第5話

 王都の自宅に戻ってきたのはここを出て8ヶ月後のことだった。久しぶりに大木に挨拶をすると、


『何かを得た様だな』


 2人は大木の師に旅の報告をする。


『数年、いや数十年に一度程度あるかないか、真っ暗な夜を飛行する獣の強い気配を感じることがある。滅多にないがな』


「となると今回あそこで会えたのは幸運だったってことですね」


『そうなる。幸運というかお主達はそう言う運命だったんだろう。頂いたものを大事にするが良い』



 お礼を言って自宅に戻った2人は2日ほど家で過ごしてから王都に向かった。まずはギルドに顔を出して帰ってきたことを伝える。ギルマスはちょうど打ち合わせでだったので受付嬢に伝言を頼むとそのまま今度は王城を目指して市内を歩いていった。


 顔パスでいくつかのゲートを通過して城に入るとこの前と同じ様に国王専用の談話室に案内される。少し待っているといつもの3人が兵士が開けた扉から部屋に入ってきた。リックがもうすぐ来ると兵士から聞いていたので部屋で立っていた2人。3人と挨拶をしてリックがソファに座ると他の4人もソファに座る。


「久しぶり。何か雰囲気が変わったか?」


 リックが言うとマイヤーとマリアも雰囲気が変わっていると後を続ける。


「いろいろあったのよ。それを報告しようと思って」


 そうしてアイリーンが話しだした。流石にドラゴンの話になると


「ちょっと待て、本当に存在しているのか?」


 思わずリックが聞いてくるがマリアにとりあえず最後まで聞きましょうと窘められる。アイリーンが続けて話をしていくと口こそ挟まないが聞いている3人は驚愕した表情になっていった。


 2人の話が終わるとしばらくその場に沈黙が漂う。ようやくマイヤーが口を開いた。


「話が凄すぎて言葉もないんだが、とにかくドラゴン、龍族は存在している。彼らは普段は北の魔族との国境になっている山の奥にいて産卵のために南下してその岩場の奥で卵を産み雛をかえしている」


 整理する様に言うマイヤーの言葉に頷く他のメンバー。


「そしてレスリーとアイリーンはその洞窟でドラゴンにあって友となる証をもらってきた。そういうことだよな?」


 その通りよとアイリーン。


「言葉にするとそれだけなんだけどさ、実際は2人ともとんでもないことをしてきてるぞ」


 それまで黙っていたレスリーがリックの言葉に答える。


「その岩山の洞窟にドラゴンがいるとは知らなかったしな。登っていると強烈な強者の気配は感じてきたけどその中に全く殺気は感じられなかったんだよ。それで実際に会ってみるとまた想像以上だった。俺達人間は束になってかかっても絶対に勝てないな」


 レスリーは洞窟での出来事を思い出す様にしながら言う。隣でアイリーンも運が良かったよねと言ってその言葉に頷くレスリー。


「レスリーとアイリーンには毎回驚かされっぱなしだな。エルフの森を見つけたと思ったら今度はお伽話でしか存在しないと言われていたドラゴンと会ったとか」


 リックが驚愕して言ってからすぐに言葉を続けて


「運が良かったというか2人は持ってるんだろうな。でないとそんな出会いはないぞ」


「そうよね。数十年ぶりの産卵のタイミングでその岩山に登っていったなんて偶然という言葉だけじゃないわね」


 マリアもリックの言葉に同意している。レスリーとアイリーンもそうかも知れないと言ってからレスリーが3人を見て、


「ドラゴンの産卵場所になっているのはもちろんだが、それ以外でもこの中央部の山々は魔獣が生息しているが基本的には土壌も良くて木々も皆大きく成長していける場所だ。木々の緑も濃かったし水は澄んでいて綺麗だった。美味しい空気をたくさん作り出している山々だった。開発はしない方がいいだろう」


「もとより開発する気はなかった場所なんだけど今の話を聞くとこのまま放置しておくのが良さそうだ。わかった、中央部の山々には手をつけない」


 国王の言葉に頷く4人。マイヤーはおそらく後日王城に詰めている官僚達に通達を出すだろう。それで中部の山々は開発から免れて自然のままでいられる様になる。


「それにしてもその証というのを貰うと魔獣の方から避けていくというのは凄いな」


「リックの言う通りだ。ダンジョンで効果があるかどうかはわからないがフィールドではほぼ無敵になるんじゃないか?」


「無敵かどうかはわからないがアイリーンと2人で国中をウロウロするときに楽になるのは間違い無いな」


 3人の言葉にもレスリーとアイリーンは冷静だ。2人とも自分たちが特別な人間だとは全く思っていなくてただ師と仰ぐ大木や仲間である国王陛下の為に国を見て回っているだけだと思っている。いつも通りの自然体だ。エルフの森に行けたのも偶然、ドラゴンと会ったのも偶然。目的がそれではないからいつも自然に振る舞えるのが2人の強みだ。もっとも当人達はそれには気づいてはいないが。


 

 一方で城にいる3人の目には目の前の2人は特別な人間に映る。今までずっと謎となっていたエルフの森を見つけてきたかと思うと今度は伝説のドラゴンだ。


 こうなるともう風水術士とか言ってる場合ではない。レスリーとアイリーンこそがこの世界で選ばれた人間ではないのかとさえ思ってしまう。


「ところで新しい農地や畑の開拓は進んでいるの?」


 話が途切れたところでアイリーンが聞いてきた。これには宰相のマイヤーが答える。


「もちろんだ。辺境領内にある新しい農地は既に一部で収穫が始まっている。予想通り、いや予想以上の収穫量となりそうだ」


 それは良かったと2人。


「ドーソンの乳業もようやく本格的に動き出した。間もなくドーソン産の牛乳が市場に出回るだろう、受けている報告だと放牧は極めて順調だそうだ」


「2人があちこち廻ってくれて提案してくれている事案については全てこちらでもフォローしている。そして今のところ全てが順調に進んでいる」


 リックが言うとその通りだとマイヤーも言い、続けて


「食料については自給自足どころか国家として備蓄できる程の量が確保できそうだ。これで国民の生活が苦しくなることはないだろう。そして北の鉄鉱山だが、きている報告によれば坑道を掘ってみると地質学院が推定したいた以上に大きな鉱脈だったらしい。こちらは現在様々な設備を運び込んでいるので来年からの稼働になるがこれにも大きな期待が寄せられるな」


 レスリーは聞いていて自分たちがやってきたことがすぐに具現化されているのを聞いて安心していた。仲間であり国王であるリムリック2世、そして宰相のマイヤー達が全面的にレスリーとアイリーンを信用して進めてくれている。


 もしここまで親しくなければおそらく提案をしても拒否されるか採用されるにしても相当な時間を必要としただろう。彼らと知り合えて良かったと改めて思っていた。


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