第61話 皆の反応

ついに旅行に行く日になった。


僕達はフレイの準備してくれた2台の馬車に分かれて乗って別荘へ向かう


僕はラクネとエミリーの3人で馬車に乗ることになった。

また休憩のタイミングでメンバーは入れ替えしましょうと言っていた。

最初は貴族同士で話す事があるからってこのメンバーに分かれたけど、多分豪華な馬車の中に貴族に平民が囲まれたら緊張するのでは?という配慮だと僕は勝手に思った。

実際のところは知らないけど……


出発する前に、フレイにクッキーの詰め合わせを渡す

「これ、お世話になるお礼として受け取ってね。ラクネとエミリーの3人からね。こういうのは向こうに着いてからの方がいいかなって思ったけど、移動中に食べたらいいかなって思って」


「ありがとう、頂くわ」


馬車に分かれて乗り込み、フレイの別荘に向けて動き出した。


「2人に準備任せちゃってごめんね」

馬車が動き出してすぐにエミリーが謝る


「私こそ仲間外れにしちゃったみたいでごめんね。エミリーちゃんも誘おうと思ったんだけど、どこに住んでるのか知らなかったから……」

ラクネも謝った


「僕も知らなくて、ごめんね」

僕もエミリーに謝る


これは別に誰が悪いって話ではない。


良くなかったのは、学校が終わる前に約束をしてなかったことかな……。


3人が皆謝るという異様な空間に自然と笑みが漏れる


「ふふ、おかしいわね」


「そうだね」


「可笑しい」


「せっかくの旅行だし、過去のことは忘れて楽しくいこうよ。とりあえず、着くまでまだまだ掛かるしお菓子でも食べよう」

僕はクッキーを取り出す


「うん、ありがとう」

ラクネはクッキーを頬張る


「ありがとね」

エミリーはクッキーを一口かじる


「……美味しいわ。甘すぎないのに美味しい」


「だよね。エルクくんのお菓子食べるまでは、お菓子って甘ければ甘いほど美味しいと思ってたのに、そうじゃないって最近は思うの」


「そんな大袈裟なものではないよ、ただの焼き菓子だよ」


2人は夢中になって食べるので、僕は追加でクッキーを取り出す。さっきはバタークッキーだったので、今度はチョコチップ入りだ


「好きなだけ食べていいからね。2人は何を飲む?」

僕はオレンジジュースを取り出して飲みながら聞く


「ありがとう、私は前にもらったタンサンってやつがいいな」

ラクネには炭酸入りのオレンジジュースを渡す


「ありがとね。美味しいから食べすぎちゃうわ。私も同じやつもらってもいいかしら。たんさん?ってやつ」

エミリーにも炭酸入りのオレンジジュースを渡す


ラクネは炭酸がクセになったようだけど、エミリーはどうかな?


「ん!んんん。な、なにこれ!味は美味しいけど喉が痛いわ」

お気に召さなかったのかな?


「炭酸入ってないやつもあるけど、そっちにする?ぼくが今飲んでるのも入ってないやつだよ」


「……そうね。悪いけどそっちをもらっていいかしら」

僕はオレンジジュースを渡す


「美味しい。味はさっきのと同じなのね」

やっぱり、エミリーに炭酸は合わなかったようだ。


後でローザ達にも出して反応を見てみよう

炭酸を知らない人が初めて飲んだ時の反応は面白い。

……少しだけ黒いエルクが顔を出したようだ


僕がどうでもいい事を考えていると、最初の休憩になった。

これは僕達の休憩ではなくて、馬車を引いている馬を休ませる為の休憩だ。

僕達は乗ってるだけなのでそんなに疲れない。

お尻が少し痛くなるだけだ。


休憩後はローザとアメリと一緒に馬車に乗る


「エルク、あのお菓子美味しかったわ。ありがとうね」

ローザにクッキーのお礼を言われる


「うまかった」

アメリの口にも合ったようだ。

アメリは剣一筋って感じで、甘いものより肉に齧り付いているイメージだったので意外だ。

僕の勝手なイメージなので、普通に甘いものが好きな女の子のようだ。


「それはよかったよ」


「また作って欲しい」

アメリがこうやっていうのは珍しい気がする。

冒険者ギルドで依頼を受ける時も、希望を言っている記憶はない。戦いたい的なことは言ってた気はするけど……


でも、僕はそれよりも気になることがあった。

「もしかして、全部食べたの?」


味の感想を言われたように思ってたけど、過去形なのが気になった。


「……手が止まらなかったのよ」

ローザがボソッと言った。


「美味すぎるのがいけない」

アメリはハッキリと言い切った。


「……結構量があったと思うけど?」

向こうは4人いたけど、さっきラクネとエミリーと一緒に食べた時の5倍以上はあったはずだ。

そもそも片道3日で少しづつ食べると思って渡したんだけど……


「美味すぎるのがいけない」

アメリが同じことを言った


「……まだ持ってるけど食べる?」


「食べる!」

アメリは即答した


僕はクッキーを取り出す。さっきはバタークッキーだったのでチョコチップ入りにする。


「お、これもうまいな!」

アメリは食べ始める。


「変わったジュースあるんだけど飲む?」

僕は2人にも炭酸を飲ませてみることにした


「おう、ありがとな」

アメリはゴクゴクと飲む


「かー!これはうまいな!」

なんか、酒を飲んだみたいな反応をした。これはこれでビックリしたけど、期待した反応ではなかったな。


「ローザもどう?」


「ありがと、頂くわ」

ローザが一口飲む


「んっ、けほ!けほ!なんてもの飲ませるのよ!」

ローザの口には全然合わなかったようだ。


「ごめん、このジュース好き嫌い分かれるんだよ。こっち飲んで」

僕は炭酸が入っていないオレンジジュースを渡す


「そうみたいね」

ローザが見る先には、ローザが飲むのをやめた炭酸ジュースをゴクゴク飲むアメリがいる


「こっちは美味しいわ」

ローザはクッキーを摘みながらジュースを飲む


「気に入ってくれて良かったよ」

アメリにはビックリしたけど、概ね予想通りだった。


その後、フレイとセイラにも炭酸を飲ませたけど、フレイはラクネと同じで最初は驚きつつも好んで飲んだ。

セイラはアメリ程ではないけどゴクゴクと普通に飲んでいた。


後々、反応を楽しんでいたのがバレたけど、さらに追加のクッキーを献上したことで難を逃れることに成功した


皆が昼食を食べなかったのは僕のせいではないはずだ……

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