第4話

「お伽噺の話かと思ってたけど本当にいたんだね」


 二人は岩山の裾で野営をして夕食を取っている。アイリーンの言葉に顔を岩山の上に向けて見上げて


「ずっと昔からあそこで卵を産んではかえしていたんだろう。触っちゃいけない場所だよ」


「本当だね」


「どうする?」


 アイリーンの言うどうするとはこのことを仲間の3人に言うかどうかだ。レスリーはしばらく考えてからアイリーンを見ると、


「やっぱり彼らには言っておこう。ここの開発はまずしないだろうけど龍族が存在していることは国王として知っておいてもらった方がいいだろう」


「そうね。彼らが交戦的ではないってことも含めて説明しておいた方がいいかもね」


 岩場で野営をした翌日、二人はまた南を目指して山の中を進んでいった。ドラゴンがいた岩山の周辺から少し離れるとそこは再びランクSの魔獣が徘徊していた。魔獣も強大な力を持っているドラゴンがいる場所には近づかない様だ。


 ところがランクSの魔獣が徘徊するエリアに入ってしばらくして気がついた。2人に対して魔獣が襲ってこないのだ。魔獣の気配を感知するとアイリーンが弓矢で遠隔攻撃をする。1矢か2矢撃つとランクSの魔獣が倒れるが。倒すのはこうやって弓を撃つ時だけだ。今までと違って向こうから襲ってくることがない。むしろ避けている風にすら見える。


 3時間程歩いたところでアイリーンがその場で立ち止まり、


「ドラゴンから友になった証を貰ったからかしら。高ランクの魔獣も近づいてこないのよ」


 レスリーも同じことを気づいていた。そしてその原因を考えるとドラゴンから出た光を浴びたのが原因としか考えられない。


「恐らくそうだろう。俺達にはわからないが魔獣にはわかるんだ。ドラゴンと同じ匂いというか強者の雰囲気が」


「じゃあ普通に歩いていると魔獣は襲ってこないってことになるのかな?」


「恐らくな。このエリアの魔獣だけじゃなく大陸中の魔獣が俺たちを見ると避ける様になるんじゃないか?」


 そう言うとそれはそれで楽しくないわねと言うアイリーン。剣を振う機会が減るのをボヤいていると、


「矢でわざと軽い傷をつけてから剣で切り裂くのはどうだ?狙いを外すのもアイリーンなら難しくないだろう?」


「本末転倒な気もするけどそれしかないか。頂いた証だし文句を言っちゃあダメよね」


「そうだよ。普通じゃ絶対に貰えないものだからな」


 レスリーとアイリーンの予想通りドラゴンが二人に与えた友人の証の光はドラコンが認めた友つまりドラゴンと同等に渡り合える強さを持つと認めた者に渡される光だ。その光はドラゴンの精気でありそれをもらった二人は常にドラゴンのオーラを発していることになる。


 普通の人間だとまず気が付かないが魔獣はその強者のオーラを感じるとるとそこから離れようとしていく。二人が森の中を歩いても魔獣の方から二人を避けていくことになった。


 アイリーンは最初こそ若干不満気だったが途中からはむしろこんなすごい証を貰えたことに感謝しレスリーと二人で山の中を探索しながら南に進んでいった。


 もうどこで立ち止まっても周囲には魔獣の気配がない。そんな中レスリーは山の間を流れている川の水を見、木々の生え具合や土壌を見ながら山の中を進んでいく。


 二人がラウダーの街を出て山間部に入ってから4ヶ月後、二人は連峰を抜けて草原に出た。そうしてそのまま歩いていると大きな街道にぶつかった。


 街道を歩く商人に聞くと左に行くとウッドタウン、右に行くとアルフォードの街に出るらしい。


 その場で話し合って二人は街道をアルフォードの街に向かって歩いていった。そうして4日後の昼頃にアルフォードの街の高い城壁が見えてきた。




「久しぶり」


 ギルマスのスティーブが執務室のソファを進めながら声をかけてくる。そうして2人座ると、


「何か2人とも雰囲気が前と違うぞ。うまく言えないが要はまた強くなってるって感じかな。ただその強さの質が違う様だ。単に強いだけじゃないというかそれに加えて何かがあるというか」


 一部の者、戦闘能力の高い者には2人の雰囲気がわかる様だ。流石にギルマスだと思いながらも、


「山の中を高ランクの魔獣を倒しながら進んできたからじゃないか?」


 そう言うとそうかもなとその話はそれで終わった。


 2人はラウダーの東から連峰を縦走してアルフォードの東まで歩いてきたことを話するとびっくりする。


「山の中ってあの連峰の中を踏破してきたのか。高ランクがうじゃうじゃいただろう?」


「確かにランクAとかSとかが徘徊してたけど、レスリーと2人ならなんとかなったわよ。危ない場面もなかったし」


 あっさりというアイリーンにまぁお前達ならそうだろうなと同意するギルマス。今回は中部の山を踏破するのが目的だったんでここで数日休んだら王都に戻るつもりだと話をしてギルマスの執務室を出た2人。


 昼過ぎの中途半端な時間帯だったがギルドの中には数名の冒険者達がいて2人を見ると声をかけてくる。


「よう、久しぶり」


「また国内をうろうろしてるのかい?」


「そうなの。中央部の連峰を踏破してきたところ」


 アイリーンの言葉を聞いてびっくりする冒険者達。あの秘境の山の中を抜けてきたのかよ、とか相変わらずやることが半端ないな、と酒場がざわざわとする。


 酒場にいる冒険者達は目の前にいる2人の実力は知っているとは言え毎回その行動には驚かされている。


「今回はそれが目的だったからな。数日休んだら王都に戻る予定だ。アルフォードにはまたくることになると思う」


 レスリーが落ち着いた声で言うと納得する冒険者達。荒くれ者というか気が強い冒険者達もレスリーの口調を聞くと落ち着いてしまう雰囲気を持っている。


「またゆっくり来てくれよな」


 その声に片手をあげて応えるとギルドから出た2人は通りを歩いていつもの雑貨屋の扉を開けた。


 綺麗な鈴の音がして扉が開いて中に入るとそれに合わせる様に奥からオズが出てきた。そうして2人を見ると、


「今までと全然違うね。何があったんだい?」


 いきなり聞いてきた。2人が顔を見合わせて黙っていると


「普通ならまず気が付かないし見えないだろうが2人からすごいオーラが出ているのが私には見えるんだよ。そう簡単に手に入れられるものじゃないね」


 何かとんでもない魔獣を倒してきたのかい?と聞いてくるオズ。2人はもう一度顔を見合わせる。レスリーが頷くとアイリーンが顔をオズに向けて、


「オズさんだから言うけど」


 テーブルを勧められた2人は椅子に座ると山の中でのドラゴンの話をし始めた。黙って聞いていたオズはアイリーンの話が終わると大きなため息をついて、


「本当にいたんだね。エルフの間でもドラゴンは空想の生き物として認識されているんだよ。そうかい、本当に存在していたのかい」


 そう言ってから続けて


「それで納得だよ。ドラゴンの証ってのかい?オーラをもらったからだね。2人の雰囲気が以前とは全く違っている」


「証をもらってから山を歩いても魔獣が近づいてこないんですよ。むしろ避けるというか逃げていくというか」


 アイリーンの言葉にそりゃそうだろう。2人には絶対に勝てない相手だと本能的に理解しちまうからね。それほどのオーラだよと言う。

 

「もちろん、私は誰にも言わないから安心しな。それにしてもあんた達2人はどこまで強くなってくのかねぇ」


「強くなりたいと言う気持ちよりもこの国を良くしたいという気持ちの方がずっと強い。そして国を良くするために自分たちが強くなる方が良いのであればそれはそれで構わないと思っている」


 レスリーの言葉にその通りだよと頷くオズ。だからドラゴンも友として認めてくれたんだろうと目の前の2人を見ながら思っていた。


「いつでもおいで。今度きたら又強くなってるんじゃないのかい?」


 オズの軽口を聞きながら店を出た2人はアルフォードでの常宿になっているリックの一軒家に向かっていった。

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