第60話 旅支度

長いようで短く感じた1学期が終わった。


3日後にフレイの別荘へ出発する。

転生してから初めての旅行である。楽しみだ。


今日は旅行で必要な物の準備をする


手ぶらでいいとは言われたけど、自分の物の準備はしないといけないし、手土産のクッキーや干し肉、石鹸をそのまま渡すわけにはいかないので、ラッピングする必要もある。


食料はフレイが準備してくれるので、準備は必要ない。

何かあったとしても、創造で創ればいいから大丈夫だ。


準備しないといけないのは着替えだな。

服は創れない。糸は創れるんだけどな……


学校では基本制服なので、あまり私服を使う事がない。

その為、私服は数着しかないので旅の間の着替えと考えると足りない。


お貴族様の所にお邪魔するのだから、ある程度綺麗な服を用意した方がいいよね


間に合うかわからないけど仕立ててもらうのがいいのかな?高そうだけど、とりあえず聞いてみようかな。

糸持ち込みなら安くやってくれたりしないかなぁ


後必要な物は……タオルとか洗面用具はアイテムボックスに入ってるし、必需品で足りない物は服だけだな。


やる事が決まったので、僕はすぐに行動に移す。


ラッピングは後でも出来るので、仕立てるのに間に合うかわからない服から買いに行くことにした。


どんな服を買えばいいかわからないので、ラッピングの事もあるしラクネとエミリーに声を掛けに女子寮に向かう。


寮監のおばちゃんにラクネとエミリーを呼んでもらう。

当然だけど、女子寮は男子禁制だった。


おばちゃんに確認してもらったら、2人とも寮にはいなかった。

僕みたいに王都に家がない人は寮に残っているようだけど、王都に家がある人は家に帰っているようだ。


ラクネの家は知っているけど、エミリーの家はどこにあるか知らない。

しょうがないので、ラクネだけ誘うことにした。


「こんにちはー。ラクネさんはいますか?」

僕は玄関に出てきたラクネの母親にラクネを呼んでもらう


「あら、エルクくん。よく来てくれたわね、さあ、上がっていって」

ラクネの許可を取らずに勝手に部屋に案内された


「ラクネ!エルクくんが遊びに来てくれたわよ」

母親はノックもせずにドアを開けて、ラクネに言った


「え、ちょっ、エルクくん、ちょっと待っててね」

ラクネはドアを閉める。中からバタバタと走る音が聞こえる。

音が止んでから少ししてドアが開いた。


「エルクくん、おまたせ。入って」

何もなかったかのように部屋に案内された。


さっきチラッと見えた時とラクネの服装が変わっている。


ラクネに用があったけど、ラクネの部屋に入る用はなかったのでちょっと困る


「それで、今日はどうしたの?」


「旅行の準備で服を買いに行こうかと思って、手土産のこともあるし一緒に買いに行かないかと誘いに来たんだ。部屋に来たのはラクネのお母さんに連れられてきただけだよ」


「そうだったんだ。なんかごめんね。暇してたから一緒に行けるよ」


「ありがとう、聞きたいこともあったから助かるよ」

ラクネはちょうど暇していたとのことで、買い物に付き合ってくれる。


「エミリーも誘おうかと思ったんだけど、寮にはいなかったんだ。家どこか知らない?」


「私も知らないよ」

ララクネも知らないようだ。


ラクネは服をどうするか聞いたら、普段使っている服を持っていくそうだ。

今日の服もオシャレだし、着れればいいと思って買った僕の普段着とラクネの普段着ではそもそもが違うようだ。


ラクネにおすすめの服飾屋を教えてもらったので、お菓子を食べてから行くことにする。


ラクネに教えてもらった服飾屋に入ると、既製品の服と古着が並んでいた。張り紙には仕立てもすると書いてある。

どんな客層にも対応してくれるようだ


とりあえず店主に仕立てた時の価格といつまでに出来るかを聞くことにする。


「すみません、貴族の人の家に行っても失礼のないくらいの普段着が欲しいんですけど、仕立ててもらったらどのくらい掛かりますか?」


「どの程度の物を作るかによるけど、銀貨10枚から金貨1枚までかな。物によってはもっともらうけどね」


片道3日だから少なくても4着は欲しい。いや、5着かな。安く見積もっても銀貨50枚か……やめとこう


「わかりました、ありがとうございます」


僕は既製品と古着を見る。既製品は銀貨3枚くらいで、古着は高くても銀貨1枚だけど一見綺麗に見えてよく見るとほつれがあったりしている。


既製品で揃えるか……

僕はセンスに自信がないので、ラクネにコーディネイトしてもらって服を5着とズボンを3着買った。


店主が少し値引きしてくれたので、全部で銀貨20枚だった。財布の中身がかなり寂しくなってしまった


服も買ったので、店を出ようと思ったけど大事なことを思い出した。

「海に行くって言ってたから水着買わないといけないね」

村では使わなかったし、王都でも使う事がなかったので持ってない


「水着?」

もしかしてこの世界には水着がないのだろうか?


「海とか川に入る時ってどうしてるの?」


「汚れてもいい服で入るよ」

そういうもののようだ。なら水着は買わなくていいな。そもそも売ってなさそうだし。


「そうなんだね。ラクネのおかげでいい服が買えたよ、ありがとう」


僕はラクネにお礼を言って店を出ようとする


「ちょっと待って、お母さんに糸買ってきて欲しいって言われたから買ってくるよ。服を作ってくれるって言ってた」


「ラクネのお母さんは自分で服を縫えるの?」

そういえば、村での僕の服もお母さんの手縫いだった


「うん、この服もお母さんが縫ってくれたの」


「すごいね、お店で買ったと思ってたよ」

本当にそう思ってた。ここに並んでる服と見比べても遜色がない


「えへへ、選んでくるからちょっと待っててね」

ラクネは照れながら糸を探しに行こうとするので、僕は止める


「服選びに付き合ってくれたお礼に糸をあげるよ。白色の糸しかないけど、染めれば他の色にも出来るし」


僕は糸を取り出す


「キレイな糸だね、本当にもらっていいの?」


「僕が糸を持ってても使わないからね。縫ったり出来ないし」


「そうなの?ならもらっちゃうね。ありがとう」


僕はラクネに糸を渡した。


糸を買う必要が無くなったので、店から出ようとしたら店主に慌てて止められた。


「ぼ、ぼっちゃん。ちょ、ちょっと待ってくれ」


なんだろうか?もしかして店内で糸を取り出して渡したから万引きしたとでも勘違いされたのだろうか?


「何ですか?この糸なら僕が持ってた物で売り物ではないですよ」

一応、万引きではないと言いつつ、止められた理由を聞く


「盗みを疑った訳じゃないよ。その糸、私に売ってはくれないだろうか?そんなキレイな白色の糸は見た事がない。今、貴族様に頼まれているドレスに使わせて欲しい」


僕は糸の見分けなんてつかないけど、ドレスに使うような糸なんだろうか?

僕は商品の糸を見る。

白色の糸は置いていなかった。灰色やクリーム色はあったけど、白色はないようだ。

品切れかな?それで困っていると……


「えっと、どのくらい必要ですか?」


「初等部の女の子用だ」

そんなこと言われてもわからない


「えっと、このくらいですか?」

僕は適当に糸を取り出す


「もう少しあると助かる」

僕は追加で取り出す


「ありがとう、このくらいあれば大丈夫だ。それでいくらで売ってくれる?」

相場がわからない。

置いてある糸の価格からすると……


「じゃあ、大銀貨1枚でお願いします」

大体このくらいだろう。


「いや、それはちょっと……」

多すぎたようだ。まあ、白色だし染色済みの糸と比べたらダメか……


「いくらならいいですか?相場が分からないので……」

僕は店主に聞くことにする。始めからそうすればよかった


「金貨5ま……「金貨1枚にしましょう。それ以上は受け取りません」」

まさかの金貨発言に僕は驚く。さらに5枚って言おうとしたよ。どれだけ品切れで困ってたかわからないけど、そんなにぼったくるつもりは元々ない。

お礼として倍にしてくれたならそれで十分だ。


それに創造でいくらでも創れる糸でそんなにもらうわけにはいかない気がする。


「いや、そうは言ってもこの糸「金貨1枚以外では売りませんよ」」

店主から払うと言ってはいるけど、明らかに相場よりも高い金額で売るのは足元を見ているようで、気持ちがいいものではない。


「……ああ、わかった。ありがとう、助かったよ」

なんとか店主は折れてくれた。


この慌てようからすると、よっぽど貴族から完成を急かされていたのだろう。この糸でいいのかはわからないけど、いいドレスを作ってくれることを願う。


その後、ラクネの部屋に戻った僕達は完成していた干し肉とクッキー、石鹸をラッピングした。


よし、これで準備完了だ!

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