入っているから問題はないけど……


「フレイの家への手土産で石鹸を渡すから、その後の方が良いかなって思ってたんだけど、どうしてアメリが気にしてるの?」


「そうか、ローザは直接エルクには言ってないんだな。馬車の中でずっと石鹸の話をしてしていたんだ。ローザは癖っ毛がコンプ「アメリさん!そういう事は内緒にしておくのがマナーよ」」

アメリの話をセイラが途中で遮って注意する。


セイラが止めたけど、僕は聞こえてしまった。

ローザは癖っ毛がコンプレックスなのか……


そんな気にする程、癖強かったかな……

ちょっとしたアホ毛っぽいのがたまに生えてるくらいの記憶だけど


それと、僕のシャンプーとリンスに期待しているようだけど、癖っ毛を直す効果はあるのだろうか?


「ローザが早く欲しがっているなら、後で渡すことにするよ。手土産渡してからってなると、いつになるかわからないし……」


「ああ、そうしてやってくれ」


「みんなもいる?少しならあるよ」

明らかにみんな欲しそうなので、僕は少しならあることにした


「「「欲しい!」」」

ラクネ以外の3人が即答した。


「それじゃあ、後で持っていくよ」

みんな嬉しそうだ。


「そろそろご夕食の時間になります」

お茶会をしていた部屋にメイドさんが夕食を知らせにやってきた。


結構な時間話していたようだ


食堂に案内される


夕食はコースになっていて、順番に料理が運ばれてきた。


僕は夕食を食べながらずっと思っていたことがある。

お茶会の時には離れてくれたはずのメイドさんがずっと右後ろに立っている。


それはいいんだけど、みんなの方を僕は見る。


ローザとアメリとセイラの後ろにもメイドさんが立っている。これは僕と同じだ


フレイの後ろにはルドガーさんがいる。これもいい、メイドじゃなくて執事なだけだ。


問題はラクネとエミリーの後ろだ。誰もいない。


え、なんで?


もしかして断ったのだろうか……

断っても良かったのだろうか……


そして、ラクネとエミリーのいる部屋に行った時に感じた違和感の正体もわかった。2人の部屋にはメイドさんがいなかったのだ。


僕はこのメイドさんにプレッシャーを感じていた


たまにハァハアと荒い息遣いも聞こえるし……。振り返ると何もなかったかのような顔をしているのが逆に怖い。


僕がプレッシャーに耐えながら夕食を食べていると、ローザが衝撃的な事を言った


「なんでエルクは使用人をつけているのよ?私達は貴族としてのマナーがあるから仕方ないけど、エルクは関係ないでしょ?」


「え!そんなこと言われても、僕は何も知らないよ。部屋に案内された時からずっと横にいたけど、貴族の家だとそういうものなのかなぁって思ってたよ」

僕が後ろを見ると、メイドさんがゆっくりと逃げようとしていた。


「どこにいくのかしら?」

アメリの後ろに立っていたメイドさんが逃げようとしているメイドさんに声をかける


「ひっ!」


「アメリ様、少し退席してもよろしいでしょうか?」


「構わないよ」

アメリは答える


アメリに付いていたメイドさんが、逃げようとしていたメイドさんを引っ張って食堂から出て行った


少ししてアメリに付いていたメイドさんだけが戻ってきた。


「アメリ様、失礼いたしました」


アメリは頷いて返事をする。


「エルク様、うちのものが大変失礼を致しました。彼女は…………子供が好きなのです。悪気があったわけではありませんので許してあげてもらえませんでしょうか?」

この人はさっきのメイドさんの先輩メイドさんだったりするのだろうか?

子供好きって言う前に妙に間があったのが気になる。危ない意味で子供好きなのではないのだろうか?

お風呂の時はちゃんと断って良かった……


「何もされていませんので大丈夫です」

僕は答える


「ありがとうございます。彼女は後程しっかりと教育しておきます」

メイドさんに言われる。

この人、顔は笑っているけど、目は笑ってない

僕は少しさっきのメイドさんが心配になる


「お手柔らかに……」

メイドさんは僕の言葉を聞いてニコッと笑った。

……怖い


僕はメイドさんに衝撃を受けて、今日もローザに石鹸を渡すのを忘れた……

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