第57話 試験結果

学院長視点


「学院長、お待たせしました」

1年Aクラス担任のシリウス先生が入ってきた


「呼びつけて悪かったな。早速だが話を聞かせて欲しい。一応、前もって知っている事もあるが、確認のためにも初めから頼む」


「わかりました。まずはエルク、ダイス、ラクネの3人のチームですが採点をするならば満点以上です」


「そうなるな。だが、今回の目的としてはそれで良かったのか?シリウスくんの目的とは異なるのだろう?」


「目的とは異なりますが、いい経験になったかと思っています」


「そうか、それならいいが……。話の続きを頼む」


「はい。まずは攻略に掛かった時間ですが、一応測定しています。大体3時間です」


「……早すぎないか?」


「ええ、私もそう思います。ボルドさんが言うにはほとんど階段に向かう最短ルートを通ったらしいです」

そんなことが可能なのか?


「元々、ダンジョンの地図を持っていたのか?」


「いえ、エルクが何かやっているようです。何をしているかはわかりません。聞けば教えてくれるかも知れませんがね」

まあ、シリウスくんの教育方針を考えると聞きにくいのだろう


「気にはなるが、いいだろう」


「次ですが、魔物の位置が分かるようです」


「魔力感知のスキルが使えるってことか?」

獲得しているものは極めて少ないが、魔力感知のスキルを持っていると、魔物の核が放つ魔力を感知して位置が分かることがあると聞いたことがある。


「そうかもしれません。死角の位置にいる魔物を把握していたと聞いているだけです」


「これもここで話していても、憶測の域を出ないか」


「そうですね。では、次にいきます」


「まだあるのか?」

私は聞いてしまった。表情からまだあるのは分かっていたが……


「まだまだあります」

まだまだあるのか。わかってはいたけど、規格外すぎるな……


「そうか、シリウスくんにも苦労をかけるな。……続きを頼む」


「次はトラップについてですね。学院長もご存知ですが、今回の試験の目的の1つになります。トラップについてはまだ教えていませんので引っ掛かるのが前提として、どう対処していくのかを評価する予定でした。しかしあのチームはトラップに掛かりませんでした。しかもほとんどのトラップは解除したようです」


「トラップは人工で仕掛けたものだったのだろう?見つけやすくなってたのではないのか?」


「初めの方の何個かは注意すれば気づけるでしょう。気づくかどうかも評価基準ですので。しかし、途中からのトラップは学生には普通無理です。試験後にギルドに確認した所、エルクはトラップに関しては、スキルか技術かは分かりませんが自信を持っているようです。詳細は教えてもらえませんでしたが、遺跡の調査を受けたこともあるそうです」


「なるほどな。遺跡調査が出来るならトラップを解除する事もできるか……」

思っていたよりもエルクくんは器用なんだな


「後は10層のボス戦です」


「あそこのダンジョンの10層にいるボスはオーガだったな」


「はい、これも本当は倒せなくても大丈夫な試験です。どこまで戦えるかを見ています。絶対無理な相手ではないので、倒せれば評価が加点されます。その為にベテランの冒険者を同行させているわけですね。あのチームは、実質ダイスの攻撃1撃で倒したようです」


出来ない事はないが、中等部の学生が1撃で倒すというのは難しいはずだ

「詳しく頼む」


「まず、エルクが魔法を使ったようです。なんの魔法かはわからなかったとのことですが、多分支援魔法でしょう。エルクが身体強化と魔法威力強化の魔法が使えるのは確認してますのでそのあたりでしょうか…。その後、ラクネがオーガの前に壁を出して視界を遮ったあと、ダイスが火魔法でオーガの注意を引きつつ背後に回り込んで後頭部に一撃入れたようです。オーガの背後の地面が盛り上がっていたとのことなので、ラクネかエルクがサポートしたと思われます」


「エルクくんがいる時点でオーガには勝てるとは思うが、聞いている限りだとチームの連携力が素晴らしいな」


「はい。私もそう思いました。他と違い、ボス戦に関してはエルクの特異性と言うよりはチームが優れていました」


「ダイスくんとラクネくんも優秀な生徒だからね」

ダイスくんの成績は以前から同学年と比べると頭ひとつ抜けていたからな。

ラクネくんもここ最近の成績の伸びが素晴らしい


「そうですね、ダイスは以前からですがラクネもクラス内で上位に入ってきています」


「ラクネくんはリーナくんのことがあったからね。やっと自分の事に集中することが出来る様になったんだろうね」


「喜ばしい限りです。話を戻します。最後にボルドさんが叫んでいなくなった件についてです」


「あ、ああ」

聞きたくない話の番が来てしまった。


「学院長にも話は入っているはずですが、冒険者ギルドから苦情が入っています」


「なんでこうなった?予定では生徒の反応を見るだけだったはずだが……」


「他の生徒は想定の範囲内で、動揺するか、探すかのどちらかが多かったのですが、あのチームはダイスが冷静に対応したようです。それで助けを呼びに行くことになりました」


「その場合は冒険者がダンジョンの入り口に先回りしておくのではなかったのか?先回りできなくてもダンジョンから出たらすぐに声を掛ける手筈ではなかったか?」

騒ぎにならないように念入りに話をしていたはずだ。


「他のチームの場合はその通りです。……しかしあのチームは移動速度が早すぎて、冒険者が本当に置き去りになりました。途中で見失ってしまったので、同行するのは諦めて、ダンジョンの入り口で3人が出てくるのを待っていたそうですが、既に3人は外に出た後でした」


「地図を持っているボルドくんよりも先に地上に出たのか……。これはボルドくんを責める事はできないな。ギルドには私からも再度詫びを入れておくことにしよう」


「お願いします。報告は以上です。他のチームの結果はこちらにまとめてありますので読んでもらえれば分かるかと思います」


「ご苦労だった。これからも頼む」


「かしこまりました」


シリウス先生が部屋から出て行く


「ふぅ、皆よく育ってくれているようだな。ふふ、将来が楽しみだ」

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