第64話 旅の常連
僕はローザに揺さぶられて目を覚ます。
まだ眠い……
テントの隙間からはまだ日は見えない。うっすらと明るくなったくらいだ。
まだ起きるには早くないかな……
少なくてももう1時間くらいは寝てても良いはずだ。
「ローザ、おはよう。まだ起きるには早いから僕はもう少し寝るよ」
僕は二度寝することにする。
「いいから起きなさい!」
ローザは二度寝を許してはくれなかった。
そんなに別荘が楽しみなのだろうか……。僕も楽しみだけど、今は寝たい。
「まだ眠いよ……」
僕は無駄だと思いつつも抵抗する
「いたたたた」
ローザに頬を引っ張られた
僕はしょうがなく起きる
「まだ起きる予定には早いよ。なんで起こしたの?」
僕は目を擦りながら起き上がると、既にフレイとエミリーも起きていた。
フレイはアメリを起こしていて、エミリーはラクネを起こしている。
え、何事?
「えっと、何があったの?」
僕はローザには確認する
「さっきお花を摘むためにテントの外に出たの。エルクも外に出れば分かるけど、私達が寝ている間に盗賊に襲われたみたいなの。ルドガーさんが1人で戦ってくれて、私達を守ってくれたのよ。ルドガーさんの傷が酷いから、エルクに回復魔法を掛けてもらおうと起こしたの。私も治癒魔法を掛けたけど、これ以上使うと動けなくなってしまうわ」
寝ている間に大変な事が起きていたようだ。
僕が二度寝しようとむにゃむにゃ言ってる間に、フレイとエミリーは起きて、只事ではない空気を読み取って、ラクネとアメリを起こしているようだ。
ローザの話を聞く限りだと、かなり大規模な戦いがあったようだ。
僕は覚悟を決めてテントを出る。
テントを出ると凄惨な光景がそこにはあった。
テントを守るようにルドガーさんが座ったまま、気を失っている。その周りには20人程の盗賊と思われる男が倒れている。
フレイがルドガーさんはそこらの冒険者よりずっと強いと言っていたけど、僕が想像していたよりもさらに強かったようだ。20人程の盗賊相手にテントを守りながら全滅させるなんてスゴすぎる!
ローザの言う通りルドガーさんは全身ボロボロに見える。
僕はすぐに回復魔法を掛ける
「ルドガーさん、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。…………ありがとう、おかげでお嬢様を守る事ができた」
最初は回復魔法についてお礼を言ったと思ってたけど、途中からルドガーさんが何を言っているのか僕にはわからなかった。
「えっと、何のことですか?」
「色々と不可解な事はあったけど、君がくれた魔力回復薬が無かったら今頃私は死んでいただろう。そしたらお嬢様の命もなかった」
ルドガーさんのそばには空のビンが転がっていた。
確かに、村の中にまで盗賊が襲ってきたのは不可解だ。
もしかしたら、僕達の誰かを狙った襲撃だったのかもしれない。
でも、ルドガーさんの言う通り、本当に魔力回復薬のおかげで助かったのだとしたら、相当ギリギリの戦いだったのだろう。
残り1人とか2人って時に魔力切れで動けなくなったけど、魔力回復薬を飲んでなんとか魔力を振り絞って倒したとか……?
気持ち程度のつもりだったけど、渡しておいてよかった。
ルドガーさんに魔力回復薬を飲ませて動けるようになってもらう
「ありがとう、……また魔力が回復したよ。しかし苦いな……ハハハ」
苦いと言いながらもルドガーさんは笑っていた
「苦いのは諦めてください」
僕は水を渡しながら答える
「ありがとう」
ルドガーさんは水を流し込む
生きている盗賊は拘束してフレイの領地まで連れて行き、引き渡すことになった。
襲った理由などを尋問するのだろう。
既に充分驚いたけど、さらに驚く事があった。
ルドガーさんとは違う馬車を引いていた御者の男性が盗賊を手引きしていたようだ。
一緒に襲ってきたらしい。
ルドガーさん曰く、昨日の不穏な視線も彼だったのだろうとの事だった。
事切れてしまった盗賊の処理は、後程フレイの領地から衛兵隊を送ることになった。村の人にはそれまで我慢してもらうしかない。
アメリとラクネも起きたので、僕達は別荘からフレイの本宅にルートを変更して動き始める。
村から馬車を1台借り、御者が出来る人を2人臨時に雇って出発した。
朝早く出発した事もあり、予定よりも早く、昼前にフレイの領地に到着した。
盗賊を衛兵に引き渡して、村に衛兵隊を派遣する依頼をルドガーさんがする。
御者の1人とは、村から借りた馬車と一緒にここで別れる。
御者をしていた男性は報酬をもらってホクホク顔で帰って行った。
盗賊達と別れてからしばらく進み、フレイの本宅がある街に到着した。
フレイの本宅はビックリするくらい大きい屋敷だった。
ここでもう1人の御者とも別れる。彼は屋台がある方に消えて行った。
先にフレイとルドガーが屋敷の中に入っていく。
今回のことを説明しているのだろう
少しの間馬車の中で待っていると、屋敷の中に案内されて客間に通される。
フレイの父親がやってきて状況を聞かれたけど、ルドガーさん以外は寝ていたので答えれることはなかった。
元々は別荘に行く予定だったけど、安全が確保できるまではこの屋敷に滞在するようだ。
多分、拘束した盗賊は雇われただけで何も情報は持っていないだろうとのことだった。襲われた理由が判明すれば一番いいけど、判明しない場合は護衛を強化して別荘に向かうことになるらしい。
他の貴族の娘も参加している以上、簡単に取りやめることも出来ないし、襲われたのに何も対策せずにそのまま行かせる事も出来ないのだろう。
貴族のしがらみがチラッと見えた気がする
僕としてはこの街も大きいし、色んな店を周れば楽しいだろうから、このままここに滞在してもいい気がする。
僕達から聞ける事がない事がわかったようで、僕達はそれぞれの部屋に案内される。
僕は案内してくれたメイドさんに確認してお風呂を借りる。
寮の風呂も大きくて豪華だったけど、ここのお風呂はそれ以上に豪華だった。流石にサイズは寮の方が大きかったけど……。
「お身体流させてもらいますね」
僕が服を脱いで、お湯に浸かる前に身体を洗おうとしていたら、先程のメイドさんが入ってきて僕の身体を流すと言ってきた。
「自分で出来るので大丈夫です」
僕は当然断る。そもそもここは男湯なので入ってこないで欲しい。
「かしこまりました。なにかあれば遠慮なくお申し付け下さい」
僕は風呂場から出て行ってくれると思っていたのに、メイドさんはそう言って、風呂場の出入り口前にピンと立った。
いや、出て行って欲しいんだけど……
「あの、恥ずかしいので……出て行ってもらえませんか?全部自分で出来ますので」
「ふふ……かしこまりました」
メイドさんは微笑ましいものを見るかのように笑いながら出て行った。
「ふぅ」
やっと1人になれた
僕は身体を洗ってから、湯船に浸かる
「はぁ〜。やっぱり浄化魔法より浸かった方が気持ちいいな」
僕は湯船に浸かりながらふと思う。
ルドガーさんはいつになったら眠ることができるのだろうか……
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