第65話 side ルドガー

私はルドガー。今はフレイお嬢様の執事をしている。


閑散とした村で生まれた私は、魔法の才能があったおかげで王立の学園に入学する事が出来た。

結果を残して、卒業後も王都で職に就けれるようにならなければ、また村での生活に戻ってしまう。

王都での生活に慣れてしまった私には、もうあの空腹に耐えられる自信がない。


私は無心で努力を続けて、学園の高等部を上位の成績で卒業することが出来た。

ここまでは良かった。いや、良くなかったともいえる。


私は成績こそ良かったが、クラスでは浮いていた。


周りが貴族ばかりだと言う事もあって友達もいなかった。

いや、それは言い訳か。私と同じで村から出てきたやつは貴族連中とも普通に話をしていた。


卒業後は魔法の腕を見込まれて騎士団に入った。

騎士といっても見習いだったが……


訓練についていく事は可能だったが、私は周りと足並みを揃える事が出来なかった。隊長から団体行動が出来ない奴は周りを危険に晒すと言われた。

私は周りに合わせようとしているけど、どう合わせていいのかがわからない。

皆が何を考えているのかがわからない。


そして、私は騎士団を辞めた。


騎士団を辞めた後は冒険者になった。

依頼をこなしてBランクにまでなった。そして壁にぶち当たる。Bランクから上の依頼はソロでは厳しかった。

私は何度かパーティを組んだが、どれも長続きしなかった。理由は連携がとれないからだそうだ。


受けられる依頼が無いため、私は傭兵になった。


傭兵といっても、傭兵団に入ったわけではない。

プライドの為に傭兵と言っていただけで、実際は報酬をもらえばなんでもやる便利屋だった。


そんな事をやっていれば、当然のように悪い連中にも目を付けられる。


仲間にならないかと誘われるが、私は断った。

しかし、表向きに仲間になるのを断っただけで、報酬をもらえば彼らからの仕事も請け負った。

子供の誘拐や殺人などはさすがに断ったが、それに近い事もやった。


そんな生活をすること数年、私に転機が訪れた。

その日は届け物をした帰りだった。届け物の中身は知らないが、多分違法薬物とかだろう。


たまたま、貴族の馬車が盗賊に襲われている所に遭遇した。冒険者と思われる護衛と盗賊が戦っているが、護衛側が少し劣勢に見えた。

私はチャンスだと思った。助けた時のお礼を期待して援護に入る。


盗賊が私に気づいていないことをいいことに、背後から風魔法で攻撃を仕掛ける。無防備な状態で食らった為、盗賊共は一瞬で事切れた。


馬車から男性が降りてきて、お礼を言われる。


私は言葉ではなく、礼なら金銭で頼むと要求する。


私は金さえ貰えればそれで良かったのだが、男性は何を思ったのか「私の元で働かないか」と言ってきた。


なんの冗談かと思ったが、男性は本気で言っているようだった。

提示された給金は、今の稼ぎを遥かに超えていた為、私は男性の下に仕えることになった。


この男性が私の主であるフレイお嬢様の父上であり、ハーベスト家当主様だ


私は護衛として雇われたのだと思っていたのだが、何を思ったのか、娘の専属執事にしたいようだ。

ここまでくると、冗談だとしても笑えない。


旦那様の指示の元、私の教育が始まった。

荒っぽい言葉使いを修正され、貴族のマナーを叩き込まれ、料理や掃除の仕方まで教え込まれた。


どんどん私が私でなくなっていく気がした。


旦那様の元で教育される事3年弱、遂に旦那様からフレイお嬢様の執事になるように申しつかった。


私は旦那様の元を離れてフレイお嬢様の所に行く前に、ずっと気になっていた事を旦那様に聞くことにした。


「なぜ、私を雇おうと思ったのですか?自分で言うことではないとは思いますが、良い人間には見えなかったはずです」


「……あの時の君の目は死んでいた。目的もなく、ただ生きているように私には見えたよ。私は君に命を助けられた。経緯はどうあれ命の恩人に変わりはない。あの時の君は金を要求したけど、私はそれよりも君の人生を変えてあげたかった。ただそれだけだ」


「そうでしたか……。感謝します。旦那様の言う通り、あの頃の私はただ生きているだけだったのかもしれません。でも今は違うと断言できます。私を救っていただきありがとうございます。この御恩はフレイお嬢様に返させて頂きます」


私は旦那様に深く頭を下げた。


私はこうしてフレイお嬢様の専属執事になった。


そして、フレイお嬢様の専属執事になって一月が過ぎようとした頃、事件が起こった。


ずっと関係を断っていたのに、彼らからの遣いが来た。


内容はフランベルグ家の娘を誘拐しろと言うものだった。

私はもう足は洗ったと断った。そもそも以前から子供の誘拐は断っていたはずだ。

しかし、遣いの者は「ボスから、お前が断った場合は、これまでのお前の悪事をハーベスト家にバラすと伝えるように言われている。その上で誘拐ではなく、お前の今の主人にも危害を加えるともな」こう言った。


フレイお嬢様が学友と別荘に行く事は彼らにもバレているようで、移動中の夜に決行するように言われた。


私は寝ていて誘拐されたことに気づかなかったことにすればいいと……


従うならば私以外に護衛は付けないように画策するようにとのことだ。


遣いの者はそれだけ言っていなくなった。


私は悩む。過去の悪事がバレることを危惧しているわけではない。断ればフレイお嬢様に危害が加わるかもしれないことをだ。


しかし答えは決まっている。

私は彼らには手を貸さない。そしてフレイお嬢様は守りきって見せる。


私は彼らに従ったフリをして、フレイお嬢様に護衛は私1人で十分だと進言した。


しかし、本当に1人で護衛するわけにはいかない。私は彼らを甘く見てはいない。どこかの貴族がバックについているとの噂も聞く。


私が動くと彼らに感づかれるかもしれないので、もう一台の馬車を引く御者に裏で護衛を頼むように言う。


まさかこの御者が彼らの仲間だとは思っていなかった。

その結果、私が彼らに従うつもりがない事はバレていた。


出発当日、私達の馬車から離れた位置に馬車が付いてきている。

私は御者から、護衛が隠れて付いてきているので、何かあれば駆けつけるまでの間なんとか耐えて欲しいと言われた。


1日目の夜、私は寝ずにテントを守る。

何か起こるのがわかっているのに寝るわけにはいかない。


警戒していると、誰かがこっちを見ている気がした。

私はさらに警戒を強める。

朝になったが、何も起きなかった。

私が誘拐を実行しようとしていなくても、彼らが私に接触してこないということは、元から私が手を貸すとは思っていなかったのだろう。

私は寝ずに警戒し続けた為、疲れが溜まってしまった。

昨夜感じた視線は、私の力を削ぐのが目的だったのだとするとかなりまずい事になっている気がする。


フレイお嬢様に正直に話して王都に引き返した方がいいだろうか?


私が悩んでいると、お嬢様のクラスメイトの小さい男の子が私に何かの魔法を掛けた。

そしたら疲れが吹き飛んだ。後から知ったことだが回復魔法を掛けられたようだ。


これならまだ大丈夫だ。


さらに少年から魔力回復ポーションをもらった。市販品とは違うので効果は低いそうだが、なにが命運を分けるかは分からない。私はありがたく頂いた。


そして、また夜になる。

仕掛けてくるなら今夜だろう。護衛の馬車も近くに待機している。

また少年が魔法を掛けてくれたので、疲労も吹き飛んでいる。本当にありがたい。


油断していたつもりはない。

だが私は最初から間違えていたようだ。護衛が乗っていると思っていた馬車からゾロゾロとガラの悪い男達が現れた。

御者の男がニヤニヤしながら私の前に現れる


「敵に情報を流すなんておめでたい人ですね。おかげでやりやすくなりましたよ」

ニヤニヤしたまま言われる。


完全にハメられた……

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