第1話

 調査隊が王都に戻って数ヶ月後、王都から北に向かって多くの人間が移動していった。本格的に北西部の鉄鉱山の開発が始まったのだ。


 調査隊が持ち帰ったサンプル及び彼らの調査結果からあの山にはかなりの量のそれも純度の高い鉄鉱石が産出されることがわかり、マイヤーを中心にして鉱山の開発計画が練られた。


 マイヤーはレスリーとアイリーンの忠告を守るべく細かく指示をした上で地質学院に開発の計画書を作成させ、それと基に最終的に出来上がった計画を国王陛下のリックが承認して正式に開発がスタートした。


 レスリーとアイリーンは王都の北の鉱山の開発がスタートしたということを王城に出向いた際にマイヤーから聞いた。


「開発がスタートしたから最初に鉱山を見つけた2人にはきちんと報告しておこうと思ってな」


「わざわざ丁寧にすまないな」


「いや、2人は知る権利がある。当然だよ」


 ソファに座っているリックが言うと隣に座っているマリアも


「元々2人が見つけてくれたんだもの、リックがお礼を言うのは当然ね」


「国王陛下にお礼を言われるってのもな」


 レスリーが言うとアイリーンが


「そうそう。もう国王陛下なんだからさ、もっと威厳持ってもいいんじゃないの?」


「いや、アイリーンのその口調、全く俺に敬意を払ってない様に聞こえるぞ」


 リックの言葉で場が笑いに包まれた。

 

「また旅にでるのかい?」


 ひとしきり報告が終わったところでマイヤーが聞いてくる。


「旅に出るというか歩き回るというのが仕事だからな。そろそろ行くつもりだよ」


 そう言って今度は中部を見て回るつもりだと言うレスリー。


「今までは街道を中心にして見て回ったけど今度は主要街道から外れた場所、細い道や場合によっては道のない場所も見て回るつもりだ」


 レスリーが話す隣で頷くアイリーン。


「ラウダーから南のアルフォードへの街道の東側のエリアを中心に歩き回るつもりなの」


「ラウダーからアルフォードに向かった際に東側に山が連なっているのが見えていた。あの山々が中部から南部の水源になっているんだと思う。だから山の状態を見てくるんだ。山や木々が元気なら川の水も綺麗で養分を含んでいる。となるとその川の恩恵を受けている草木、もちろん人間も安心できるからな」


 2人の言葉に頷く3人。レスリーの見立てに間違いがないのはわかっているので当人達の好きにさせる。人がいない場所を探索するから気をつけてなと言うくらいだ。


「どれくらいの期間を考えてるの?」


 マリアが聞いてくるとアイリーンが


「どうかしら?半年から1年の間くらい?」


 そう言ってレスリーを見る。


「それくらいかな?中部を見たあとでラウダーに戻るかあるいはアルフォードまで抜けるかも決めていないしな。その辺は行き当たりばったりだよ」


「アルフォードに行くならあの家は使ってくれていいからな」


「ありがとう」


「お安い御用さ。2人はそれ以上のことをしてくれている。遠慮なく使ってくれて構わない」


 レスリーとアイリーンがリックにお礼を言ってから


「俺達は旅にでるけどリックは王城に篭りっぱなしか?」


 レスリーが逆にリックに聞く。その言葉に頷くと、


「まだ全ての貴族との顔合わせが終わってないんだよ。毎日何人も会うとこっちも疲れるからせいぜい1日に1家か2家にしてるんだ。それでももうヘトヘトだよ」


「マリアも同席してるんでしょ?」


 アイリーンがマリアの方を見て言うとそうなのよ、と心底嫌な表情になるマリア。


「ああいう顔合わせって言うことが最初から決まっているの。そして私は何も言うことがないからずっと黙ってリックの隣に座っているだけ。もう苦痛でね。でも貴族にしてみたらめったにないチャンスでしょ?長々と口上を述べるのよ。それもどの貴族もほとんど同じ内容でね。まぁいつも途中からは聞いてないけどね」


 その言葉で笑いが起きる。


「本当に辛いのよ。さっさと終わってお茶でも飲みたいって思っても勝手に席も立てないしさ」


「国王妃だから仕方ないんじゃないの?」


「まぁね。それにまだ私は座って聞いてるけど、マイヤーはリックの後ろでずっと立ったままなのよ」


 マリアが言ったのでレスリーとアイリーンが顔をマイヤーに向けると、


「立っているフリをしながらリックが座っている王座の背に身体を預けて休む術を見つけてからは楽になったよ」


 その言葉に再び笑いが起きる。


「冒険者の時は1日中山の中を歩いて疲れたことが結構あったけど、今から考えるとそっちの方がずっと楽だな。動かずにただじっとして挨拶を聞くのがこれほどとはね。マリアが言う通りである意味拷問に近い状態だよ」


 とマイヤーが続ける。


 3人はそう言っているがマリアの言う通り貴族、特に中級から下級の貴族にとっては国王陛下に謁見ができるチャンスは滅多になく、せっかくの機会だからとかなりの準備をして登城してきているのは想像に難くない。この機会に国王陛下の覚えめでたくと考えるのが普通だろうなとリックとアイリーンは思っている。


 暫く笑ってからリックが2人を見て、


「そう言う訳で俺達は当分城から動けない。ここで2人の吉報を待っているよ」


「わかった。フィールドワークはレスリーと私でしっかりやっておくから3人は貴族のお相手を頼むわよ」


 その後暫く雑談をし王城を後にした2人は自宅に戻り、旅立ちの準備をする。

 そして数日後、冒険者の格好になった2人は師と仰ぐ大木に挨拶をする。


「では行ってまいります」


『留守の間は任せておけ。しっかりとあちこちを見てくるんだぞ』


 大木に挨拶を済ませた2人はまずは王都に出向いてギルドに顔を出す。2人の顔は王都でも有名になっていた。ギルドに入った2人に気づいた冒険者達が2人を見てそして顔を寄せ合うと、


「レスリーとアイリーンだ」


「ランクはAだが実力はそれより数段上だってここのギルマスが言ってたな」


「以前鍛錬場で2人の鍛錬を見たけど2人とも半端ないぞ」


 ギルドの奥に消えていく2人を見ながらそんな話をする王都の冒険者達。


「また出かけるのか?」


「今度は中部の山の中を見てくるつもりなの」


 ギルマスのアレンの言葉に答えるアイリーン。2人とも見たことがない高級そうなローブを着て落ち着いた表情で座っているがアレンには2人から強者のオーラが出ているのが見えていた。


「2人の行動は自由だ。好きな場所に出向いて探索してくれ」


 普通なら山の中に行くといえば気をつけろと声を掛けるギルマスだが目の前の2人にはそんな言葉は不要だ。


「ありがとう。王都に戻ってきたらまた顔を出しますね」

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