第66話 side ルドガー②

賊の相手をしないといけない


相手はパッと見たところ20人くらいか……30人はいると思って対処した方がいいな。

勝つ事は無理だ。だが、私の命を捨ててでも、お嬢様方だけはなんとしても逃してみせる。


私は声を出してお嬢様達を起こそうとする。しかし、誰も起きてくれない。

くそ、なんで起きてくれない!敵に囲まれた状態でテントの中に入って起こすなんて事は出来ないぞ。


私はお嬢様方を起こす為にも出来るだけ大火力の魔法を使い、敵を攻撃する

かなりの爆音がしているのに誰も起きてこない。

これはさすがにおかしい。魔法か何かで眠らされているのかもしれない。


テントを守ることを優先している為、自分への攻撃への対処が遅れた。敵が放った火球が私の身体に直撃した。


ガキン!


しまった!

そう思ったが、いつまで待っても痛みはこなかった。

え?……これは防護魔法だ。誰が私に掛けたんだ?


よくわからないが助かった。


私は引き続きテントを守りながら戦う。敵はまだ半分以上残っている。私の魔力はあとどれくらい保ってくれるだろうか……


私は隙を突かれて、敵をテントに近づけてしまった。


敵はテントを剣で斬り裂いて中に入ろうとする。

私は急いで火球を飛ばすが間に合わないと思った。しかし相手はいつまでもテントを斬り続けており、火球が当り倒れた。

布を斬ることも出来ない相手で助かった。


何故かいつまで経っても壊れない防護魔法のおかげもあって、少しづつ敵の数を減らしていたが、遂に私の魔力が切れてしまった。私は膝をつく。立ち上がる事が出来ない。


敵も私の異変に気づいたようで、ニタニタしながら近づいてくる。


ここまでか……そう思ったが、私は少年から貰った魔力回復ポーションの事を思い出した。

少しでも動けるようになってくれれば、魔法なしでも戦ってみせる。

そう思って飲んだが……感覚でわかる。魔力が全回復している。


私は油断している敵を攻撃する。


あと敵は半分くらいか……


私は敵の攻撃が効かない事をいいことに攻撃に専念する。

激しい戦闘で遂に防護魔法が壊れたが、敵の数も大分減った。


私は覚悟を決める。いや、覚悟は初めから決まっている。

私は戦い方を変えない。自分の命が尽きる前に殲滅してみせる。

テントを守るための魔力も今は惜しい。テントを狙う攻撃も私は身体で受け止める。


そしてなんとか敵を殲滅する。

良かった……なんとかお嬢様を守ることが出来た。


私は自分の身体を見る。

これはもう助からないだろう


フレイお嬢様を悲しませてしまうだろうか……。

でも悔いはない。悪い人生ではなかったな。


私の意識はそこで途切れた……


目を覚ます。死んだと思っていたが、私は生きていたようだ。

目の前には少年がいた。


大丈夫か聞かれたので、私は自分の身体を見る。あれだけ酷かった身体が綺麗に治っていた。


――――――――――――――――


旦那様の屋敷に到着し、旦那様に起きたことを簡単に説明して、まずは皆に屋敷の中に入ってもらう。


客間で旦那様がお嬢様達に挨拶した後、少しだけ話を聞かせてもらい個室に案内する。


そして私は旦那様、奥様、フレイお嬢様に起きた事の詳細を話した。

私が昔、悪事に手を染めていたことも包み隠さずに……


「全て私の責任です、気が済むまで罰して下さい」

私は深く頭を下げる。責任を取れと言うのであれば、命だって差し出す覚悟は出来ている。


「ルドガーよ、引き続きフレイの執事として働くことを命じる」

旦那様がおかしな事を言った。


「しかし、私にはフレイお嬢様の側にいる資格がありません」


「お主は私への恩をフレイに返すのではなかったのか?私は恩を売ったとは思っていないが、お主が返し終わったと思うまでは執事を続けるべきではないのか?」


「……。私の気持ちの問題ではありません」


「フレイはルドガーが執事を続けることに反対か?」


「反対なんてしませんわ。経緯はどうあれ、ルドガーは私を守ってくださいましたわ」


「なら何も問題あるまい。フレイはお主の過去を知っても執事を続けて欲しいと言っているのだ。執事なら主人の言うことが間違っていないならば聞くべきではないのか?」


「……はい、ありがとうございます」


「わかってくれて良かったよ。それじゃあ話を本題に戻させてもらう。お主が嘘を言っているとは思っていないが、不可解な点が多すぎるな……。なにか心当たりはないのか?」


「エルクが魔法を使っていたのなら、疲労が取れたっていうのは回復魔法だと思うわ。身体が治ったってのはローザの治癒魔法とエルクの回復魔法よ」

フレイお嬢様が答えた。


「エルクというのはあの小さい男の子か?」

旦那様確認する


「そうよ」


「魔力回復ポーションについては、エルクからもらったのだから、エルクに聞くしかないわね。後はローザが狙われた理由と私達が何で起きなかったか、それから防護魔法ね」


「賊がテントを斬れなかったというのも気になるな。テントにキズはあったのか?」

旦那様の言う通りだ。あの時はラッキーだと思ったが、流石にテントも斬れない者が剣を武器にしているのはおかしい


「確認してきます」

私は馬車に行き、荷物からテントを取り出して持っていき、広げる


「記憶ではこの辺りです」

テントにはキズが付いていなかった


「キズもそうだが、このテントは綺麗すぎないか?近くで魔法を使っていたのだろう?」


「テントにも何か不可思議な事が起きていたと考えた方が良さそうですね」


どの謎についてもいくら考えたところで答えは出なかった


「常識外過ぎて無理よ、ローザを呼んでくるから狙われた理由だけでも聞きましょう」

フレイお嬢様はそう言って呼びに行こうとするので、私も同行する


フランベルグ家の御令嬢にご足労願い、話を聞いた所、心当たりがありすぎてわからないと言われた。

ただ、タイミングを考えると派閥関係ではないかしらと言っていた。

ハーベスト家の馬車で移動中に、フランベルグ家の娘が誘拐されれば、フランベルグ家は令嬢を失い、ハーベスト家の権威は地に落ちる。

両家にダメージを与えて得をするところが怪しいということか……


それと、他の不可思議な件はエルクだろうと言っていた。

何をしたかはわからないけど、おかしな事は大体エルクが原因の可能性が高いとの事だ。


それと、今回のエルクが関わっていそうなことについては他言しないように言われた。

本人にも言わないようにとのことだ。


あの少年は何者なのだろうか?

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