第58話 別荘のお誘い

学期末試験も終わり、もうすぐ夏季休暇に入る。


僕はフレイの親が所有する別荘に行かないかと誘われていた。


フレイの親が治める領地は有名な避暑地らしく、フレイがクラスの何人かに声を掛けていた。


ローザとアメリは行くことが決定している。

他に声を掛けた人を聞いたら、僕とラクネとダイスくんとセイラ、後は僕とあまり話したことがない人が3人だった。


その内、ダイスくんは忙しいとの理由で行かないらしい。


僕は特に予定はないので行くと返事をする。


後日聞いたら、行くことにしたのは僕とラクネとセイラ。それから、エミリーという女の子だ。フレイとローザ、アメリも入れて7人で行くことになった。


他の2人は男の子だったらしいが、1人は予定が入っているとのことで、もう1人は他の男2人が断った為、女の子ばっかりの集団に混ざるのは勘弁してほしいとの理由で断ったそうだ。


その理由からすると、僕はどうなるのだろうか?

男は僕1人で残りの6人は女の子である。

ハーレム状態だが、心まで6歳になってしまったのだろう、恥ずかしいだけである。

まあ、生前の年齢を考えると13歳に欲情するのもどうかと思うけど……


何も考えずに行くと答えていたので、フレイに予定を聞いた。

別荘までそこまでは離れていないようで、馬車で片道3日で着くようだ。

今回の旅行はアメリの勉強合宿を兼ねているそうで、話しの流れで僕の成績も悪いことがバレてしまい、僕も勉強するハメになった。


アメリの座学の成績が悪いのはわかっていたことで、試験前にローザとフレイでかなり教えたらしいが、結果は散々だったようだ。


勉強以外は近くの海やら山に行く予定を立てているようだ。

他にも何やら秘密の計画を立てているとの事。


移動中や着いてからの食事なんかは全て用意してくれているとの事なので手ぶらで来ていいらしい。


そして今、ラクネとエミリーと3人で話をしている所である


「エルクくん、初めましてではないけどあまり話した事はなかったわね。エミリエッタよ。エミリーって呼んでくれていいわ」


「それじゃあエミリーって呼ばせてもらうね。エルクだよ、よろしくね」


なんでこの3人で話をしているのか、初対面に近い僕とエミリーの顔合わせの為ではない。

まあ、それもあるけど本題は別だ。


「それで、フレイちゃんの家に持っていく手土産なんだけど何がいいかな?」

ラクネが話を切り出した。


フレイは手ぶらでいいとは言っていたけど、真に受けて本当に手ぶらでは行かない。

3人の共通点は平民であることだ。

残りの4人は貴族の娘である。


実際には手ぶらで行った所で、何も言われないし、気にしないだろうけどそういう問題では無いと思う。


平民なので当然だが、高価な物を買って手土産とするのは厳しいので、こうして話し合っているのである。


「ローザ達は何を持っていくか知ってる?」

僕は2人に聞く


「自分達の実家から特産品を送ってもらって持っていくみたい。ローザちゃんは食器だって言ってた。アメリちゃんは剣だって」


「そっか、貴族同士って考えるとそうなるよね」

悩まなくてもいいのはずるいな。

貴族には貴族の悩み事とかあるかもしれないけど……


前世の時の事を考えるとなんだろうか……会社で上司の家に行くことになった時、何を持っていったっけ?


……ああ、酒だ。日本酒を持って行ったんだ。


日本酒は創ろうと思えば創れると思うけど、米がないと思われるこの世界で日本酒はダメだろう。

そもそも、フレイの家族には喜ばれるかもしれないけど、今回呼んでくれたのはフレイだ。フレイが飲めない物を渡すのはどうかと思う。


他には……御中元なんかだと、お菓子とか果物、ハムとかかな。あとは石鹸とかタオル?

ケーキとかは生物だから、出したらおかしいよね。クッキーでも詰め合わせようかな。

干し肉でもいいかな。アイテムボックスの中に牛肉いっぱいあるし


「僕はクッキーとかを詰め合わせて持っていこうかな。移動中とかにも食べれるし」


「エルクくんのクッキー美味しいもんね。喜ばれるかも、私はどうしようかな……」

ラクネはいつもお菓子を美味しそうに食べている。

なので、僕もどんどんと与えたくなる


「エルクくんのクッキーそんなに美味しいの?」

エミリーに聞かれる


「好評ではあるかな。エミリーにもあげるよ。はい」

僕はクッキーを取り出して2人に渡す


「「ありがとう」」


「うん、やっぱり美味しい」

ラクネはいつも通り幸せそうに食べる


「……美味しいわ。すごくおいしい」

エミリーにも好評のようで良かった


僕は机の上にクッキーを並べておく


「まだあるから好きに食べていいよ」


「うん、ありがとう」

「頂くわね」


「ラクネとエミリーは干し肉作れる?作れるなら肉は僕が用意するから作って持っていく?」


「肉ってあの時の肉?」

ラクネがいうあの時とは反省室送りになった時のことだろう


「そうだよ。まだあるから使ってもいいよ」


「いいの?私は助かるけど……」

ラクネはもらってしまっていいのか悩んでいるようだ。

正直、創造スキルでどれだけでも創れるので、気にしなくてもいいのだが、創造スキルの事は内緒にしているので言うことは出来ない。

アイテムボックスの事は知ってるので、僕の故郷の村から持ってきた事になっている。


「あの時の肉って何?」

エミリーに聞かれる。あの時に居なかったので知らなくて当然だ


「僕が肉を持ってて、前に焼いて食べたんだ。その時の肉がまだ残ってるから干し肉にして持っていったらどうかなと」


「貴族様だし干し肉を持っていくのはどうなのかな?」

エミリーの言う通りかもしれない。御中元の感覚でハムみたいな物として、干し肉って言ったけど貴族に渡すってなると確かに微妙なチョイスに思えてきた。


「でもエルクくんの持ってるお肉はすごく美味しいんだよ。ダイスくんも美味しいって言ってたし。エルくんがいいなら私は干し肉持ってくよ」

ラクネは干し肉に決めたらしい


「作れるの?」


「お母さんが作れるはずだから教えてもらうよ」


「それじゃあ、今日の帰りにラクネの家に行くよ。作るのも時間かかると思うし」


「ありがとう」


「エミリーはどうする?」

僕はエミリーに聞く

あと決まってないのはエミリーだけだ


「何がいいのかわからないわ。何か買うお金はうちには無いし、何か作るにも貴族様が喜ぶものなんて作れないわ」


困っているエミリーに僕はアイテムを渡す。ここまで御中元をベースに考えたのでこれも定番だ。たぶん


「これは石鹸?それにしては随分と白いけど」

エミリーの言う通りこの世界の石鹸は白といっても灰色に近いのだ。だからこそ喜ばれる可能性はある。


「そう、石鹸だよ。あとはこれが髪の毛用だからセットで渡すといいかも」

僕はシャンプーとリンスも取り出す。これはビンに詰めてある


「こんな高そうな物さすがに貰えないわ」

エミリーは遠慮した。これも創造で作っただけだから別に気にしなくてもいいのに……。

シャンプーとリンスは創るのにかなり苦労したけど、前世の物と比べてもいい感じの物が出来たと思う。

なんたら成分配合!みたいのは入ってないと思うけど……


「なんで、エルクくんは学校に石鹸持ってきてるの?髪の毛用?まで」

考え事をしていたらエミリーに言われた。

また何も考えずに行動してしまった


「……ラクネにあげる約束してたんだよ」


僕はラクネに振った。

ラクネはアイテムボックスの事を知ってるので察してくれると助かる


「う、うん」

よし、ラクネは肯定してくれた


「ラクネちゃんはこんなに高そうな物もらってるの?」

矛先がラクネに向いてしまった

エミリーにはラクネが貢がせているように見えたのだろうか?


「この石鹸、僕が作ってるんだよ。使い心地を聞こうかと思って試してもらう約束なんだ」


「そうだったんだ。ラクネちゃんごめんね」

ふぅ、なんとか誤魔化せた。

どうせなので、本当にラクネにプレゼントしよう


「後で渡すつもりだったけど、渡しちゃうね」


「…ありがとう」

ラクネはよくわからないまま受け取る


「そういう事だから、僕にとってはこの石鹸そんなに高くないんだよ。材料費だけだからね。エミリーの手土産にしていいよ」

材料費は僕の魔力だけど……


「でも、やっぱり悪いわよ」

エミリーは強情のようだ


「だったら3人からにしよう。3人からクッキーと干し肉と石鹸を渡そう。ラクネもそれでいいよね?」


「うん、私はそれでいいよ。元々、エルクくんからお肉分けてもらうんだし」


「はい、決まりね」

エミリーが否定する前に僕は決めてしまう。

多分そうしないとエミリーはいつまでも断り続けるからだ。

エミリーは複雑そうだ


「どうせなら、干し肉もみんなで作ろうか?それならエミリーもいいでしょ?ラクネの家に押しかけても大丈夫かな?」


「うん、いいよ」


「じゃあ、放課後にラクネの家に集合ね」


僕達は放課後、ラクネの家で干し肉を作る下処理をおこなった。

干すのは時間が掛かるのでラクネに任せた

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