第62話 万能執事

馬車で何事もなく進み、日が沈み始める。


小さな村に入った所で、馬車は止まった。


「お疲れ様です。本日はここの場所をお借りしてテントを張りますので、もうしばらく中でお待ち下さい」

御者の方に言われる。


しばらく待っていると、準備が完了したと連絡をもらったので馬車を降りる。


外にはテントと食事用のテーブルと椅子が準備されていた。テーブルや椅子は持ち運び用の簡素な作りではあったが、装飾が細かに施されていてさすが貴族だと感じた。


僕達はテーブルを囲んで料理を食べる


料理はパンとスープ、それからサラダ。メインはステーキみたいな肉料理だった。


料理は御者の人が作ったらしい。

馬車を引いて、料理して、テントの設営してと大変だな。


どれも美味しい。

旅の最中の食事とは思えない豪華さだ


「これだけ豪華だと、旅をしてるとは思えないね。すごくおいしい」

僕は感想を述べる


「気に入ってもらえて良かったわ。彼は先日、私専属の執事としてお父様が雇って下さったのだけれど、御者や料理だけでなく、魔法の腕もスゴくて、多才なのよ。私には勿体無いくらいだわ」

フレイは御者の男性を紹介した。

御者だと思っていたけど、フレイの執事だったようだ。


「お褒め頂きありがとうございます。ご紹介に与りました、フレイ様の執事をさせていただいておりますルドガーと申します」

ルドガーさんは挨拶をする


「ルドガーはそこらの冒険者よりずっと強いのよ。今回の旅に護衛の冒険者を雇ってないのは、ルドガーがいるからなの」

フレイは嬉しそうに言った。


言われてみれば護衛はいなかった。ルドガーさんが護衛も兼ねているからのようだ。


「少々、魔法の心得がある程度でございますが、皆さんの安全は私が責任をもってお預かり致しますのでご安心下さい」


少々と言ったけど、フレイを見る限りだと相当ウデが立つみたいだ。

これは安心できる。


ルドガーさんから今日の食事は豪華だけど、明日からは保存の効く食材がメインになるので少しずつ出せる料理が質素になってしまうと聞かされた。

これはしょうがないことだ

前世と違って保冷車なんてものはないのだから


食事を終えた僕達はテントに入って寝ることにする。


僕は断ったけど、聞き入れてもらえずみんなと同じテントになってしまった。

生まれ変わったからか欲情することはないけど、前世の歳を考えると出来れば別のテントが良かった。


テントは今僕達がいる大きいテントと、ルドガーさんともう1台の馬車を引く御者の2人で使う小さいテントの2つだ。

僕は御者の人と同じテントでいいと言ったけど、こっちは使用人用なのでお客様に使っていただくわけにはいかないと言われた。

それなら他のテントか馬車の中でもいいと言ったけど、テントは2個しかなくて馬車で寝かせるわけにはいかないと言われてしまった。


他の男子生徒が一緒に来ていれば、テントはもう一個用意する手筈だったようだ。

僕は男としてカウントされていないことが判明した。


間違いが起きることはないけれど、緊張して眠れないかもしれない……


みんなが着替え始めようとしたので、僕は慌ててテントを出る。

6歳ではあるけれど、同級生なのだからもう少し気にして欲しい……

僕はテントの陰に移動して隠れて着替える。


僕は王都に来てからあまり使っていなかった浄化魔法を使って身体と脱いだ服をキレイにする。

寮には豪華なお風呂があり、お湯に浸かるのが好きな僕は浄化魔法を使うことはなかった。

服も寮のメイドさんが洗ってくれるのでお願いしていた。

貴族が使う事をベースにした寮なので至れり尽くせり仕様だ。僕は根っからの庶民なので、毎回申し訳ない気持ちになる。

使ったのは遺跡調査の依頼を受けた時くらいかな……


僕は失敗した依頼の事を思い出して少し気持ちが沈む。


村にいる時はお風呂なんてないから、水を被るしかなかった。冬が地獄だったので浄化魔法を創ったのだ。


みんなが着替え終わったかちゃんと聞いてから僕はテントの中に戻る。


「ねえエルクの髪、なんだかキレイになってない?」

ローザに聞かれる


キレイにはなったけど、わかる程かな……

「ちょっと洗っただけだよ……」


「それにしては濡れてないみたいだけど?」


『スキルで汚れを落としたから』って言おうとしたけど、僕は自分に待ったを掛ける。

僕は最近、色んなスキルをみんなに見せすぎている気がする。

子供がスキルを持っている事自体が稀だと前に姉が言っていた。

このままでは創造スキルの事がバレるかもしれない。

最近、よく考えずに行動して痛い目を見ることが多かったので、僕はよく考えて答えることにする


「回復魔法でキレイに出来るんだよ」

僕はそれっぽい嘘をついた

回復魔法も浄化魔法も同じ聖属性だし、回復魔法の応用くらいに考えてくれるだろう


「回復魔法ってそんな事も出来るのね。知らなかったわ」

ローザ達は特に疑問も抱かずに信じてくれた。


今後もこうやって、使えるスキルの数をみんなには少なめになるように誤魔化していこう。

僕は決意する。


みんなに見せたことがあるスキルって何だっけ?火、水、土、風の魔法と回復魔法、身体強化に魔法威力強化、あとはサーチとマップかな……ああ、罠感知と罠解除もだ。それと、ラクネとダイスくんにはアイテムボックスのことがバレている。あれ、シールドの事も誰かに話したような気がするなぁ。気のせいかな?


聞いた噂によると、学院長先生は数々の魔法を使いこなすみたいだし、サウス先生も土魔法と筋力強化魔法に加えて剣術や棒術など格闘系のスキルを多数獲得しているらしい。


今更な気がしてきたけど、まだアウトではないはずだ。子供にしては多いくらいって認識の範疇だと思う。……思いたい。


「ねぇ、エルクってば!」

考え込んでいたらローザに肩を揺らされた


「ご、ごめん。考え事してたよ」


「遠くを見つめて、死んだような目をしてたわよ……。そんなことはどうでもいいのよ、魔力がまだあるなら私たちもキレイにしてくれないかしら?旅の最中だし我慢しようとしてたけど、キレイになれるならお願いしたいわ」


クラスメイトが死んだ目をしていることは、そんなことのようだ。悲しい……


「うん、いいよ」

僕は気分を切り替えて、効果範囲を広げてみんなに浄化魔法を掛ける。


「スゴいわ!本当にキレイになってるわ。ありがとう」

みんな喜んでいる。


キレイになったので、もう寝ることにする。僕は出来るだけみんなとはくっつかないように気をつけて横になる。


プーーーン


僕の耳の近くを虫が通る。

パシっ!

僕は音を頼りに叩くけど逃げられた。叩いた顔が痛いだけだ。


僕は結界のスキルを使ってテントを覆う。これで新たに入ってくることは出来ないだろう。

結界は中からは簡単に出れるけど、外からは僕が許可した者しか簡単には入れない。これは人以外も対象だ。


「ちょっと虫を外に出したいから風魔法使うよ」

僕はみんなに断ってから魔法を使う。

強風で虫を結界の外まで吹き飛ばした。


これで気持ちよく寝れそうだ


僕は心配していたのが嘘のようにすぐに眠りについた

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